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ISACにおけるエッジモバイルコア統合型制御方式の研究開発
Research and Development on an Integrated Edge Mobile Core Control Architecture for ISAC
内山 彰 Jin Heetae 大下裕一 小此木謙一 板原壮平 鈴木理基

Beyond 5Gでは通信とセンシングを融合したIntegrated Sensing And Communication(ISAC)の実現が期待されている.本稿では,国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)の委託研究として実施している,ISACにおけるエッジモバイルコア統合型制御方式の研究開発について紹介する.特に,交通支援サービスを対象とした想定ユースケースや,その実現に必要な自転車位置センシング手法及びセンシング情報統合方式の概要を説明する.更に,センシング処理をエッジとクラウドで柔軟に分担し,通信品質とサービス品質の両立が可能なエッジモバイルコアアーキテクチャの設計についても触れる.
キーワード:ISAC,ミリ波,交通支援,Beyond 5G
1. は じ め に
Beyond 5Gでは,高周波数や広帯域幅の利用が可能なため,Integrated Sensing And Communication(ISAC)が注目されている(1).ISACは,レーダーなどの無線センシングと無線通信を同一の基地局で実現するものであり,ハードウェアコストの削減,新たなサービスの創出,センシング結果のフィードバックによる通信品質の向上といった利点がある.特に,スマートシティの実現にあたって,モバイルネットワークはあらゆる場所でのネットワークアクセスを提供するため必要不可欠であり,モバイルネットワークと共通のインフラを利用して様々なセンシングが実現できれば,コスト面でのメリットは大きい.このため,ITU,3GPP,IEEEなどで,通信のみならずセンシングに関連する標準化が進められている.一方,学術界においては,通信とセンシングの制御最適化,ISAC向けの波形設計,知的反射面(IRS:Intelligent Reflective Surface)による性能向上,ISACアプリケーションの提案など,多岐にわたる論文が発表されている.中でも,ISACの最大の特徴は,その名のとおりセンシングと通信の統合であり,アプリケーションや状況に応じて定まる通信・センシングへの要求性能に対し,適切な通信・センシング方式や時空間・周波数の割当を決定することが重要である.また,ISACではセンシングのための処理や通信が必要となり,現状のモバイルコアアーキテクチャではオーバヘッドが大きく,対応できない可能性がある.
そこで我々は国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)の「革新的情報通信技術(Beyond 5G(6G))基金事業」の委託研究として,ISACにおけるエッジモバイルコア統合型制御方式の研究開発を2024年度より実施している.本研究開発では,①センシングと通信の適応制御方式の開発,②負荷に応じたエッジ・モバイルコアでのセンシング処理が可能なISAC向けエッジモバイルコアアーキテクチャの設計,③シミュレーション及び実証実験に基づく,ISAC向け実証環境の構築と検証を行う.本稿では,本研究開発プロジェクトの概要と,交通支援を対象としたセンシング方式の開発,及びISAC向けエッジモバイルコアアーキテクチャの設計の取組みについて紹介する.
2. 想定ユースケース
本研究開発では,ISACが有効なユースケースとして,交通安全支援サービスに注目している.ISACの大きな利点として,通信のために整備されているインフラ設備をセンシングに転用できるため,コストが低いという点が挙げられる.コネクティッドカーを想定したときに,交差点などにおいて,車載センサだけでは死角となる領域の存在は避けられないため,他車両や路側機のセンサ情報をネットワーク経由で共有するアプローチが存在する.しかし,コネクティッドカーの普及には時間がかかるため,早期のサービス実現は難しい.また,路側機の配備には導入・維持コストがかかるという課題がある.これに対して,既設の携帯基地局を活用してISACによる車両などの位置センシングが実現できれば,低い導入・維持コストで早期にサービスを実現できる可能性がある.特に,車だけでなく,危険運転が度々話題となる自転車の位置をセンシングし,衝突などの危険をコネクティッドカーにあらかじめ通知できれば,急ブレーキの回避などが実現でき,交通の快適性を高めることができると考えている.図1に想定ユースケースを示す.交差点の死角から接近する自転車の位置を基地局でセンシングし,コネクティッドカーにセルラ通信で危険の存在を通知する.この通知を受け,コネクティッドカーはスムーズに停止することができる.このようなサービスを実現するためには,センシング方式の研究開発のみならず,コアネットワークでセンシング処理を行うためのアーキテクチャ設計が必要となる.

