名誉員推薦

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Vol.108 No.7 (2025/7) 目次へ

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名誉員推薦(写真:敬称略)

写真:大平 孝

大平 孝

推 薦 の 辞

 大平 孝君は,1983年に大阪大学大学院工学研究科博士課程後期(通信工学専攻)を修了後,直ちに日本電信電話公社に入職され,同年秋には研究主任になられました.1985年の民営化により日本電信電話株式会社(NTT)となった後の1987年にはNTTシステム研究所衛星通信研究部主任研究員となり,NTTワイヤレス研究所衛星通信研究部主幹研究員を経て,1998年にはグループリーダになられております.1999年に(株)国際電気通信基礎技術研究所(ATR)に転職され,ATR環境適応通信研究所第一研究室主幹研究員,第三研究室長を経て,2005年にはATR執行役員及びATR波動工学研究所長をお務めになられました.その後,2007年に豊橋技術科学大学の工学部・大学院工学研究科教授に着任され,2015年からは学内の未来ビークルシティリサーチセンター長を務めております.2021年には同大学名誉教授となられました.現在は,引き続き研究活動を続けられるとともに,民間企業の役員として,これまでの御自身の研究成果の実用化に向けた活動をされております.

 同君はNTTにおいて,長年にわたり衛星通信分野の研究開発に取り組まれ,静止通信衛星さくら4号及び技術試験衛星きく6号・きく8号に搭載されたGaAs MMICの設計を担当し,我が国の衛星通信技術の発展に貢献されました.ATRでは,独創的なアイデアによる省電力低価格な可変指向性アンテナ,エスパアンテナを考案し,社内ベンチャーを設立して実用化に取り組まれています.また,豊橋技術科学大学では,電界結合方式による無線電力伝送の研究から共鳴Q理論や一般化kQ理論を確立し,これらを応用した無線給電システムの実用化に向けた大学発ベンチャー設立を主導されました.また,無線給電のドローンへの適用を目指して内閣府戦略的イノベーション創造プログラムに参画し,関係分野の発展に寄与するとともに,多くの後進研究者を育成されました.

 更に,学会活動でも電子情報通信学会において無線電力伝送研究専門委員会の立上げに寄与されたほか,IEEE Distinguished Lecturer,IEEE MTT-S Kansai Chapter Founder,IEEE MTT-S Nagoya Chapter Founder,URSI Fellow,本会フェロー,IEEE Life Fellow,本会マイクロ波研究専門委員会顧問,APMC国内委員会名誉顧問など多数の実績があります.

 これらの学術的成果,学術・教育界への貢献に対して,同君は2017年文部科学大臣表彰,2018年東海総合通信局長表彰を受けられたほか,本会からは1986年学術奨励賞,2005年エレクトロニクスソサイエティ賞,2017年教育功労賞,2020年教育優秀賞,2020年トップダウンロードレター賞,2022年ComEX最優秀レター賞,2024年功績賞など多数の賞を授与されています.

 以上のように,同君の無線通信分野での研究開発に加えて,新たな研究分野である無線電力伝送での研究及び教育における貢献は極めて顕著であり,企業での研究開発のみならず大学での教育や国内外での学会活動においても多大なる貢献をされていることから本会名誉員として推薦します.

区切


写真:菊間信良

菊間信良

推 薦 の 辞

 菊間信良君は,1982年に名古屋工業大学工学部電子工学科を卒業,1987年に京都大学大学院工学研究科を修了し,同年京都大学工学部助手に任用されました.1988年に名古屋工業大学工学部助手,1992年に同助教授,2001年に同教授となられ,その後大学院重点化に伴い2003年に同大学院工学研究科教授に任命され,2025年に定年退職され,現在に至っておられます.

 同君はこの間,無線通信工学の研究を推進し,とりわけアレーアンテナを用いた適応指向性制御,空間多重化による高速通信技術の分野をけん引してこられ,以下に示すような多大な功績がありました.

 一つには,複数のアンテナで受信した信号に対して適応的に重み付けを行うことによりアレーアンテナの指向性を自在に制御できるアダプティブアレーの潜在能力にいち早く着目し,移動通信分野へ応用する多くのアルゴリズムを考案され,それらは移動通信における基地局制御,端末制御技術の基盤となっております.

 次に,アレーアンテナを利用した電波到来方向推定技術,電波源位置推定技術にも取り組んでこられました.高分解能推定手法を更に発展,拡張して移動伝搬環境(多重波環境)に応用する技術は,移動通信における電波伝搬解析並びに各種レーダなどに応用されています.

