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Vol.109 No.4 (2026/4) 目次へ

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タイトル

応用音響研究専門委員会

異常音検知

西田智哉((株)日立製作所)

tomoya.nishida.ax@hitachi.com

本会ハンドブック「知識の森」

https://www.ieice-hbkb.org/portal/doc_index.html

1.‌異常音検知とは

 異常音検知とは,入力された環境音に基づき,何らかの異常の有無を判定する技術である.この技術は環境音分析技術のひとつに位置付けられ,幅広い分野に適用される.例えば,公共安全・監視の分野では公共空間の環境音に対し,銃声や悲鳴などの事件や事故を示唆する音の検知に利用される (1).またヘルスケア分野では,心音や肺音に対し,病気を示す音の検知に適用される (2).産業分野では,設備や機械の動作音から故障やその予兆を検知することに適用される (3).各分野では,異常音検知技術を利用することで事態の迅速な把握,同様のことを手動で実施した際に生じるコストの削減,質のぶれの抑制などの効果が期待される.

 なお,検知すべき異常は,必ずしも正常音に異常な音が加わった状況に限らないことに注意が必要である.例えば,正常時に含まれるはずの成分が含まれなくなることをもって異常と検知する場合もある.したがって異常音検知は,「異常音の検知」と捉えるよりも,「環境音からの異常検知」と呼ぶ方が,異常音検知の定義をより正確に表していると言える (4)

2.‌異常音検知の問題設定

 異常音検知は,人手で設計されたルールを用いて実現する場合もあるものの,近年では典型的には機械学習に基づいて実現される.本章では機械学習に基づく異常音検知の定式化と問題設定の分類を解説する.機械学習に基づく異常音検知は,音データから特徴量Xを抽出し,何らかの機械学習モデルを用いてXが正常か異常かを判定する2クラスの分類問題として定式化される.特徴量Xには,時間周波数特徴量であるmel-bandスペクトログラムや,時間信号そのもの,その他様々な特徴量が利用される.異常音検知問題の大きな特徴は,異常状態がまれにしか発生しないため,異常音を学習データとして収集しづらいことにある.そのため,異常音検知は異常音を学習データとして利用できるか否かで2つの問題設定に分類される.以下では各問題設定の特徴を解説する(図1).

2.1 ‌教師あり異常音検知

 学習データとして正常音と異常音の両者を,正常・異常のラベルも含めて利用できるケースを教師あり異常音検知と呼ぶ.教師あり異常音検知は2クラス分類問題として直接解かれる.すなわち,入力特徴量Xから正常と異常を識別する決定則を学習し,それを推論に用いる.この問題設定は異常音も学習データとして利用しているため検知精度を高めやすい反面,事前に学習データとして与えた異常以外は検知できないという課題がある.したがって,検知したい異常音が事前に決まっており,データも(少量だとしても)収集可能な状況でこの問題設定を用いるケースが多い.例えば,公共空間で悲鳴や銃声などの決まった音のみを検知したい状況に適した設定である (1)

2.2 ‌教師なし異常音検知

 学習データとして正常音のみを利用できるケースを教師なし異常音検知と呼ぶ.教師なし異常音検知は「外れ値検知」として解かれる.これは,学習データの正常音の特徴を何らかの方法で覚え,その特徴から外れる音をすべて異常と判定する枠組みである.具体的には,正常音のみで学習したモデルを用いて,入力特徴量Xの「異常度スコア」を計算し,それが事前に定めたしきい値を超える場合にXを異常音と判定する.

math

ここで,mathmathの異常度,mathはモデルのパラメタ,mathはしきい値である.教師なし異常音検知は異常音を学習に利用しないため,教師あり異常音検知と比較して検知精度を高めづらい.一方,学習データとして収集していないあらゆる異常音を検知対象にできることが利点である.したがって,異常音の発生頻度が少なく収集が困難な場合や,異常音の種類が多く,網羅的に異常音を収集することが困難な場合に利用される設定である.例えば,機械の稼働音に対する異常音検知において,故障の種類が多様で全ての異常音を収集することが難しい場面などで有用である (3)

 なお,一部の種類の異常音のみ収集できると仮定し,その既知の異常音と未知の異常音の両方を検知する,教師なしと教師ありの複合的な問題設定も検討されている (5)

3.‌教師なし異常音検知の代表的な手法

 本章では,異常音検知特有の問題設定である,教師なし異常音検知の代表的な手法を紹介する.特に近年利用されている,深層学習を用いた手法を取り上げる.

3.1 ‌自己符号化器による教師なし異常音検知

 自己符号化器(AE : AutoEncoder)は,入力Xを低次元の特徴量に圧縮し(符号化),再び元のXを復元する(復号化)ニューラルネットワークである.学習時には,学習データである正常音の復元誤差を最小にするようパラメータが最適化される.その結果,正常音は復元しやすく,学習データに含まれない異常音は復元が難しいと期待されるため,入力特徴量の復元誤差を異常度として利用できる(図2(a)) (6).この方法は,ニューラルネットの表現力で正常音の複雑なパターンを学習できる点が利点である.一方,異常音の復元を抑制する明示的な措置がないため,誤って復元してしまい,異常度が低くなる可能性が課題となる.