3. センシング方式の設計
3.1. センシング方式の前提
ISACは世界中で研究開発が進められている段階であり,様々な定義がなされているのが実状である.文献(2)で示されているように,現在のOFDM通信で用いられているチャネル状態情報を用いたセンシングもあれば,新たに設計された波形を用いたセンシングも存在する.我々が想定するユースケースでは,ユーザ端末の存在を仮定せず,基地局がモノスタティックレーダーとしてセンシングを行う必要がある.このため,センシングのための波形としてチャープを想定し,センシング方式の設計を行う.この場合,センシングと通信の間で周波数資源の競合が生じることから,状況に応じた資源割当制御が必要となる.
3.2. チャープによる物体の位置推定
想定ユースケースでは,自転車の位置や速度のセンシングを目標としている.本稿では,位置の検出に必要な情報の一つとして,基地局から自転車までの距離を推定する手法を紹介する.
大きな金属製の車体によりRadar Cross-Section(RCS)が大きくなる車と異なり,自転車はRCSが小さいため,観測される反射波が弱いことが最大の課題である.例えば,5G NRのn257 band(28GHz帯)を想定すると,基地局から交差点までの距離が200mを超える場合,受信SNRはdB以下になると試算している.この場合,物体の検出はほとんど不可能となる.この課題を解決するため,
我々は各受信アンテナで得られる信号の相関行列を用いてMUSIC法により反射波の到来方向を推定する.更に,推定した到来方向に基づき,各アンテナ信号に位相補償を施して合成する受信ビームフォーミングを行い,目的方向の信号成分を強調する.このようにして得られた受信信号に対し,整合フィルタ出力により得られる相互相関結果を距離軸に換算し,range profileを取得することで対象物までの距離を算出する.更に,複数チャープを送信し,各range binに対して高速フーリエ変換を適用することで,Range Doppler Map(RDM)を取得できる.
図2に示すように,交差点から15~45mの距離に自転車,車が1台ずつ,交差点に向かって移動するシナリオに対して,レイトレースと物理光学近似を組み合わせたミリ波レーダー解析ツールWaveFarerを用いたシミュレーションによって得られたRDMの例を図3に示す.サンプリング時間は0.509ns,送信サンプル数2190,チャープ送信回数100,帯域幅150MHzとした.自転車と車のRDMを比較すると,RCSの大きい車は反射強度が高く,自転車よりも明確に検出が可能なことが分かる.実際には,RDMである程度の強度が検出されたとしても,それが何なのかは分からないため,対象の識別が必要となる.直感的には,車であれば反射面が大きいことから,自転車よりも多数の反射点が観測され,それらの強度も高い.逆に,自転車であれば,少数の強度の低い反射点が観測される.また,車や自転車など,対象によって速度や移動パターンには特徴があると考えられるため,RDMの時系列変化も対象識別に有効な情報となる.したがって,RDMの時系列変化を入力とした深層学習などによる対象識別法の検討を進めている.


