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5.

人間拡張から人間社会拡張へ

From Human Augmentation to Human and Societal Augmentation

蔵田武志

蔵田武志 正員 国立研究開発法人産業技術総合研究所人間社会拡張研究部門

Takeshi KURATA, Member (Research Institute on Human and Societal Augmentation, National Institute of Advanced Industrial Science and Technology, Kashiwa–shi, 277–0882 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.109 No.2 pp.110–117 2026年2月

© 2026 電子情報通信学会

Abstract

本稿では,人間拡張研究から人間社会拡張研究への展開を概説する.まず,人間社会拡張の概念について,個人と社会のバランス,情報過多と均一化,多様性・包摂・共生,コストと負担,効率性と利他性,新しい成長尺度といった観点からの議論を整理する.次に,産業技術総合研究所に設立された人間社会拡張研究部門(RIHSA)のビジョンと研究領域を紹介し,遠隔VRリハビリ,運動主体感に基づく動機付け支援,ARによる検品支援とVRによる合意形成,プラットホーム型リビングラボといった研究事例を示す.更に,XRやメタバースの定義を巡る議論と国際標準化活動に触れ,用語の整理や概念の相互運用性確保の重要性を述べる.

キーワード:人間社会拡張,XR,動機付け,包摂と共生,効率性と利他性

1. は じ め に

人間拡張研究(1)では,主に,身体機能や認知機能の支援・強化を通じて個人の能力を高め,その積み上げによって社会課題の解決に資することを目指してきた.しかし,今日の社会課題は,個々人の拡張だけでは十分に対応できない複雑さを帯びている.また,例えば,同じ個人でも,いわゆる一個人としてのパーソナリティと,組織や社会の中の役割を割り当てられた場合のパーソナリティは異なることがしばしば見受けられる.また,組織や社会自体の振舞い(組織のパーソナリティとでも言うべきもの)が,そこに属している各個人の総意とは異なってしまうことも珍しいことではない.これには,コミュニケーション,経済,制度,環境など様々な要素が関わっており,しばしば問題解決の阻害要因となっている.

そのため,個々の人間拡張とその積み上げによる社会解決アプローチに加え,初めから複数人の集まりを前提とし,サービスや社会システムの機能拡張を目指すアプローチ(社会拡張的アプローチ)も一層求められてくると言えるであろう.もちろん,これまでの人間拡張に関する研究にも,個々の人間拡張とその積み上げのほかに,社会拡張的アプローチを取るものが少なからず含まれていた.しかしながら,社会拡張という方向性を明示することで,それに関連する研究領域体系,研究課題の整理を促し,適切な技術開発を通じて社会課題の解決に資する方向性が形式知として共有されていくことが期待される.

2. 人間社会拡張とは?

そもそも,人間社会拡張や社会拡張という用語自体,一般に普及しているものではない(2),(3),(4).2020年に科学技術・学術審議会の総合政策特別委員会で作成された知識集約型の価値創造に向けた科学技術イノベーション政策に関する報告書(2)では,「将来の産業や社会を一変させる可能性のある最先端の新興技術(エマージングテクノロジー)を追求し,先行者利益の獲得や国際競争力の確保を目指す」という研究開発方針の中で,「インクルーシブな社会を実現する人間・社会拡張技術」を重点的に取り組むべき研究開発領域の一つと位置付けている.当該研究開発領域では,「AI(Artificial Intelligence),ロボティクス,ブレイン・マシンインタフェース(用語1)などを用い,肉体的・地理的制約を超えて知へのアクセスや社会参加を可能とする技術こそが,インクルーシブな社会基盤の構築に資する」,とされている.ただし,社会拡張や人間社会拡張が,具体的に何を指し,どのような研究分野を形成するのかについては,これから議論の積み重ねが求められる.


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