 更に,送信と受信の双方にアレーアンテナを用いることにより空間的に通信を多重化するMIMO伝送技術が近年注目されていますが,その制御アルゴリズムの基本となるブロック対角化法を更に改良し,複数の端末局とMIMO通信を行うマルチユーザMIMOにおける効率的な伝送方法へと発展させました.

 同君は,本会においてアンテナ・伝播研究専門委員会委員/幹事/副委員長,和文論文誌B編集委員長,ComEX編集委員長,通信ソサイエティ会長/副会長,東海支部長,総務理事等の要職を歴任し,本会活動の発展に貢献されました.通信ソサイエティ副会長在任期間中には,研専運営会議議長として,研究会運営の大幅な改革を推進し,技術研究報告の完全電子化,研専活動の健全な財務基盤を支える参加費制の開始と年間登録制度の創設等を実現しました.これらの先駆的取組みは,通信ソサイエティだけでなく本会全体へと広がり,現在の本会研専活動の根幹に貢献する特筆すべき功績であります.また,分野横断的議論を行う新たな研究会や国際会議の立上げに参画し,これを成功に導き,本会活動の活性化,横断化,国際化に多大な貢献をされました.

 同君は,アダプティブアレー及び到来方向推定の基礎に関するワークショップ講師やテキスト出版を通じて,当該分野の若手研究者育成にも貢献してこられました.また,現在にも続く本会大会企画「論文の書き方講座」の立上げに尽力し,自らも講師を歴任し,多くの若手研究者の育成に貢献する多大な功績を上げられました.

 同君はこれらの業績により,本会フェローの称号をはじめ,本会論文賞・教育功労賞,総務省情報通信功績賞,電気通信普及財団賞など多数の賞を授与され,2024年には本会功績賞を授与されました.

 以上のように,同君の電子情報通信分野における功績は極めて顕著であり,本会の名誉員にふさわしい方であると確信し推薦致します.

区切


写真:小山二三夫

小山二三夫

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 小山二三夫君は,1980年東京工業大学(現,東京科学大学)工学部電子物理工学科を卒業後,1985年同大学院理工学研究科博士課程を修了され,工学博士の学位を授与されています.同年東京工業大学精密工学研究所に助手として着任され,1988年同大学助教授,2000年同大学教授に昇任されました.以後,2016年同大学科学技術創成研究院未来産業技術研究所初代所長,2018年同大学科学技術創成研究院長に就任され,同大学の研究力強化の重責を担われました.2023年からは,同大学名誉教授,科学技術創成研究院面発光レーザフォトニクス研究ユニット長,特任教授となり現在に至っております.

 同君は,現在データセンターネットワークや携帯端末の顔認証システム等で広く活用される面発光レーザの室温連続動作を世界に先駆けて実現されました.その後,面発光レーザと光機能デバイスを横方向に集積する構成法を提案,波長可変面発光レーザ,超高速面発光レーザ,非機械式高解像ビームスキャナなどの様々な新規光デバイスの実現を通して,その大きな発展の礎を築くとともに,光エレクトロニクスの進展にも大きく貢献しました.同君の研究成果の一部は,共同研究企業により実用化が展開され,面発光レーザアレーを搭載した高精細カラープリンタの世界初の実用化に結実するなど,面発光レーザの産業応用にも貢献されました.これらの一連の業績により,次世代の超高速大容量光インタコネクト,情報通信分野へ面発光レーザの新たな可能性が切り開かれました.

 また,人材育成の面でも35年以上にわたり,博士課程40名以上を含む大学院学生100名以上を育成し,2007年からは文部科学省グローバルCOEプログラム「フォトニクス集積コア」の拠点リーダーを務め,高度な博士課程人材の育成にも貢献しました.更に産学10組織が参画する情報通信研究機構のBeyond 5G機能実現型プログラムのプロジェクトリーダーとして,世代エッジクラウドコンピューティング基盤の研究開発を先導されました.

