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本会選奨規程第7条(電子工学及び情報通信に関する学術又は関連事業に対し特別の功労がありその功績が顕著であって功績賞を受けたことのない者)による功績賞(第86回)受賞者を選定して,2024年度は次の4名の方々に贈呈した.
榎本忠儀君は米国オハイオ州立大学大学院博士課程を1975年に卒業し,博士号(Ph.D)を取得されました.1975年から17年間日本電気(NEC)中央研究所にて主任,課長,部長として半導体集積回路(LSI: Large Scale Integration)とこれらを応用したシステムの研究・開発に従事され,1992年から22年間中央大学理工学部及び大学院の教授として同分野の研究・教育に寄与されました.2014年から中央大学名誉教授として同分野の研究を継続されております.
同君は映像を中心とするマルチメディア時代に備え,その中核となるLSIとシステムの研究とその実用化に取り組み,数々の先駆的な業績を上げるとともに,本分野の学術の発展と新たな市場の創出に貢献されました.
1980年代,信号処理LSIは音声処理応用に限定され,その性能を向上させる設計理論や手法は確立されていませんでした.同君はこの課題を解決するため,LSIアーキテクチャ,高速・低電力回路,高速・並列動画像アルゴリズム,ベクトル演算方式,データ照合技術,LSI製造技術,等様々な基盤技術を確立しました.同時に世界に先駆けて開発した動画像プロセッサ(GPU: Graphics Processing Unit)とこれを搭載したオンラインTV会議システム,ゲーテドクロックに最適なサンプリング符号化方式の開発と本方式を搭載した高速GPU,動的電圧・周波数協調(DVFS)に特化した符号化方式の開発と本方式を実装した低電力GPU,世界で初めて実用化したベクトル演算プロセッサとこれを実装した空冷式スーパコンピュータ,宛先照合プロセッサとこれを用いた超高速LANシステム,世界最大容量辞書検索プロセッサ,超小形漏れ電流削減回路とこれを搭載した不揮発性メモリ,積層型三次元デバイス,等を実用化,製品化しました.以上の成果はマルチメディア時代の創出とインターネット市場の発展に貢献しました.
同君は本会集積回路研究専門委員会委員長,電子デバイス研究専門委員会委員長,英文論文誌小特集編集委員会委員長,IEEE Solid-State Circuits論文誌編集委員,日本国際賞受賞候補者推薦委員,知的財産高等裁判所専門委員,等重要な職責を数多く担いました.特に集積回路研究専門委員会の初代幹事並びに創設期の委員長として,本研究専門委員会の活動の基盤を確立し,本研究専門委員会を本会で最も活動的な研究専門委員会の一つに育てました.更に,LSIとシステムのワークショップの創設に関わり,国内有数の会議に育てました.同君は学生への教育にも尽力し,多くの人材を産業界に送り出しました.更に同君は成果を学術論文,国際会議,特許,新聞,等で発表し,高い評価を受けるとともに,「CMOS集積回路」,「ナノCMOS集積回路」,「画像LSIシステム設計技術」,等実用レベルの専門書を出版することにより,集積回路技術の発展と人材育成に貢献しました.
これらの功績により本会業績賞,本会論文賞,IEEE Best Paper Award,IEEE ASP-DAC Best Design Award,電気通信普及財団賞(テレコムシステム技術賞)入賞,オハイオ州立大学フェローシップ,等多数の学術賞を受賞されました.加えて本会フェロー,IEEE Fellow,IEEE Life Fellowの称号を授与されました.
以上のように,同君の本会並びに電子情報通信分野への貢献は誠に顕著であり,本会の功績賞を贈呈するにふさわしい方であると確信致します.
