解説 コンピュテーショナルイメージング

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 解説 

コンピュテーショナルイメージング

Computational Imaging

堀﨑遼一

堀﨑遼一 東京大学大学院情報理工学系研究科システム情報学専攻

Ryoichi HORISAKI, Nonmember (Graduate School of Information Science and Technology, The University of Tokyo, Tokyo, 113-8656 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.108 No.9 pp.901-906 2025年9月

©2025 電子情報通信学会

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 コンピュテーショナルイメージングは,信号処理系を前提に光学系を設計する技術体系の総称である.深層学習に代表される情報科学分野の進展やGPUを含む演算装置などの計算速度の向上に伴い,カメラやディスプレイを含む従来のイメージング技術では達成困難な機能を有するコンピュテーショナルイメージングへの期待が高まっている.本稿では,近年のコンピュテーショナルイメージングの動向を,我々の非侵襲散乱イメージングや非可干渉光を用いた波動光学技術に関する研究成果に触れつつ俯瞰する.

キーワード:カメラ,ディスプレイ,散乱イメージング,位相イメージング,ホログラフィー,波動光学

1.は じ め に

 カメラやディスプレイを含むイメージング技術は,医療,ライフサイエンス,セキュリティ,天文学,エンターテイメントを含む様々な分野の基盤となっており,各分野の進展に長く寄与している.従来のイメージング技術は結像を前提としており,例えばカメラでは,図1(a)に示すように,イメージセンサ上に被写体像を忠実に再現することを目的あるいは前提にして,光学系を含むシステム全体がデザインされる.この場合,光学系と信号処理系が独立して稼動するため,両者が不必要に大形化,複雑化する傾向があった.

図1 従来型イメージング(a)とコンピュテーショナルイメージング(b)の概念図

 一方で,本稿で取り扱うコンピュテーショナルイメージングは,図1(b)に示すように,光学系と信号処理を統合してデザインし,両者の負荷を分散させることで,システムの小形化や簡素化,高機能化が可能である(1)(6).特に圧縮計測や深層学習に代表される情報科学技術の進展や計算機の処理パワーの向上に伴い,従来型アプローチでは達成困難な機能を有するコンピュテーショナルイメージング技術の開発が進んでいる.本稿では,光学分野において重要なテーマである,散乱イメージング,位相イメージング,計算機合成ホログラフィーに関して,コンピュテーショナルイメージングフレームワークに基づく手法を紹介する.

2.非侵襲散乱イメージング

 散乱は皮膚や筋肉などの生体組織,霧や大気揺らぎなどで発生し,イメージング性能を大きく低下させる要因となる.そのため,散乱媒体の内部や背後のイメージングは,ライフサイエンス,セキュリティ,天体観測などで大きな需要があり,光学分野において長く取り組まれている.従来の散乱イメージングは,散乱の影響が少ない直進光を,空間的あるいは時間的に抽出するアプローチがほとんどであった.しかし近年では,直進光の存在が期待できない強散乱体を対象としたイメージング手法の開発が,コンピュテーショナルイメージングの領域で活発に行われている(7)(10)

 散乱イメージングにおける重要な特性として,(非)侵襲性が挙げられる.例えば,散乱体背後に参照光源などを配置し,散乱応答を事前に計測して散乱補償を行う手法は,散乱体背後に光学素子を設置する点で侵襲性を持ち,実用上望ましくない.そのため,散乱体自身や背後に手を加えない,非侵襲的な散乱イメージングの実現にかかる期待は大きい.以下に紹介する二つの手法は,この非侵襲性を満たす.


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