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Vol.109 No.3 (2026/3) 目次へ

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タイトル2.

通信ソサイエティの30年を振り返って

Looking Back on 30 Years of the Communications Society

通信ソサイエティ会長 眞田幸俊

通信ソサイエティ前会長 中尾彰宏

1. は じ め に

通信ソサイエティは2025年6月で発足30年を迎えた.本稿ではこの30年の通信ソサイエティを振り返り,ソサイエティ制発足当初の目的が達成されたのか確認するとともに,現在の課題を整理する.また通信ソサイエティが最近注力している施策についても紹介したい.

2. ソサイエティ制移行への経緯と通信ソサイエティの発足

2.1. ソサイエティ制の目的

現在のソサイエティ制が検討され始めたのは,文献(1)によると1990年5月に発足した将来構想実施検討委員会からである.この時期は1985年に現在のソサイエティの源流となる研究グループ制に移行して5年を経過しており,更なる発展を検討していた.当時,

・ 学会組織は階層が多く,各種企画や施策を迅速に実施することが難しい.

・ 一般会員にとって学会の意思が見えにくく,参加意識,帰属意識が希薄になりやすい.

といった課題意識があった.

文献(1)によるとソサイエティ制導入の目的として

(1)ソサイエティ化により帰属意識の大きな会員の集まりを構成し,若い技術者,研究者を引き付ける魅力ある学会を目指す.

(2)運営,活動,財政に関する最終的な権限と責任を各ソサイエティに与え,活動の自由度を上げる.

(3)組織の簡素化により各種企画や施策の迅速な実行が可能になる.

(4)一般会員にも開かれた運営を行い,きめ細かいサービスを推進する.

が挙げられていた.つまり当時のグループ制より自由度の大きい半独立的な小学会というべき存在になり,親密さ・小回りの良さを実現する.他方,学会全体は複数のソサイエティの集合体としてプレステージの高さ,スケールメリットなどの利点を享受しようというものであった(2)

論文誌の編集に関してはソサイエティの一つのアイデンティティとして,ソサイエティの責任に基づく会員のボランティアによる自由な編集が期待されていた.そのため論文誌を単独で編集・発行できることがソサイエティ成立の一つの要件とされていた.論文誌編集並びにその財政に関しては各ソサイエティが全面的に責任を持つ必要があった.

また研究会活動に関しては当時第一種,第二種,及び第三種研究専門委員会(研専)が研究会活動を実施しており,その活動の一層の活性化を図ることになっていた.具体的には

(1)グループ横並びの規制の廃止及びソサイエティの自主的運営権の強化

(2)若手研究者,外国人,あるいは外国系企業委員の積極的登用

(3)研究専門委員会などの一般会員への開放

(4)外国学会との提携,技報の英文化の検討

(5)総合大会とソサイエティ大会の交互開催

を目的としていた.

財政面では,文献(3)によると,各ソサイエティがそれぞれ1万人程度の所属会員を有し,自ら会費を徴収し,役員を自分たちで選挙して定め,会員サービスを自分たちで提供し,基本的にはその活動と財政に関する最終的権限の責任を持つ,ミニ学会としての姿を取るものとしていた.ただし財政面の急な移行は難しいため,財政面の準独立採算への移行は組織面移行に対して時間経過措置を取った.

2.2. 通信ソサイエティの発足

1995年度から通信ソサイエティは発足した.文献(4)を確認すると,通信ソサイエティはIEEEComSocとシスターソサイエティの協定を締結し,国際化への第一歩を踏み出していた.またアジア・太平洋地域における国際活動を積極的に企画,推進する観点から第2回のAsia-Pacific Conference on Communications(APCC’96)を大阪で開催した.また新規に光通信・光エレクトロニクスの国際会議としてOECCをエレクトロニクスソサイエティと共同して発足させた.

出版事業に関しては,まず和文論文誌がB-I及びB-IIの2分冊体制で発足した.発行部数は合計192,400部に上った.また英文論文誌も28,900部発行していた.このほか年4回のニューズレターを会誌の付録として発行し,全会員へ配布していた.

研究会事業は第一種研専として10研専体制(アンテナ・伝搬,宇宙・航行エレクトロニクス,衛星通信,環境電磁工学,交換システム,情報ネットワーク,通信方式,電子通信用電源技術,光通信システム,無線通信システム)で発足した.研究会の開催回数は88回,発表件数は1,446件であった.なお通信ソサイエティが発足したこの年にコミュニケーションクオリティ研究専門委員会が第一種研専を発足させている.

財政面の最初の実績は翌1996年度の事業報告書(5)に記されている.本部からの約5,700万円の会計受入を含め,約2億円弱の予算対して支出は約1.8億円弱となり,収支差額は約1,800万円弱となった.なお,この年は,

(1)第1回通信ソサイエティ総会を大会に合わせて開催

(2)会員サービスとしてIEEE Globecom’96のインターネット中継を実施

(3)通信ソサイエティ活動功労感謝状による表彰制度を発足し,第1回表彰を行った

(4)通信ソサイエティマガジン発行に向けてタスクフォースを設置

など活発な新規企画を展開している様子が報告書から伺える.