高村誠之君は,1991年に東京大学工学部電子工学科を卒業後同大学院に進学し,1996年に同大学院工学系研究科電子工学専攻博士課程を修了,同年4月に日本電信電話株式会社(NTT)ヒューマンインタフェース研究所に入所されました.2005年7月から1年の間,スタンフォード大学にて客員研究員として研究に従事され,2009年にNTTメディアインテリジェンス研究所にて特別研究員,2016年から同研究所にて上席特別研究員,2021年から現所属のNTTコンピュータ&データサイエンス研究所にて上席特別研究員を歴任されました.2022年から同研究所の客員上席特別研究員及び法政大学情報科学部教授として活躍されています.
同君は,NTTに入社以来,一貫して映像圧縮符号化分野の研究開発に従事され,符号化最適化技術や次世代符号化技術に関する数々の優れた業績を上げるとともに,長年にわたり映像符号化の標準化活動に取り組まれており,当該分野の学術発展と実用領域開拓に多大に貢献してこられました.学術面では,2008年頃から取り組まれた,生物進化に着想を得た遺伝的プログラミングにより最適な画像符号化アルゴリズムを自動生成する「進化的符号化技術」は,現在盛んなAIによる符号化の先駆けとも言えるもので,映像符号化技術の発展にインパクトを与えました.また実用面でも,これまでに映像圧縮符号化方式において重要な技術として15件が標準必須特許として認定されており,高画質,低遅延な新たな映像サービスの普及に大きく寄与されました.特に,MPEG-4に必須特許認定された画面間予測技術は,各社がLSI化し携帯電話をはじめとしたモバイル端末に導入され,モバイル端末での動画像視聴やコミュニケーションなどの映像サービスに大きな変革をもたらしました.また,最新の国際規格H.265/HEVC及びH.266/VVCに必須特許認定された画面内予測技術は,4K8K衛星放送等の実サービスとして国内及び世界に普及しています.このように,同君は学術成果のみならず,実用面でも価値の高い研究成果を創出してきました.
同君は,これまでの業績に対し,本会業績賞,産業標準化事業表彰(経済産業大臣表彰)など多数の学術賞と,本会をはじめとしてIEEE,映像情報メディア学会,情報処理学会など多数の学会からフェローの称号を授与されております.また,本会編集理事,IEEE本部並びにアジア太平洋地区理事,IEEE Fellow Committee Member,情報規格調査会SC 29日本団長,映像情報メディア学会理事,画像電子学会会長を歴任し,情報通信ネットワーク発展の鍵となる日本の映像圧縮符号化分野をけん引し続けています.
以上のように,同君の電子情報通信分野における功績は極めて顕著であり,本会の功績賞を贈るにふさわしい方であると確信致します.
橋本 修君は,1978年に電気通信大学大学院修士課程を修了し,同年4月に(株)東芝に入社されました.その後,1981年に防衛庁技術研究本部へ入庁し,1986年に東京工業大学大学院理工学研究科博士課程を修了されました.1991年からは青山学院大学助教授,1997年からは同大学教授として教べんを執られ,2012年には理工学部長・研究科長,2019年には副学長を務められました.2022年4月からは青山学院大学名誉教授・プロジェクト教授・客員教授として,現在に至っておられます.
同君は長年にわたり,マイクロ波・ミリ波帯における電波吸収体の研究開発に従事され,数々の優れた成果を上げられ,先駆的な理論・方式の創出や普及に努めてこられました.特に,マイクロ波・ミリ波帯における電波吸収体の測定技術の体系化,独自の高度材料測定法の考案,更に電磁界解析による最適設計により,広帯域で超軽量な抵抗膜等を用いた高機能電波吸収体を世界に先駆けて開発,実用化されました.その成果は,ETC用,無線LAN用,レーダ用,近傍電磁界吸収用など,電子工学,情報通信分野のみならず,建築分野などにも幅広く応用されています.特に,同君が研究開発したETC用電波吸収体の技術は,年間30億台以上の利用に達したETCの実用化及びその普及に大きく貢献しました.