 これらの研究業績に対して,本会からは1990年篠原記念学術奨励賞,1990年・1994年・2002年・2007年論文賞,2006年エレクトロニクスソサイエティ賞,2009年フェロー,2019年業績賞,2024年功績賞を授与されたのをはじめとして,1998年丸文学術賞,応用物理学会会誌賞,2004年市村学術賞功績賞,2007年文部科学大臣表彰科学技術賞,2008年IEEE/LEOS William Streifer Scientific Achievement Award,IEEEフェロー,応用物理学会フェロー,2011年Microoptics Award,2012年応用物理学会光・電子集積技術業績賞,2015年東京都功労者技術振興功労表彰,2016年市村産業功績賞,2017年光産業技術振興協会櫻井健二郎氏記念賞,2018年大川賞,2019年Optica Nick Holonyak, Jr. Award,2020年Opticaフェロー,2024年ヒロセ賞,IEEE Nick Holonyak, Jr. Medalなどの数々の賞を受賞されています.2025年には米国工学アカデミーの外国人会員(米国会員2,487名,外国人会員336名,うち日本人会員22名)に選出されています.

 学会活動においては,本会のエレクトロニクスソサイエティ会長,編集特別幹事,光エレクトロニクス研究専門委員会委員長,IEEE東京支部理事,IEEE Photonics Society理事などの要職を歴任されています.

 以上のように,同君の本会並びに国内外の関連学会における活動,及び電子情報通信技術の発展に寄与された功績は極めて顕著であり,ここに同君を本会の名誉員として推薦致します.

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写真:佐藤 亨

佐藤 亨

推 薦 の 辞

 佐藤 亨君は,1976年に京都大学工学部電気工学第二学科を卒業,1978年に同大学院工学研究科博士課程を研究指導認定退学され,1981年に京都大学工学博士の学位を授与されました.1983年から京都大学超高層電波研究センター助手等を経て,1998年に同大学院情報学研究科通信情報システム専攻教授に着任し,2019年に定年退職,名誉教授の称号を授与されました.引き続き2023年まで,同大学国際高等教育院特定教授,副教育院長を務められました.

 京都大学では,工学部電気電子工学科長,情報学研究科長などを歴任し,大学運営に多大な貢献をされました.国外では,International Workshop on Technical and Scientific Aspects of MST RadarのGeneral Organizerをはじめ,多数の国際会議委員を務め,レーダ技術の進展に寄与されました.国内では,本会エレクトロニクスソサイエティ大会委員長,電気学会電磁界理論技術委員会委員長,日本学術会議連携会員などを歴任し,学術界の発展に尽力されました.更に,2011年から2018年にかけて,公益財団法人輻射科学研究会の代表理事を務められました.

 同君は,地球中層・超高層大気,スペースデブリ,室内環境,人体など,多様な対象をレーダにより測定するための観測技術並びに信号処理技術の開発に従事し,レーダ技術の高精度化・高分解能化を実現するとともに,応用分野の飛躍的な拡大に貢献されました.特に,大気乱流の高分解能観測においては,世界に先駆ける成果を挙げ,京都大学MUレーダーや赤道大気レーダー等,世界の大気レーダシステムの設計に大きな影響を与えました.更に,南極地域初にして唯一の大形大気レーダであるPANSYレーダーの技術開発,設計・建設に尽力されました.

 近年では,超広帯域(UWB)レーダを用いた室内環境計測の分野において,従来の開口合成技術の限界を超えた超高分解能と高速処理を両立させる物体像再構成技術や,人体の精密計測技術を開発されました.特にバイタル情報の遠隔計測技術に関しては,ミリ波レーダを用いて近接した複数人の心拍を同時計測することに世界で初めて成功し,更に,発表当時世界最高の精度で心拍を計測することに成功されました.この技術は科学技術振興機構センター・オブ・イノベーション(COI)プログラムの京都大学における参画企業によって製品化され,社会実装されています.

 また,これらの研究成果は,単なる学術的貢献にとどまらず,医療分野をはじめ,様々なセンシング分野にも応用され,今日の産業界にも大きな影響を与えています.特に,生体信号計測の分野では,高精度な心拍・呼吸計測技術が医療モニタリングや健康管理システムへ応用されています.この技術は,遠隔医療や高齢者見守りシステムなど,社会的ニーズの高い分野において極めて有用であり,今後更なる発展が期待されています.

 これらの顕著な業績に対して,2007年度本会通信ソサイエティ優秀論文賞,2014年度科学技術分野の文部科学大臣表彰科学技術賞(開発部門),2015年には第8回海洋立国推進功労者表彰(内閣総理大臣賞),2024年には本会功績賞を受賞,2006年には本会フェローの称号を授与されています.

 以上のように,同君は電子情報通信分野において多大な功績を残され,その影響は学術界のみならず社会全体に及んでいます.これらの貢献を鑑み,本会の名誉員として極めてふさわしい人物であると確信し,ここに推薦致します.

区切


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