電子情報通信学会 - IEICE会誌 試し読みサイト
Vol.109 No.6 (2026/6) 目次へ

前の記事へ次の記事へ


タイトル3.

空間伝送方式ワイヤレス電力伝送システム(WPT)の実用化と国際標準化の動向

Trends in Practical Application and International Standardization of Beam Wireless Power Transfer (WPT) Systems

小舘直人

小舘直人 エイターリンク株式会社

Naoto KODATE, (Aeterlink Corp., Tokyo, 100-0005 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.109 No.6 pp.466–469 2026年6月

© 2026 電子情報通信学会

空間伝送型ワイヤレス給電(beam WPT)の国際標準化活動は,2022年に世界で初めて制度化した日本が主導している.一方で,国際的な協調のために多岐にわたる活動が並行している.そのため,業界に精通していない人にとって,現状把握が難しい状況である.本稿ではそれらの現状整理と今後の国際標準化における展望を述べる.

キーワード:空間伝送型ワイヤレス給電,beam WPT,国際標準化

1. beam WPTの現状

マイクロ波を用いた空間伝送型ワイヤレス給電(beam WPT(用語1))の市場導入は拡大傾向にある.中でも920MHz帯は,国内で導入されている800台以上のシステムのほとんどを920MHz帯が占めるなど,この周波数帯が普及を牽引している.総務省発行の令和7年度版情報通信白書によると,この技術は電波を用いて数メートルの距離をワイヤレスで電力伝送するものであり,工場内のセンサー機器などへの給電において,電池交換やケーブル接続を不要にするメリットがある.これにより設置の自由度が向上し,IoTの活用を通じたSociety5.0の実現に大きく寄与することが期待されている.

2. beam WPTの実用化動向

空間伝送型ワイヤレス給電の応用例は,工場のセンサーやタイヤ圧監視,空港の電子タグなど多岐にわたる.これらの技術を世界規模で展開し,国をまたいで円滑に運用するためには,国際的な周波数協調の実現が不可欠である.

・ ペースメーカー

ペースメーカーとは,電池と電気回路を組み合わせた発振器と,それに接続された細いリード線で構成されるこの装置は,電線の先を心臓に取り付けることで一定のリズムの電気刺激を送り,心臓を拍動させる仕組みを持っている(図1)(1).この技術によって救われる命は多く,サッカーのデンマーク代表で背番号10番を背負うクリスティアン・エリクセン選手も,試合中に倒れた経験を経て,現在はこの装置を体内に装着しながら世界の第一線でプレーを続けている.しかし,装置の体積のほとんどを電池が占めており,装着には大掛かりな手術が伴う.スタンフォード大学はbeam WPTを活用し,電池やリード線が不要な超小型ペースメーカーを実現した(2).大幅な小型化で患者の負担を減らす一方,電波規制により給電不能な国があれば人命に関わるリスクもはらむ.普及には国際的な法整備が不可欠だが,この技術は心臓疾患を抱える人々の生活を劇的に変える可能性を秘めている.

beam WPTの応用例(ペースメーカー)

・ Factory Automation

マイクロ波による工場の制御系センサーへのワイヤレス給電は,断線リスクの解消や配線工数の削減,柔軟な設備レイアウトを実現する.しかし,グローバル展開する自動車メーカーなどが導入する際,国ごとに異なる周波数規制への適応が大きな障壁となる.電波を利用する性質上,各国の法規制に応じた周波数設定や個別調整が不可欠である.物理的な配線から解放されるメリットがある一方で,電波法上の制約が運用の複雑さを招いており,世界規模でのシームレスな展開を阻む現状の課題となっている.

・ TPMS(Tire Pressure Monitoring System,タイヤ空気圧監視システム)

欧州での規制義務化(3)により,タイヤの空気圧をセンサーで常時監視するTPMSの重要性が高まっているが,現行の電池駆動式センサーには運用上の大きな課題がある.電力消費を抑える設計上,遠心力などを利用して走行中のみ計測を行う製品が多く,安全性の観点から計測頻度を増やそうとすれば電池寿命が短くなり,交換頻度が上がってしまう点だ.この解決策として,駐車場などでの停車中に外部から非接触で給電する仕組みが望まれており,マイクロ波を用いてタイヤの外側から内部のセンサーへ電力を送る技術が注目されている(図2).しかし,この技術の社会実装には世界規模での周波数協調が欠かせない.例えば,日本で製造された車両を欧州へ出荷する際,各国の電波法に基づいた給電周波数が異なっていれば,現地のインフラ設備で給電できずシステムが機能しなくなるからだ.ワイヤレス給電は物理的な制約を解消する画期的な手段である一方,グローバルな市場展開においては各地域の周波数規制への適応が運用の複雑さを招いており,国際的な標準化の実現が普及に向けた最大の鍵となっている.

beam WPTの応用例(TPMS)

・ 物流タグ

空港での手荷物預けに用いられる紙タグは,折れやねじれによりカメラの読み取りミスを誘発し,飛行機の遅延を招く要因となっている(4).これに対し,キャリーケースに電子タグを装着し,空港内でワイヤレス給電を行いながら情報を書き換える運用が考えられる(5).しかし,キャリーケースは世界中を移動するため,訪問国によって給電周波数が異なるとタグを更新できず,運用に支障をきたす.紙タグの弱点を克服する電子タグの社会実装には,マイクロ波給電などの技術に加え,国をまたいだ周波数協調による標準化が極めて重要となっている.


