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生成AIの光と影――安全な活用と未来への展望――
小特集 6.
生成AI活用の未来
――新しい表現の可能性を探る――
The Future of Generative AI Use in Creation: Exploring the Possibilities of New Expression
Abstract
生成AIがもたらす創作の未来は,人間の想像力とAIの力が融合する新しい表現の形を切り開いている.本稿では,AIがどのようにクリエイティブな分野で活用され,創作プロセスにどのような影響を与えているかを探る.AIを使った小説の創作の実例を紹介しつつ,AIが人間の創作能力をどのように補完・拡張するのかについて考察する.また,AIと人間の協働による創作の未来像や,AI研究に求められる課題にも焦点を当て,生成AIが新しい表現分野をどのように進化させるかについて論じる.
キーワード:生成AI,創作支援,小説,SF
最古の物語とされるギルガメシュ叙事詩(1)の成立は,2,000~3,000年前と言われている.その物語を現代に伝えているのは,楔形文字の刻まれた粘土板である.つまり現代の人類にとっての「物語」は,言語や文字,粘土板といったテクノロジーがベースの文化と言えるだろう.言語や文字,粘土板は,人間の脳という「情報処理装置」で演算されている思考の共有ツールや外部保存ツールである.テクノロジーによる人間の身体的能力の拡張が,物語を生み出したのである.言語を教育された人間が過去に触れた物語を参照しながら創作するという物語の再帰的生産フロー上,物語はテクノロジーという遺伝子から逃れることはできない.
テクノロジーによる人間の身体拡張という概念は,古くから注目されてきた.古い例では,ロバート・フックが顕微鏡で観察した微小な構造物のスケッチをまとめた「ミクログラフィア」の中で「眼鏡が視覚を大いに向上させたように,聴覚,嗅覚,味覚,触覚といった感覚を向上させる機械的発明が数多くなされることも不可能ではない」と述べている(2).マーシャル・マクルーハンは,人間は道具を用いて身体を拡張してきたと語り,後世の科学技術やアートに多大な影響を与えた(3).例えばケヴィン・ケリー氏は「グローバルで大規模に相互に結ばれているテクノロジーのシステム」を「テクニウム」と定義した上で,マクルーハンを援用して「テクニウムとは人間の拡張だ」と述べている(4).
ホモサピエンスは,テクノロジーを進歩させることで未来への歩みを加速させてきた.テクノロジーは,一種の伝統的な「タイムマシン」なのである.生成AIでアップデートされた人類の「時間旅行」は,光の速さに一歩近づいた.あらゆる科学技術の進歩速度は加速していくだろう.いずれ人間がそれを実証するよりも速く,新たな科学的事実が大量に予想されるはずだ.そして未知の科学技術が集められた博物館「未来アーカイブ」が生まれるだろう.まるでドラえもんのひみつ道具が出てくる四次元ポケットのように.
生成AIという発明は,人類の「想像力」を拡張した.バベルの図書館にも例えられる生成AIの巨大なベクトル空間の中には,人類の知らない名作が膨大に眠っている(5).それらの名作はベクトル空間の中に「既に」存在しており,我々はその本棚への行き方さえ分かれば読むことができる.作家とは,ゼロから物語を生み出す創造者ではなく,本質的には任意の物語へつながる道筋を見つけて収集するコレクターである.しかし人類のこれまでの短い歴史では,全ての名作への案内図を作りきることは到底できなかった.そこに生成AIという「想像性の羅針盤」が現れたことで,迷子にならずに未知の名作を拾い上げることが可能になりつつある.これまでにも生成AIを携えた勇敢なコレクターたちが,驚異への冒険を試みてきた.
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