解説 視覚による心理的な影響とITS分野への適用に向けて

電子情報通信学会 - IEICE会誌 試し読みサイト
Vol.108 No.4 (2025/4) 目次へ

前の記事へ次の記事へ


 解説 

視覚による心理的な影響とITS分野への適用に向けて

Psychological Impacts of Visual Perception and Their Application in ITS Field

森 博子

森 博子 愛知淑徳大学人間情報学部感性工学専攻

Hiroko MORI, Nonmember (Faculty of Human Informatics, Aichi Shukutoku University, Nagakute-shi, 480-1197 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.108 No.4 pp.345-349 2025年4月

©2025 電子情報通信学会

A bstract

 自動車運転時には渋滞等が原因でストレスが生じることがある.運転時のストレスを解消するために,ITS(Intelligent Transport Systems:高度交通システム)分野では,リアルタイムの掲示板など様々な施策が行われている.しかしながら,これらの施策にはコストがかかり,渋滞の解消等も容易とは言えない.一方で,人間の五感のうち視覚は87%を占める.色彩や‘もの’,周辺車両が視界に入ることで,リラックスやストレスをもたらすことがある.本稿では,視覚が心理に及ぼす影響について研究例を通じて解説し,ITS分野への効果的な適用について考察する.

キーワード:視覚,心理的影響,ITS,リラックス,ストレス

1.は じ め に

 自動車運転時には,渋滞に遭遇して移動がスムーズに進まないことや,予定どおりに目的地に到着できないことからストレスが発生する.また,長距離移動に伴う長時間の運転によって疲労が蓄積されることでもストレスを引き起こす.これらの心理的ストレスは,運転者の注意力や安全性に悪影響を与え,事故のリスクを高める可能性がある.

 そのような運転時のストレスを軽減するため,ITS(Intelligent Transport Systems:高度交通システム)分野では,リアルタイムの交通情報提供やナビゲーションシステムなど,様々な施策が導入されている(1).しかしながら,これらの施策には高コストが伴い,全ての場面で渋滞の解消が容易であるとは言えないのが現状である.

 一方で,人間の五感の中で視覚は87%(2)を占めるため,視覚から得た情報でリラックスやストレスをもたらすことができれば,運転者の心理的ストレスを軽減し,運転環境の安全性を向上させる可能性がある.

 本稿では,視覚が心理に及ぼす影響についての研究例を通じて解説し,ITS分野への効果的な適用について考察する.2.では,周辺車両が運転者に及ぼす心理的影響を述べる.3.では,色彩が時間感覚に与える影響について述べ,4.では,‘もの’(造花)が心理に与える効果について解説する.5.では,それらのITS分野への適用について考察する.

2.周辺車両による心理的影響

 運転中に最も頻繁に経験する感情的なストレスは「イライラ」である.その主な原因は,渋滞に遭遇して移動がスムーズに進まないことや,予定どおりに目的地に到着できないことと言われるが,実は,視覚からの影響もあり得る.従来の研究では,道幅や道路環境,歩行者とのすれ違いについて検討がなされている(3),(4).また,周辺車両に関して,合図なしに割り込む車両,突然減速する車両,優先関係を無視する車両,あおり運転する車両(5)など,他車の行動に起因することも多い(6)

 筆者らは,視覚に入る周辺車両の存在がドライバにどれほど心理的影響を与えるかを,ドライビングシミュレータを用いて実験的に検討した(7).その結果について解説する.


続きを読みたい方は、以下のリンクより電子情報通信学会の学会誌の購読もしくは学会に入会登録することで読めるようになります。 また、会員になると豊富な豪華特典が付いてきます。


続きを読む(PDF)   バックナンバーを購入する    入会登録

  

電子情報通信学会 - IEICE会誌はモバイルでお読みいただけます。

電子情報通信学会誌 会誌アプリのお知らせ

電子情報通信学会 - IEICE会誌アプリをダウンロード

  Google Play で手に入れよう

本サイトでは会誌記事の一部を試し読み用として提供しています。