以上の応用例の全ては,国際的な周波数協調が必要である.

・ 人体への影響

以上のような応用例が期待されている一方で,筆者の経験上,必ずと言っていいほど人体への影響について懸念の声が上がる.誌面の都合上,詳細は割愛するが,日本では総務省から「電波の安全性に関する取り組み」(6)が公開されている.また,定性的には,手に持ちながら,またはポケットに入れながら使用する無線機器と比べて,主にオフィスビルの天井や工場の製造ラインに設置されるWPT機器は人体への距離が相対的に遠く,安全面で優位であると言える.

3. beam WPTの国際標準化動向

上述のとおりワイヤレス給電には多岐にわる応用例があり,普及に向けた国際標準化や制度化も着実に進んでいる.本稿では,グローバル展開に不可欠な国際的な枠組みに加え,地域的な連携,更に各国固有の法規制という三つの階層に分けて現状を詳説する.

・WRC(World Radiocommunication Conference)

WRC(世界無線通信会議)は,国連加盟国が参加して4年に1回開催される無線通信分野で最も重要な国際会議の一つである.この会議で決定される無線通信規則(RR)の改訂は国際条約としての法的強制力を持ち,各国の電波利用の在り方を左右する.次回のWRC-27は中国の上海で開催される予定であり,本会議に向けて年1回程度の頻度で準備会合(CPM)や地域的な調整会議が重ねられる.現在,WPTは2031年開催予定のWRC-31に向けた「暫定議題」としてリストアップされている.空間伝送型WPTをグローバルに普及させるには,既存の通信や天文観測との干渉を避けつつ,世界共通の周波数帯を確保することが不可欠である.そのため,次回のWRC-27においてWPTを「確定議題」へと昇格させ,国際的な周波数割り当ての調和に向けた具体的な議論を加速させることが,技術の商用化に向けた極めて重要なステップとなっている.

・ ITU-R

ITU-RのSG1 WP1Aは,WPTのスペクトラム管理を所掌し,報告書(Report SM.2392(7)等)や勧告(Rec. SM.2151(8)等)を策定している.ITU-R勧告自体に条約のような法的拘束力はない.しかし,WTOのTBT協定(貿易の技術的障害に関する協定)に基づき,加盟国は国内の技術規制を国際規格に基づかせるよう求められている.このため,ITU-Rでの合意は実質的な国際標準として機能し,各国制度への反映を促す強い圧力が働く.WPTをグローバル展開する上で,WP1Aでの合意形成は有効な手段である.

・ 地域標準化会合

空間伝送型ワイヤレス給電(WPT)の普及に向け,世界各地で制度整備が加速している.アジア太平洋地域の国際機関であるAPT(アジア・太平洋電気通信共同体)では,無線通信グループのAWG-35にて勧告の策定が開始され,今後は作業文書の作成を通じて標準化が進む見通しだ.同様の動きは,米州の通信規制を調整するCITEL(米州電気通信委員会)でも見られ,2025年10月の第46回PCC.II会合にて,ビーム型WPTの勧告化を目指す具体的な提案(文書6335)が提出された.一方,欧州の標準化団体であるETSI(欧州電気通信標準化機構)では,先行してシステムリファレンスドキュメント「TR 103 774」(9)を発行している.これら各地域の規制当局が連携することで,マイクロ波を用いたWPT技術のグローバルな商用化と周波数共用のための国際的な基盤が急速に整いつつある.

・ 各国の制度化状況

日本や北米では920MHz,2.4GHz,5.8GHz帯を中心にWPTの制度化が進んでいる.米国ではFCC認証を取得すればエンドユーザーによる免許取得なしで展開が可能であり,カナダでもISEDの特別認可(Special Authorization)によって導入できる仕組みが整っている.一方,日本では「構内無線局」の枠組みが適用されており,設置する機器1台ごとに無線局免許の取得が必要となる.このように,機器認証のみで運用可能な北米の制度に対し,日本では個別の免許管理が求められる運用上の違いがある.ワイヤレス給電の普及に向け,こうした各国・地域における手続きの差異を把握し,それぞれの規制に即した導入計画を立てることが重要となっている.