3. 通信ソサイエティの変遷と現在の通信ソサイエティ

3.1. 通信ソサイエティの現状と課題

図1に現在の通信ソサイエティの体制を示すとともに,この30年間の通信ソサイエティの変遷と現在の状況を概観する(6)

ソサイエティ制発足時には各ソサイエティがそれぞれ1万人程度の所属会員を有することが想定されていた.現在最大の会員数を有する通信ソサイエティでも,8,300人を割っている状況である(7).人口減少の折,会員数の増減の傾向は30年前と全く異なるが,少しでも新しい会員が入会するよう新しい研究分野を取り込み,また国際的なプレゼンスを高める努力を継続しなければならない.

研究会活動に関しては,第一種研専が20研専に増加し,開催件数も2024年度には136回,発表件数は2,338件に増加した.このほか六つの特別研専,三つの第三種研専が活動している.新型コロナウイルス感染症終息後活発な研究会活動が行われている状況である.しかし多数の研専と執行部が同時に執行委員会で会議をすると時間的にも物理的にも限界があることから,2005年5月から研専運営会議が発足している.研専活動は研専運営会議議長が取りまとめ,副会長として通信ソサイエティ執行委員会において通信ソサイエティ執行部の施策との調整を担っている.各研専委員長は執行委員会にオブザーバ参加で執行部と直接議論することも可能である.しかしながら学会理事会と研究会の間に組織階層が増えたことは,各種企画や施策を迅速に実施することには適しているが,研究会側から理事会の意思が見えにくいという課題が指摘されており改善が必要である.

出版事業の最も重要な課題はインパクトファクターの向上を含め,いかに読者に価値のあるものになるかということである.和文論文誌が1分冊に統合された一方,英文論文誌IEICE Transaction on Communicationsのほかに速報性を重視した英文レター誌IEICE Communication Express(ComEX)が2012年度から発行された.また非会員へのアウトリーチや異分野交流を目的として通信ソサイエティ和文マガジンB-Plusを年4回発行し,Webで無償公開している.これは近年新設されたジュニア会員に対するサービスとしても重要なものになっている.一方,学会全体の論文賞とは別に2006年度から通信ソサイエティ内で通信ソサイエティ論文賞(和文マガジンの記事にはマガジン賞)として論文を表彰している.更に良質な論文・記事の投稿を促進するため,2009年3月から総合大会/ソサイエティ大会で継続的に「論文の書き方講座」を開催している.

財政面については文献(8)に記載されている.ソサイエティ会計の事業収益は約2.3億強であり30年分の収益規模は大きな伸長が見られず改善が必要である.他方支出も2.3億に迫る額であり,わずかに黒字を保っている状況である.これは研究会活動が活性化した結果,その費用が大幅に増加していることなどが要因である.通信ソサイエティの財政改善は喫緊の課題である.

3.2. 通信ソサイエティの最近の活動

ここで通信ソサイエティの最近の活動について紹介したい(6)

(1) 研究専門委員会

新型コロナウイルス感染症が蔓延した時期を経て,研究会活動は現地参加とWeb配信のハイブリッド形式で開催されることが一般的になった.また分野横断的な研究会の活動が活性化してきた.その例として第三種研専である革新的無線通信に関する横断的研究会(MIKA:Multiple Innovative Kenkyu-kai Association for wireless communications),超知性ネットワーキングに関する分野横断型研究会(RISING:Cross-Field Research Association of Super-Intelligent Networking)が,2024年度には合計9 回の研究会・講演会(発表・講演数合計269件,参加者延べ620名)を実施し,分野横断的なテーマについて活発な討議を行った.図2,3はその様子である.また2025年度には地域ICTプラットフォームに関する特別研究専門委員会(AA-ITS:Ad Hoc Technical Committee on In-vehicle ICT and AD/ADAS-ITS Infrastructure for Regional ICT Platforms)が発足し,図4のように研究会を開催している.

更に特筆すべき活動は,近年発足したサイバーライフラインに関する分野横断型研究会(HCL:Cross-Field Research Association of Human-centered Cyber Lifeline)において,具体的なテーマを掲げつつ複数ソサイエティ間の連携に踏み出す動きが始まっている点である.HCLは通信ソサイエティを中心としつつも,基礎・境界ソサイエティ,エレクトロニクスソサイエティ等の関連分野と協力し,社会基盤としての次世代ネットワークの在り方を共に議論している.図5はソサイエティの会長がパネリストとして参加した,パネルセッションでの様子である.こうした取組みは,従来のソサイエティ内部での活動にとどまらず,学会全体の知を結集する試みとして注目され,学際的研究推進の新たなモデルとなることが期待される.