また,同君は優れた教育者として,これまでに修士号取得者229名,博士号取得者28名を輩出し,社会へ優秀な人材を送り出してきました.更に,国土交通省東京湾臨海道路電波吸収体検討委員会委員長,総務省電波利用料財源を用いた研究開発案件に対する専門評価委員会副座長,経済産業省総合資源エネルギー調査会省エネルギー基準部会電子レンジ判断基準小委員会副座長など,多くの省庁委員会に参画し,政策立案にも貢献されました.
本会においても,マイクロ波研究専門委員会委員長,エレクトロニクスシミュレーション研究専門委員会の発足及び委員長,APMC国内委員長,エレクトロニクスソサイエティ会長など,要職を歴任し,学術活動の推進に大きく貢献されました.更に,本会フェローの称号をはじめ,エレクトロニクスソサイエティ賞,論文賞,業績賞,電気学会フェロー,電気学会業績賞,Asia-Pacific Microwave Conference(APMC)2006 Prizeなど数多くの表彰を受け,その功績は国内外で広く認められております.
以上のように,同君の電子情報通信分野への貢献は極めて顕著であり,本会の功績賞を贈呈するにふさわしい方であると確信致します.
松尾慎治君は,1986年に広島大学工学部第二類を卒業後,1988年に同大学院材料工学研究科材料工学専攻を修了し,2008年に東京工業大学にて博士号を取得されました.同君は1988年4月に日本電信電話株式会社(NTT)光エレクトロニクス研究所に入所され,GaAsを用いた面形変調器や面発光レーザを用いた光機能素子の研究に従事されました.その後,1998年から2000年までNTT未来ねっと研究所,2000年から現所属の前身であるNTTフォトニクス研究所,2014年からNTT先端集積デバイス研究所に所属しています.その間2011年から2014年までグループリーダ,2015年から上席特別研究員,2023年からフェローとして活躍しておられます.
同君は,30年以上にわたり半導体レーザ,光変調器をはじめとする化合物半導体光機能素子の研究に従事しております.特筆すべき成果としては,これまでSiと化合物半導体の格子定数や熱膨張係数の違いによる結晶品質の劣化等の問題により困難であった「Si基板上に高性能な半導体レーザを高い設計自由度で作製可能とするデバイス基本技術」を確立したことにあります.具体的には,異種材料直接接合技術をベースに,①薄膜(メンブレン)化したInPを用いたSi基板上エピタキシャル成長技術,②薄膜内での電流注入を可能とするドーピング技術を確立しました.これらの技術により,世界最小エネルギー動作するフォトニック結晶レーザ,世界最高変調速度のSiC基板上メンブレンレーザ,これらの素子とSiフォトニクス回路との集積の実現など,化合物半導体素子の新たな可能性を切り開いてきました.また,電子回路とフリップチップ実装した光電融合素子において低消費電力動作を実証し,極短距離光インタコネクションに向けた動作性能を示してきました.これらの業績により,国内外から招待講演や招待論文を数多く依頼され報告するとともに,重要国際会議のGeneral Chairを務めるなど,化合物光半導体分野における重要な地位を確立しており,学術的貢献は極めて大きいと認められています.
同君は,これまでの業績に対し,本会の業績賞(2023),エレクトロニクスソサイエティ賞(2017),IEEE Photonics Society William Streifer Scientific Achievement Award(2023),IEEE Photonics Society Distinguished Lecturer(2019),応用物理学会 光・電子集積技術業績賞(林巌雄賞)(2012)など多数の学術賞を授与されております.
加えて本会エレクトロニクスソサイエティでは和文論文誌編集委員長(2010-2012),レーザ・量子エレクトロニクス研究専門委員会(LQE)委員長(2013),光集積及びシリコンフォトニクス(PICS)特別研究専門委員会委員長(2020-2021),エレクトロニクスソサイエティ会長(2025)を務めています.また,他学会でもIEEE Photonics Society Board of Governors,応用物理学会理事等を務めております.
また,本会シニア会員,IEEEフェロー,Opticaフェローの称号も授与されています.
以上のように,同君の電子情報通信分野への貢献は顕著であり,本会の功績賞を贈呈するにふさわしい方であると確信致します.
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