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宇宙で使っても壊れないハードウェア開発の最前線
小特集 4.
超小形衛星搭載に向けた耐放射線無線機
Radiation-hardened Wireless Transceivers for Small Satellite
Abstract
本稿では,超小形衛星に搭載可能な耐放射線フェイズドアレー無線機の開発について紹介する.近年,スマートフォンと直接通信できるような衛星通信サービスが展開され始めているが,誰もが利用できるようにするためには,大面積アンテナの実装と同時に,衛星の飛躍的な小形軽量化が必要であり,その鍵となるのが耐放射線無線機である.本稿では,CMOS 65nmプロセスを採用し,耐放射線設計を施した無線ICを開発し,磁界結合方式移相器の採用や放射線センサによるTID補償を導入した.作製した耐放射線無線機は,Kaバンドにおいて±50°のビーム走査及び8Gbit/sの通信速度を達成しながら,3Mradを超える放射線照射試験においても安定した通信性能を維持することを確認した.
キーワード:衛星通信,耐放射線,CMOS,フェイズドアレー
いつでも,どこでも,誰でもつながるネットワークとして,人工衛星を用いた通信の重要性が高まっている.背景には,不確実な世界情勢,通信産業の新規市場の開拓,そして衛星通信技術の進化がある.非地上ネットワークである衛星通信は,光ファイバのような地上インフラを整備せずとも,あらゆる場所から衛星を介して,ネットワークにつながることが可能となる.また,地上の通信インフラが災害等で利用できなくなった際も,衛星通信は,代替手段として,ネットワークの堅ろう性を高める.
実際に,2024年1月に起きた能登半島地震においては,SpaceX社のStarlink衛星通信サービスが活用され,災害初期の通信確保の有効性が証明された(1).Starlinkは,地上550kmの高度に,執筆時点では約7,000機の衛星を周回させることで,衛星コンステレーションという大規模な通信ネットワークを宇宙空間に構築している.衛星自体は重量約260kg,地上デバイスは約10kg,60cm×50cmの比較的大きな無線機を用いることで地上と宇宙間の通信を成立させている.
今後更なる衛星通信の進化として,誰もが利用できるような料金で個人のスマホと衛星の直接通信を実現することが強く求められている.専用の地上デバイスを用いることなく,誰もが持っているスマホが直接衛星ネットワークにつながることで,より多くの人がインターネットにつながる機会を享受し,災害時などにおいてもスマホを持ってさえいれば被災状況や避難情報を伝達,取得可能となる.一方で,このような直接通信には,衛星側により大きなアンテナが必要となり,衛星の大形化すなわち衛星1機当りの打上げコストの上昇が課題となっている.現在,既に打上げが行われているSpaceX社やAST SpaceMobile社の直接通信のための衛星は,800kgから1,500kgと非常に大形で,通信コストを下げるためには飛躍的な小形軽量化が必要である.
我々の研究グループでは,アンテナの大面積化と衛星の小形軽量化を両立させるための衛星システムに欠かすことのできない耐放射線無線機について研究開発を行っている.後述する宇宙展開アンテナやフォーメーションフライトを活用した大規模フェイズドアレーアンテナといった衛星システムは,衛星自体は小形軽量でありながら,非常に大きな開口のアンテナを実現できる.一方で,サイズや重量の制限から,放射線を遮るシールドを十分に持てないため,非常に高い放射線耐性を持つ無線機が求められる.本稿では,耐放射線無線機の設計,作製した耐放射線無線機のプロトタイプを紹介し,放射線試験の評価結果について報告する.
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