解説 野外鳥類の行動解析のための視聴覚生態環境理解・解析技術

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Vol.108 No.9 (2025/9) 目次へ

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 解説 

野外鳥類の行動解析のための視聴覚生態環境理解・解析技術

Audio-visual Ecological Analysis Technologies for Understanding Wild Bird Behavior

中臺一博 森本 元 井手一郎 鈴木麗璽 松林志保 小島諒介

中臺一博 東京科学大学工学院システム制御系システム制御コース

森本 元 公益財団法人山階鳥類研究所

井手一郎 正員:シニア会員 名古屋大学大学院情報学研究科知能システム学専攻

鈴木麗璽 名古屋大学大学院情報学研究科複雑系科学専攻

松林志保 関西学院大学総合政策学部総合政策学科

小島諒介 京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻

Kazuhiro NAKADAI, Nonmember (School of Engineering, Institute of Science Tokyo, Tokyo, 152-8550 Japan), Gen MORIMOTO, Nonmember (Yamashina Institute for Ornithology, Abiko-shi, 270-1145 Japan), Ichiro IDE, Senior Member (Graduate School of Informatics, Nagoya University, Nagoya-shi, 464-8601 Japan), Reiji SUZUKI, Nonmember (Graduate School of Informatics, Nagoya University, Nagoya-shi, 464-8601 Japan), Shiho MATSUBAYASHI, Nonmember (School of Policy Studies, Kwansei Gakuin University, Sanda-shi, 669-1330 Japan), and Ryosuke KOJIMA, Nonmember (Graduate School of Medicine, Kyoto University, Kyoto-shi, 606-8501 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.108 No.9 pp.888-894 2025年9月

©2025 電子情報通信学会

A bstract

 野外鳥類の行動観測・解析は,生態学,モニタリング,SDGsといった観点から重要であるが,従来は人手に頼って行われていた.こうした観測・解析を効率化,持続可能なものとし,研究レベルを一段引き上げるためには,機械学習や信号処理といった工学技術が有効であり,かつ必要とされている.これまで,筆者らが中心となってこうした問題意識の下,音響処理や画像処理技術をベースに鳥類の行動観測・解析技術を開発してきた.こうした技術の解説,及び技術を用いた鳥類行動観測・解析の活用例と得られた知見を紹介する.

キーワード:野外鳥類,行動観測,行動分析,ロボット聴覚,視聴覚処理,生態学

1.は じ め に

 野外鳥類研究は,野生動物研究の一分野である.近年では,電子機器を用いた観測研究が増加しているものの,依然として双眼鏡やノートを用いた熟練観察者による職人的な手法が主流を占めている.実際,図1に示すように,熟練観察者は多少の誤差を含みつつも,複数の個体を瞬時に捉え,鳥種を識別し,位置や行動を即座に記録することが可能である.こうした技能は,現時点における一般的な民生用電子機器では容易に代替できない.しかし,このように個人の技能に依存した観測には,観察者ごとの能力差や人員確保の難しさ,取得データの量・質の限界といった課題がある.実際,ICレコーダによって録音データが蓄積されているにもかかわらず,解析が追いつかず未活用のままとなっている例も少なくない.また,録音音声だけでは,たとえ熟練観察者であっても,個体の位置や動きを正確に特定することは困難であり,音声分析と位置情報の統合的な研究は限定的である.一方,電子機器を用いることで,定量的で高精度な大量のデータの取得が可能となることから,こうした技術に対する潜在的な需要は大きい.特に鳥類は視覚・聴覚の双方が高度に発達しており,空中・地上・水上といった多様な環境に適応しているため,観測機材の汎用性を評価する対象としても優れている.更に,音声によるコミュニケーション能力を有する種が多いため,音響を用いた観測との親和性も高い(1).現在,先端的な観測機器の導入も一部で試みられているが,機材コストや運用に必要な技術的知識の習得が障壁となり,現場での普及は限定的である.本稿では,こうした背景を踏まえ,熟練観察者の技能を補完・代替し得る技術として,複数のマイクロホンアレー(マルチマイクロホンアレー)及びカメラを用いた鳥類観測技術の構築と,その応用事例について紹介する.

図1 現在主流の鳥類観測手法  森林での鳥類調査例.職人的技能を有する熟練鳥類観測者が,一瞬で鳥種を識別し,音量から経験則で定位し,距離や個体数を把握する.また,録音・録画データ収集などを観測者が行う.


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