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解説
300GHz帯を用いた屋外走行車両向けの通信エリア構築
Designing Outdoor Communication Area for Vehicles on the 300GHz Band
A bstract
筆者らは6G向けの周波数として,これまでテラヘルツ帯の通信利用に向けた実験を行っており,特に300GHz帯を用いた移動通信の実現に向けて屋外実験を重ねてきた.2024年春には,道路を走行する車両向けのテラヘルツ通信エリアを構築する実験を実施した.この実験は,将来テラヘルツを移動通信として利用するユースケースを実証したものであり,超高速・超大容量通信の実現に向けた重要なマイルストーンであると考えている.本稿では,上記実験について,研究の背景,技術的特徴,実験の概要と結果及び今後の展望について詳述する.
キーワード:テラヘルツ通信,V2X,屋外実証実験,6G,300GHz
2020年に5G(第5世代移動通信)のサービス提供が開始され,2024年現在日本全国の人口カバー率は90%を超えるまで普及している.世界の技術標準化団体では5Gの次の世代として6Gの実用化が予測され,2030年頃のサービス開始が期待されている.
日本では2020年に総務省がBeyond 5G(6G)に向けた技術戦略(1)を発表し,世界ではITU-Rが2023年にRecommendation M.2160として6G向けとなるIMT-2030のフレームワーク勧告を公開した(2).
6Gでは5Gの更なる拡張のほか,様々な追加機能が期待されているが,年々増加する移動通信のトラヒック需要を背景に,特に通信速度に関する技術は新しい世代の通信技術の特徴として注目されやすく,Beyond 5G/6G時代に期待される通信速度は5Gの10倍となる最大100Gbit/sを超える速度が期待されている.
しかし,この要求を実現するためにはGHz級の周波数幅を確保する必要がある.IEEE 802.15.3d-2017(3)では,300GHz帯において,69.12GHz幅を利用することで100Gbit/sを達成可能な通信規格が出版されている.
このように,Beyond 5G/6Gの通信速度の要件を満たすため,これまで通信に用いられてこなかった新しい周波数であるテラヘルツ帯(100GHzから10THz)の活用が注目されている.2019年に開催された世界無線通信会議(WRC-19)では,275GHzを超え,最大450GHzまでの周波数が移動・固定無線通信の利用周波数として特定され(4),世界中でテラヘルツの応用に関する研究が進められている(5)~(7).
テラヘルツ波による通信を実現するためには,その周波数の高さから伝搬損や大気吸収が大きい,アンプの効率が低いなど物理的な課題をクリアする必要がある.テラヘルツ通信実験では,伝搬損の大きさを補うために利得が高い(指向性が強い)開口アンテナが用いられることが多い(8),(9)が,これらの実験ではアンテナを固定する必要があるため,無線機を移動させながら実施する通信実験はこれまで余り行われていない.
本稿ではまず,テラヘルツの通信利用に向けて,どのようなユースケースが検討されているかを紹介し,次に移動通信事業者から見たテラヘルツ帯を移動通信として利用する際の課題を紹介した後,筆者らが2023年に実施した,屋外を走行する車両向けのテラヘルツ通信エリア構築実験について紹介する.
テラヘルツ通信のユースケースは,決められたターゲットユースケースがあるわけではなく,世界的にも継続して様々な議論が行われている.
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