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宇宙で使っても壊れないハードウェア開発の最前線
小特集 2.
宇宙機へのニューロモーフィック技術の適用と信頼性
Application of Neuromorphic Technology to Spacecrafts and Its Reliability
Abstract
人間や生物の脳神経機能を再現あるいは模倣するニューロモーフィック技術は,低リソース性や低レイテンシ性から,人工衛星や太陽系探査機のオンボードコンピューティングに対し質的に不連続な変革をもたらす技術として着目されている.本稿では,その代表例であるスパイキングニューラルネットワーク(SNN)を,月惑星着陸機の航法に適用することを試みた結果を示すとともに,信頼性に関連した話題として,放射線による障害がSNNのディジタル実装,アナログ/ハイブリッド実装各々の演算結果にもたらす影響に関する研究例を紹介する.
キーワード:ニューロモーフィック,スパイキングニューラルネットワーク,宇宙機,信頼性
昨今,宇宙開発利用が様々な分野で急速に進んでいる.これを受け,通信や測位,地球観測・リモートセンシングや各種の監視用途などの社会インフラを担う人工衛星においては,オンボードでの演算処理の高機能化が求められている.また,無人機を用いた太陽系探査や科学衛星では,様々な運用の局面で,宇宙機の自律化性能がミッションの成否を左右するケースが多く存在し,機上でのコンピューティング能力の向上に対する期待は極めて大きい.しかしながら,宇宙機上の計算機に搭載される演算素子は,放射線に対する耐性や高い信頼性の要求を満足するため,特殊な仕様や検証が必要であり,それに伴う開発サイクルの長期化・低頻度化から,現状,地上用部品との比較で1~2桁の性能差がある.また,計算機を高い周波数で動作させることは,電力リソースや排熱の観点も課題となる.筆者らが研究開発や運用を担当した小型月着陸実証機SLIM(図1)は,2024年1月に100メートル精度でのピンポイント月面着陸に世界で初めて成功した.高精度着陸の鍵となった技術の一つに,光学画像を用いた地形照合航法が挙げられる(1).航法カメラ画像で撮像した月表面上のクレータの位置の分布を,事前に準備したクレータマップと照合し,探査機の対月面での位置をリアルタイムに推定する処理を,機上の計算機で自律的に実施するものである.このオンボード画像航法の研究開発は,画像処理アルゴリズムそのものの難易度はもとより,計算リソースが課題であった.宇宙用の信頼性と放射線耐性が保証されたフラッシュメモリタイプのFPGAを,日本の他ミッションに先駆けて軌道上で本格使用しつつ,アルゴリズムの計算規模を極力小さくとどめることで,搭載性を確保した経緯がある.
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