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生成AIの光と影――安全な活用と未来への展望――
小特集 5.
ディジタル民主主義における生成AIの活用可能性とリスク
The Promises and Risks of Generative AI in Digital Democracy
Abstract
生成AIは政治の様々な場面で使われるようになっている.本稿は,まず生成AIが政治の場で実際に活用されている例を紹介する.その上で,今や生成AIはそのアウトプットを通じて政治に関する人間の思考に直接的に影響を及ぼす段階に至ったことを指摘する.そのポジティブな効果として,生成AIは政策課題について人間よりも俯瞰した視点を提起することが期待される.他方で,生成AIが政治的に偏った内容を提示する可能性がある.生成AIが持つこれらの可能性とリスクについて,筆者らが実施した研究成果も交えながら詳しく解説をする.
キーワード:生成AIと政治,生成AIの意見の特徴,政治的バイアス,民主主義
生成AIの活用範囲は政治の分野にも及んでいる.本稿は,政治の中で生成AIはどのような形で使われてきたのか,そして政治における活用という観点から,生成AIにはどのような可能性・リスクがあるのかを解説する.
手前味噌ではあるが,筆者らは生成AIと政治の関係についてこれまで二つの研究プロジェクトを実施してきた.一つは,政策問題に対する人間の意見と生成AIの意見にはどのような違いがあるのかを明らかにするアンケート調査である(1).もう一つは,自治体において住民がChatGPTを使いながら町の政策を議論するワークショップの開催である(2).本稿では,これら二つのプロジェクトを通して得られた知見も基にしている.いずれのプロジェクトについても,図の説明に示されているリンクにおいて報告書が公表されているので,詳細はそちらを参照されたい.
まず,AIが実際に政治の場に導入された実例を通して,政治において生成AIが果たし得る役割を三つ指摘したい.
第1に,人々に意見表明の機会を公平に与える役割である.近年,政策形成の参考にするために一般の人々が集まって議論するワークショップのような場が設けられることが,自治体レベルを中心に増えている.しかし,この手の議論の場では,どうしても頻繁に発言する人とそうでない人という差ができてしまう.
スタンフォード大学の「オンライン熟議プラットホーム(Online Deliberation Platform)」は,オンライン会議システムにAIによる司会進行機能が加わったようなツールである(図1)(3).AIが議題や参加者の発言時間を把握し,あまり発言していない人に自動的に発言を促すなどの機能が備わっている.世界各国で導入例があるが,日本では,2020年に東京都で開催された「東京の太陽光発電の未来に関するオンライン討論型世論調査」で使用されたことがある(4).
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