特集 6. HAPSを介した携帯端末向け直接通信システムの高度化技術と災害対策への応用

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Vol.108 No.5 (2025/5) 目次へ

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通信インフラの災害時対応及び防災・減災に向けた通信技術
――令和6年能登半島地震を風化させないために――

特集

HAPSを介した携帯端末向け直接通信システムの高度化技術と災害対策への応用

Enhancing HAPS-based Direct Communication Systems for Mobile Devices: Technology and Applications in Disaster Management

外園悠貴 谷崎雄太 深澤賢至 森広芳文 岸山祥久

外園悠貴 正員 (株)NTTドコモ6Gテック部

谷崎雄太 NTTコミュニケーションズ株式会社イノベーションセンターテクノロジー部門

深澤賢至 (株)NTTドコモ6Gテック部

森広芳文 正員 (株)NTTドコモ6Gテック部

岸山祥久 正員:シニア会員 (株)Space Compass宇宙RAN事業部

Yuki HOKAZONO, Yoshifumi MORIHIRO, Members, Kenji FUKASAWA, Nonmember (6G-Tech Department, NTT DOCOMO, INC., Yokosuka-shi, 239-8536 Japan), Yuta TANIZAKI, Nonmember (Innovation Center Technology Department, NTT Communications Corporation, Tokyo, 100-8019 Japan), and Yoshihisa KISHIYAMA, Senior Member (Space RAN Business, Space Compass Corporation, Tokyo, 100-0004 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.108 No.5 pp.449-455 2025年5月

©2025 電子情報通信学会

abstract

 筆者らは,超カバレージ拡張の実現に向けてHigh-Altitude Platform Station(HAPS)による上空からの通信エリア拡張に注目し,その早期実用化と高度化の研究開発を進めている.HAPSは災害時に移動障害のない空中を移動して被災地に駆けつけることで,迅速に通信エリアを形成できる利点を有している.本稿では,サービスリンクの多素子アンテナMIMO技術による高速大容量化とTDD周波数帯活用についての研究開発進捗について述べるとともに,令和6年能登半島地震を例にHAPSの災害対策への初期検討結果について示す.

キーワード:HAPS,NTN,超カバレージ拡張,災害対策

1.は じ め に

 第5世代移動通信システム(5G)の高度化(5G Evolution)及び第6世代移動通信システム(6G)の時代において,これまでの移動通信ネットワークでは十分にカバーできなかった空・海・宇宙を含むあらゆる場所への「超カバレージ拡張(用語)」を実現する手段として,筆者らは非地上ネットワーク(NTN: Non-Terrestrial Network)(用語)の研究開発を進めている(1).NTNの中でも高高度プラットホーム(HAPS: High-Altitude Platform Station)は,高度約20kmで特定の位置に常駐でき,地上にセル半径約50km以上のカバレージエリアを形成できる.

 HAPS通信サービスの構想は1990年代から存在しており(2),日本の機関による実証実験も2000年代に実施されていた(3),当時は電力やコスト面での課題が残っていたが,近年ではHAPS機体の進化や半導体の小形化等に伴い,機体の電力供給やコスト効率が向上しており,その結果としてHAPS事業が持つ経済的現実性が高まりつつある(4).更に,5G Evolution & 6Gの時代に入ったことで,HAPSからの通信を活用するユースケースが従来に比べて想定されるようになり,より多様な応用が期待できるようになった.

 HAPSは衛星よりも高度が低い成層圏を飛行するため,衛星よりも高速大容量かつ低遅延な無線通信を提供することが可能である.また,災害対策としてHAPSを利用する際には,空中を移動することによって被災地に迅速に駆けつけ,短時間で通信エリアを形成できる利点を持つ.衛星通信でも24時間いつでも通信するために十分な機数の運用や,地上側での衛星通信用アンテナの配備が完了していれば被災時での通信環境提供が可能となるが,HAPSの場合は少ない機数で顧客の携帯端末へ直接高速な通信を提供できる大きな利点がある.一方,低軌道衛星を活用した携帯端末との直接通信も検討が進んでおり(5),HAPSとの回線速度及びカバレージ範囲のトレードオフを考慮しながら,共同の災害対策への適用が期待される.

 筆者らは,HAPSの2026年早期実用化とその先の高度化を目指した研究開発に取り組んでいる(6).早期実用化に向けては,国内成層圏環境でのHAPS通信サービス実証を計画しており(7),技術面/制度面における様々な課題の解決に取り組んでいる.一方,高度化に向けては,サービスリンクにおける多素子アンテナMulti Input Multi Output(MIMO)(用語)技術による高速大容量化や時分割複信(TDD: Time Division Duplex)(用語)周波数帯活用など,HAPSの柔軟なサービス運用に資する研究開発を実施している.

 本稿では,HAPS通信サービスの早期実用化推進と高度化研究開発の進捗について述べるとともに,令和6年能登半島地震を例にHAPSの災害対策への初期検討結果について解説する.


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