(2) 出版事業

出版事業において近年特筆すべきことは英文論文誌B並びにComEXがオープンアクセス形式で公開され,IEEE Exploreに掲載されるようになったことである.これによりインパクトファクターを向上させ,より良質な論文の投稿を促しつつ国内外の会員の増強を図っている.また研究会で発表された研究の論文投稿を促進するため,研究会からの推薦論文制度に関し,研専運営会議と連携して2023年度から掲載料補助制度をトライアルとして実施している.

(3) 会員サービス

通信ソサイエティはソサイエティ大会において,特別講演及び功労顕彰状,活動功労賞の表彰を行ってきた.2025年度からは通信ソサイエティ若手研究奨励賞が新設され,30名が表彰された.図6はその受賞式の様子である.

総合大会におけるWelcome Partyは学生員や若手会員の方々が,諸先輩方と自由にコミュニケーションできる場の提供として通信ソサイエティが2008年から始めたものである.2024年度には通信ソサイエティが主導し全ソサイエティ合同で図7のように対面開催した.主たる企画として情報・システムソサイエティによって始められ,大会企画になったジュニア&学生ポスターセッションの受賞者の表彰式が行われた.また研専紹介として17研専がポスター展示,12研専がショートプレゼンを行った.

2025年度からは新たに産学活性化に向けた取組みを実施している.具体的には研究会において学生がポスター発表を行い,企業側参加者と議論を交わすことによって交流を促す.このような「普段の私を見て」戦略を通じて,就職活動につなげていくことを目的としている.図8は2025年11月におけるポスター発表の様子である.

(4) 国際化

30年前にAPCCが開かれた大阪で,2025年11月に30回目の記念すべきAPCC2025が開催された.また新型コロナウイルス感染症禍の2020年にオンラインで最初に開催された通信ソサイエティのフラッグシップ国際会議International Conference on Emerging Technologies for Communications(ICETC)も併催して開催された.ICETCでは海外会員への直接的なリーチの方法として図9のような絵葉書を作成して郵送している.IEICE ICETC 2025では発表原稿が初めてIEEE Exploreに掲載されることになり,国際的な認知度も高まった.図10はICETC 2025のオープニングセッションの様子である.ICETC 2026では更なる国際的認知度改善のため初の海外開催を計画している.

4. ま と め

本稿では通信ソサイエティの30年を振り返り,通信ソサイエティの発足時と現在の状況を整理した.その上でソサイエティ制発足の目的が達成されたのか振り返った.この30年間で,人口減少,新型コロナウイルス感染症禍などを経て,通信ソサイエティを取り巻く環境は大きく変わった.特に国内外の会員減少,財政傾向の変化は30年前には想像できなかったことであろう.通信ソサイエティ内の国際会議・研究会活動を促進し,出版物の国内外での認知度・重要性を高め,学生・若手研究者の研究活動をより一層活性化するため,更なる改善に向けた取組みが重要となる.また,今後は,具体的なテーマでのソサイエティ間連携を一層推進し,電子情報通信学会全体の知を結集することも視野に入れたい.

文     献

(1)末松安晴,甘利俊一,辻井重男,進士昌明,“ソサイエティ制に向けて―将来構想実施検討委員会報告書の概要,” 信学誌,vol. 75, no. 10, pp.1019-1026, Oct. 1992.

(2)辻井重男,“機は熟すソサイエティ制,” 信学誌,vol. 76, no. 6, June 1993.

(3)堀内和夫,“ソサイエティ制度の導入,” 信学誌,vol. 82, no. 5, May 1999.

(4)“平成7年度事業報告,” 信学誌,vol. 78, no. 6, pp. 620-626, June 1995.

(5)“平成8年度事業報告,” 信学誌,vol. 79, no. 6, pp. 650-658, June 1996.

(6)通信ソサイエティ運営体制図.https://www.ieice.org/cs_r/jpn/about/steering_structure.html

(7)“2024年度事業報告書,” 電子情報通信学会2005年定時社員総会.https://www.ieice.org/jpn_r/about/shainsokai.html

(8)“2024年度決算書,” 電子情報通信学会2005年定時社員総会.https://www.ieice.org/jpn_r/about/shainsokai.html

(2025年8月28日受付)

著者

さな ゆきとし(正員:フェロー)

 平4慶大・理工・電気卒.平9同大学院理工学研究科博士課程了.同年東工大・工・助手.平12(株)ソニーコンピュータサイエンス研究所入社.平13慶大・理工・講師.平23同大学・理工・教授,現在に至る.この間移動体通信の研究に従事.博士(工学).平30~令元年度本会調査理事.

著者

なか あきひろ(正員:フェロー)

 1991東大・理卒.1994同大学院修士課程了.IBMテキサスオースチン研究所,東京基礎研究所などを経て,プリンストン大大学院コンピュータサイエンス学科にて修士・博士学位取得.2005から東大大学院情報学環助教授,2014から教授.2019から東大総長補佐兼任.2020東大総長特任補佐兼任.2021から工学系研究科教授,次世代サイバーインフラ連携研究機構・機構長.専門は情報通信.5G/IoTに関する複数の産学連携プロジェクトのリーダーを務める.


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