小特集 4. ロボット介護機器の評価環境の整備について

電子情報通信学会 - IEICE会誌 試し読みサイト
Vol.108 No.4 (2025/4) 目次へ

前の記事へ次の記事へ


ロボット介護機器の展開に向けた環境整備

小特集 4.

ロボット介護機器の評価環境の整備について

Developing Guidelines for Clinical Evaluations on Robotic Devices for Nursing Care

梶谷 勇

梶谷 勇 正員 国立研究開発法人産業技術総合研究所人間拡張研究センター

Isamu KAJITANI, Member (Human Augmentation Research Center, National Institute of Advanced Industrial Science and Technology, Kashiwa-shi, 277-0882 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.108 No.4 pp.318-323 2025年4月

©2025 電子情報通信学会

Abstract

 本稿では,国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)事業で実施するロボット介護機器の評価に関する環境整備事業を中心に,開発事業者が介護現場に評価を依頼する際に参考にするガイダンスの作成プロセスとして,対象読者や全体コンセプトの設定,ガイダンスのビジュアルデザインや構成などの決定プロセスなどについて述べる.更にガイダンスの第一版,第二版の概略と,それらの内容を補足する解説編の内容の概略についても紹介する.

キーワード:介護,ロボット介護機器,介護ロボット,評価,ガイダンス

1.は じ め に

 2024(令和6)年7月12日に公開された,厚生労働省「第9期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について」(1)等で指摘されるように,2022年度時点での介護職員数(約215万人)に対して,2026年度には約240万人,2040年度には約272万人の介護職員が必要であり,2026年で約25万人,2040年で約57万人の介護職員数を上積みする必要がある.これに対して処遇改善や魅力向上等による人材の確保に加え,生産性向上等の業務改革が対策として掲げられており,生産性向上の取組みの一環としてロボット介護機器やICTなどの介護テクノロジーの導入と活用が期待されている.

 先行するAMED(国立研究開発法人日本医療研究開発機構)事業や厚生労働省「介護現場の生産性向上に向けた介護ロボット等の開発・実証・普及広報のプラットフォーム事業」(以下ではプラットフォーム事業)などを通じた開発者向けの支援の結果,多くのロボット介護機器が市場で入手できる状態になった.更に購入時の費用の補助などの恩恵もあり,利活用が徐々に増え始めている.しかし,国内の介護現場の全体から見るとまだまだ十分に広まっているとは言えない.例えばデジタル庁の「介護現場の生産性向上に関するダッシュボード」(2)での「ICT・介護ロボット等の導入事業者割合」は,本稿執筆時点(2024年10月)で目標値50%に対して31.6%であった.また,施設等で購入した後に,効果的に活用できなかったり,業務の妨げとなってしまったりしていることも指摘されている(3)

 このような状況において,まだまだ発展途上にあるロボット介護機器側の課題が残っていることはもちろんであるものの,それだけではなく,介護現場における課題等に対して適切なロボット介護機器等を選択して活用できていないため,結果的に効果的な活用ができなかったり,業務の妨げとなったりする場合があると考えた.この解決のためには,介護現場におけるロボット介護機器等の選択と購入において適切な意思決定が行われなければならず,機器メーカや代理店等から,意思決定に必要な情報が提供されなければならない.

 意思決定に必要な情報としては,機器の製品コンセプトや基本仕様,開発中に実施する性能や安全性に関する評価の結果はもとより,実際の使用場面を踏まえた評価の結果や活用のノウハウ等が必要である.もし介護現場で実施する評価等が適切に実施されず,信頼できる評価結果やノウハウ等が介護現場に届かないことになると,適切な意思決定を行うことが困難になってしまう.

 本稿では,令和3年度AMED事業「ロボット介護機器開発等推進事業(環境整備)」の中で,2021(令和3)年度~2023(令和5)年度にかけて実施された「ロボット介護機器の海外展開等に向けた臨床評価ガイダンス等の研究開発」における環境整備活動のうち,開発事業者等が介護現場に評価を依頼する際に,評価を適切に行うことができるように参考にしてもらうガイダンスの作成について報告する.以下,ガイダンス作成に先立って実施したコンセプト設計について述べた後,2022(令和4)年度末に先行して公開したガイダンスの第一版と,2023(令和5)年度末に公開したガイダンスの第二版,そしてガイダンスの内容を補足する解説編についても紹介する.なおガイダンスの策定にあたっては,国立研究開発法人産業技術総合研究所内の事業参加メンバーでの議論や調査などを通じて作業を進めるとともに,外部の有識者らによる検討会を構成し,多様な観点からの意見を集めながら修正を繰り返して完成させた.


続きを読みたい方は、以下のリンクより電子情報通信学会の学会誌の購読もしくは学会に入会登録することで読めるようになります。 また、会員になると豊富な豪華特典が付いてきます。


続きを読む(PDF)   バックナンバーを購入する    入会登録

  

電子情報通信学会 - IEICE会誌はモバイルでお読みいただけます。

電子情報通信学会誌 会誌アプリのお知らせ

電子情報通信学会 - IEICE会誌アプリをダウンロード

  Google Play で手に入れよう

本サイトでは会誌記事の一部を試し読み用として提供しています。