4. センシング情報の統合方式の設計
2.の想定ユースケースで述べた交通安全支援サービスを提供するためには,3.で述べた方式を用いてセンシングした情報に基づき,交差点周辺の車や自転車の位置・速度といった交通状況を管理する必要がある.以降では,この管理する情報を交通情報マップと呼ぶ.特に,コネクティッドカーに対して衝突の危険を通知するためには,現在時刻までに得られたセンシング情報に基づき,将来の状態を予測しなければならない.そこで我々は,ISAC及びコネクティッドカーの双方により,物体の識別と位置・速度のセンシング情報が得られる場合を想定し,それらを統合して交通情報マップを構築する手法を開発している.
交通情報マップは,各地点・角速度のオブジェクトが存在する確率を保持する.時刻において地点
に速度
のオブジェクトが存在する確率を
とおき,それを束ねた時刻
の状況を表す行列を
とする.これを基に,次の時刻の状況への変異を表す行列を
とすると,時刻
の状況は次式で表される.
これを繰り返すことにより,将来の状況を予測することができる.
一方で,自動車がセンシングする場合であっても,基地局がセンシングする場合であっても,正確なセンシングはできず,観測には誤差が含まれる.そのため,観測により得られる情報も確率として表す.観測により得られた時刻
において,地点
に速度
のオブジェクトが存在する確率を
とおき,それを束ねた時刻
の状況を表す行列を
とする.この観測が得られた際には,過去の情報から推定された時刻
の確率分布
をベイズ更新により修正する.すなわち,
ここで,は要素ごとの積(アダマール積)を表し,分母は正規化のための定数である.このようにして,観測結果を反映した確率分布
を得ることができる.交通情報マップにおいては,観測として情報収集元の各車両からの情報及びISACにより得られる情報を用いる.すなわち,図4に示すような流れとなる.今後,設計したセンシング方式と情報統合方式に基づき,シミュレーションによりISACを用いたセンシングの効果を確認する予定である.

5. ISAC向けエッジモバイルコアの設計
ISACにおいては通信サービスにセンシングサービスが加わる.従来の5Gアーキテクチャではセンシングサービスの実現が考慮されていないため,そのままではセンシングに必要な処理を効率的に扱えない可能性がある.例えば,3.で述べたセンシング方式を想定ユースケースに適用する場合,整合フィルタなどの基本的な信号処理や,取得したRDMから深層学習などを用いて物体を検出・識別する処理,検出・識別結果から対象を追跡し,危険の有無を判定する処理,などが必要になる.受信信号をそのままコアネットワーク側で処理しようとすると,センシングのためのトラフィック量が膨大となり,センシングサービスの遅延や通信品質の低下につながる.このため,センシング方式の各処理の計算負荷や入出力のデータ量などに応じて,各処理を実行するノードをエッジやクラウドに柔軟に割り当てることで,通信品質とサービス品質の双方を満足するようなエッジモバイルコアの設計を行っている.
例えば,図5に示すようにある基地局において,センシングサービスへの要求が高まり,センシングデータ量が増加した場合を考える.エッジにはセンシング処理を実行するための計算ノードが設置されているが,特定基地局のセンシング負荷増大により,エッジだけではサービスの要求遅延やセンシング精度を満足できない.単純にセントラル側に処理をオフロードすると,基地局で受信した生データに近いサイズの大きいセンシングデータを転送することとなり,バックホール帯域を圧迫する恐れがある.そこで,センシング処理を分割し,一部をエッジで,残りをセントラルにオフロードするといった柔軟な制御によって,バックホール帯域への負荷を軽減する.このようにして,サービス品質を満足しながら,効率的に帯域や計算資源の利用を図る.

6. お わ り に
本稿では,我々が実施しているISACにおけるエッジモバイルコア統合型制御方式の研究開発の概要と,交通支援を対象としたセンシング方式の開発,及びISAC向けエッジモバイルコアアーキテクチャの設計の取組みについて紹介した.本研究で開発を進めているセンシング方式や資源制御方式,並びにISAC向けエッジモバイルコア技術は,ISACの実用化における重要な要素技術になると考えている.今後は研究開発を更に進め,実証実験を通じて効果を検証する予定である.
謝辞 本研究成果は,国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)の委託研究(JPJ012368C08701)により得られたものです.
文 献
(1)S. Lu, F. Liu, Y. Li, K. Zhang, H. Huang, J. Zou, X. Li, Y. Dong, F. Dong, J. Zhu, Y. Xiong, W. Yuan, Y. Cui, and L. Hanzo, “Integrated sensing and communications: Recent advances and ten open challenges,” IEEE Internet of Things Journal, vol. 11, no. 11, pp. 19094-19120, June 2024.
(2)ERICSSON, Integrated Sensing and Communication, June 2024.[Online]. Available:https://www.ericsson.com/en/blog/2024/6/integrated-sensing-and-communication
(2025年11月1日受付)