3.2 ‌特徴量抽出を用いた教師なし異常音検知

 特徴量抽出モデルを用いて音データXを低次元の「埋込み特徴量」Zに変換し,Zの空間で外れ値を検知する方法である(図2(b)) (7).モデルの学習は,正常音の類似音や学習データに付属するメタデータ(例:機械の動作スピード)などの追加情報を用いた補助的な分類問題を作成し,それを解かせることで行う.あるいは,多様な音や学習データを用いて自己教師あり学習(SSL : Self-supervised Learning)されたモデルを用いる場合もある.こうした学習により,音の差異を適切に表現した埋込み特徴量を得ることを目指す.外れ値検知には正常音の特徴量集合に対し判定対象Zと最も近いk個を探し,その平均距離を異常度とするk近傍法が一般的である.この手法の利点は,学習時に追加情報を活用し正常音の特徴を詳しく学ぶことで,高い検知精度を得やすい点である.一方,利用する補助分類問題や音の性質によっては性能が大きく変動しうることが課題となる.

4.‌おわりに

 最後に,異常音検知の関連課題を述べる.まず,環境や録音条件の変化に伴い,学習時と推論時でデータの分布が異なる「ドメインシフト」問題が生じる場合への対策が検討されている (8).また,研究コミュニティ内で同じデータセットを使い続けると,本来は評価データにのみ含まれる異常音に対して高精度を追求する過程で,そのデータセット内のテストデータに特化した異常音検知手法が開発される可能性がある.これを防ぐため,未知のデータにも対応可能な「ファーストショット異常音検知」手法の開発も重視されている (9)

 機械音に対する教師なし異常音検知は,環境音分析の国際コンペティションであるDCASE Challengeにおいて継続的に研究が行われている(3),(9).異常音検知技術の詳細を知りたい読者は,上記の研究資源や,サーベイ論文 (4)が参考になるものと考えられる.

文     献

(1)G. Valenzise, L. Gerosa, M. Tagliasacchi, F. Antonacci and A. Sarti, “Scream and gunshot detection and localization for audio-surveillance systems,” Proc. IEEE AVSS, pp. 21-26, 2007.

(2)A. Gurung, C.G. Scrafford, J.M. Tielsch, O.S. Levine, W. Checkley, “Computerized lung sound analysis as diagnostic aid for the detection of abnormal lung sounds : A systematic review and meta-analysis”, Resipir Med., vol. 105, issue 9, pp. 1396-1403, Sep. 2011.

(3)Y. Koizumi, Y. Kawaguchi, K. Imoto, T. Nakamura, Y. Nikaido, R. Tanabe, H. Purohit, K. Suefusa, T. Endo, M. Yasuda, N. Harada, “Description and discussion on DCASE2020 challenge task2 : Unsupervised anomalous sound detection for machine condition monitoring”, Proc. DCASE Workshop, pp. 81-85, 2020.

(4)井本桂右,川口洋平,”環境音分析・異常音検知の研究動向.”,信学Fundam. Review, vol. 15, no. 4, pp. 268-280, 2022.

(5)Y. Kawachi, Y. Koizumi, S. Murata, N. Harada “A two-class hyper-spherical autoencoder for supervised anomaly detection”, Proc. IEEE ICASSP, pp. 3047-3051, 2019.

(6)E. Marchi, F. Vesperini, F. Eyben, S. Squartini and B. Schuller, “A novel approach for automatic acoustic novelty detection using a denoising autoencoder with bidirectional LSTM neural networks,” Proc. IEEE ICASSP, pp. 1996-2000, 2015.

(7)K. Wilkinghoff, F. Kurth, “Why do angular margin losses work well for semi-supervised anomalous sound detection?,” IEEE/ACM Trans. Audio, Speech, Lang. Process., vol. 32, pp. 608-622, Nov. 2024.

(8)K. Wilkinghoff, H. Yang, J. Ebbers, F.G. Germain, G. Wichern, J. Le Roux, “Local Density-Based Anomaly Score Normalization for Domain Generalization,” IEEE Trans. Audio, Speech, Lang. Process., vol. 33, pp. 4642-4652, 2025.

(9)Tomoya Nishida, N. Harada, D. Niizumi, D. Albertini, R. Sannino, S. Pradolini, F. Augusti, K. Imoto, K. Dohi, H. Purohit, T. Endo, Y. Kawaguchi, “Description and discussion on DCASE 2025 challenge task 2 : First-shot unsupervised anomalous sound detection for machine condition monitoring”, Proc. DCASE Workshop, pp. 55-59, 2025.

(2025年12月15日受付)


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