回想 多元接続手法の進化と今後の発展予測

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回想

多元接続手法の進化と今後の発展予測

Evolution and Prospects on Multiple Access Schemes in Wireless Communications

岡本英二

岡本英二 正員:フェロー 名古屋工業大学大学院工学研究科工学専攻

Eiji OKAMOTO, Fellow (Graduate School of Engineering, Nagoya Institute of Technology, Nagoya-shi, 466-8555 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.108 No.6 pp.556-559 2025年6月

©2025 電子情報通信学会

1.は じ め に

 移動通信システムにおける多元接続手法の変遷と今後の発展について述べる.なお筆者は顧客に対して無線通信システムを運用する組織に在籍した経験はなく,1研究者として主に技術的な側面のみから評価しているので,その限定的な見識について御容赦頂けると幸いである.

 無線通信システムの進化は止まらない.国内における移動系通信の契約数は30年以上継続して増加しており,2024年9月時点でおよそ2億5,200万,同時点の人口が1億2,378万人であるので,計算上は一人2台以上有していることになる.更に移動通信のインターネットトラヒックも継続的に増加していることから,システムの能力を常に上げなければ需要を満たせなくなってしまう.これに応えるため,移動通信システムはおよそ10年に一度メジャーアップデートを行い世代の数字が一つ増える.現在は第5世代(5G)(1)が商用化されており,6Gの研究開発が進んでいる(2)

2.多元接続手法の進化

 契約数とトラヒックの継続的な増加に応える技術的な要素の一つに多元接続手法の進化がある.多元接続手法とは,複数のユーザが基地局と同時に通信を行うことを可能にする技術である(図1(a)).電磁波は波であるので,空間上で複数の波が受信機に到達すると重畳される.したがって同じ空間・時間・周波数の複数の電磁波を受信すると混信が発生し,どちらの情報も正常に取り出せなくなってしまう.これを避ける技術が多元接続手法であり,各ユーザの用いる無線資源を異なるチャネル(領域)に配置する.図1に1Gから5Gの手法を示す.無線の周波数は有限の資源であり,移動通信システム以外にも様々な用途に用いられているため,1Hz当りに伝送できるビット数すなわち周波数利用効率bit/(s・Hz)を上げることが求められている.この性能を上げるために世代ごとに技術が変化している.

図1 多元接続の原理と1Gから5Gで用いられた手法

 図の1Gは,1980年代の自動車電話等に用いられた方式で,周波数分割多元接続(FDMA: Frequency Division Multiple Access)と呼ばれる.資源軸は時間・周波数・電力の3軸があり,各ユーザは一つのチャネルを占有して基地局と通信を行うが,そのとき各チャネルは周波数を直交した細かい幅に分割して,互いに干渉しないようにする手法である.これを直交分割多元接続と呼ぶ.各チャネル間は時間同期を取る必要がなく簡易に構成できるが,チャネル間干渉を防ぐため周波数に隙間が必要であり,割当済みのユーザが使用していない時間のチャネルが再利用できないこともあり周波数利用効率が低下していた.

 1990年代の第2世代携帯電話システム(2G)では時間分割多元接続(TDMA: Time Division Multiple Access)が用いられた.これは時間を細かいスロット単位に分割して各チャネルとする直交多元接続手法である.TDMAでは各ユーザが時間同期を取る必要があるが,全周波数帯域幅を常にいずれかのユーザに割り当てられることができるため周波数利用効率が上がった.しかし各スロット間の干渉を防ぐために時間軸方向に隙間が必要であり,周波数利用効率が若干低下していた.


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