・ そのほかの標準化動向

関連トピックとして,3GPPのRelease 19では「Ambient IoT」の仕様化が進められている(10).これは,高周波を利用した無線給電により駆動するデバイスが,携帯電話の基地局や端末と通信を行うユースケースを想定したもので,Beyond 5Gの一種と位置付けられる.エネルギーハーベスティング技術により,バッテリーレスや超低消費電力での動作が可能となるため,膨大な数のセンサーやタグを既存のモバイルネットワーク内に効率的に収容できるのが特徴だ.通信と電力供給を一体化させるこの技術は,物流や製造現場におけるデジタルトランスフォーメーションを加速させる次世代の通信基盤として大きな期待が寄せられている.

4. beam WPTの国際標準化のための取組み

国際標準化は,優れた技術を単なるローカルルールにとどめず,世界規模の「共通言語」へと昇格させる戦略的なプロセスである.これは単なる技術論ではなく,ビジネス,工学,外交が交錯する領域であり,特に以下の三点がその成否を分ける.


・ 市場性:規格が策定されても実需要がなければ形骸化する.具体的なユースケースを通じて,世界規模で経済的利益を生むことを証明し,多くの賛同企業を得る必要がある.

・ 他の無線局との技術的共用:電波は有限な公共財であり,既存の通信インフラや天文観測への干渉回避は国際条約上の必須条件である.ITU-R等での緻密な技術検証と合意形成が欠かせない.

・ 政治的観点からの推進:標準化は国家間の主導権争いでもあり,政府による二国間対話や国際会議での働きかけが,規制緩和や周波数の共通化を強力に後押しする.


これら三要素が相互に機能することで,一企業の技術がデジュール標準として確立され,グローバルな社会実装が可能となるのである.

・ 市場性

beam WPTの市場展開は,産業界と学術界の強力な連携によって加速している.国内では,エイターリンクが計測機器大手のローデ・シュワルツと協業(11)し,ローデ・シュワルツ・ジャパンのオフィス環境を実証実験の場として活用するなど,新たなソリューションの創出に向けた連携を強化.また,パナソニックはマイクロ波研究の権威である京都大学と提携(12)し,高効率な長距離給電技術の共同研究を進めている.北米市場では,複数社のスタートアップが存在する.特に,Energousは空間給電で世界初のFCC認可を取得した「WattUp」を展開し,Powercastは広範囲なRFエネルギーハーベスティングで豊富な実績を持つ.更に,Ossiaはスマートアンテナ技術を用いて移動体へも自動追尾で給電可能な「Cota」を提供している.このように,グローバルな試験計測体制の確立,アカデミアによる技術革新,そして先行する海外企業による市場展開が相互に作用することで,製造業やIoT分野におけるケーブルレス社会の実現が現実味を帯びている.

・ 他の無線局との技術的共用

WPTは高い市場性を有する一方,電波を利用するため既存の無線局との共用検討が不可欠である.まず日本国内の検討では,総務省令の改正に際して携帯電話システムやRFIDシステム等との干渉評価が行われ,既存の無線通信を阻害しないように技術基準が策定された(13).次にITUでの検討については,ITU-Rの研究課題として国際的な場で議論が継続されており,その研究成果はレポート「ITU-R SM.2505 (2022)(14)」に詳細にまとめられている.同レポート内のTable 4では,WPTからの電波による被干渉対象としてRFIDが明確に挙げられており,Table 11の「Coexistence with other wireless systems(他の無線システムとの共存)」の欄では,各システムとの共用条件に関する最終的な結論が示されている.このように,国内・国際の両レベルで緻密な技術検討が行われることで,既存の無線インフラと調和した形でのWPTの社会実装が進められている.

・ 政治的観点からの推進

WPTの国際展開には日本政府の強力な後押しが不可欠である.エイターリンクは,2025年10月にインドで開催された「India Mobile Congress 2025(IMC 2025)」及び「第8回日印政策対話」に総務省とともに参加した(15).本会合には,日本側から今川総務審議官,インド側からミッタル通信省次官がそれぞれ代表として出席し,両国の協力関係が改めて確認された.こうした国際的な場において,日本の先進技術を直接アピールする機会を得られたことは,グローバルな市場開拓に向けた大きな一歩となった.新技術の海外展開において官民連携の枠組みを構築し,多大な支援を提供いただいた総務省には深く感謝したい.こうした政府による積極的な後押しは,日本のWPT技術が世界市場を牽引し,国際標準化を推進する上での重要な原動力となっている.

5. 最 後 に

本稿では,beam WPTの実用化状況と国際標準化動向をまとめた.既に述べたとおり,実用化や制度面の双方において進捗している.

個人的な思いとしても,日本発の技術及び制度であるので,市場展開,国際標準化を推進していきたい.経済成長,経済安全保障,スタートアップ支援などあらゆる文脈から考えても,このWPT技術が世界展開できないのはもったいない.なぜならば現在は参入企業が少なく,まさに「ブルーオーシャン」の状況だからである.他の技術で,日本発でも外国企業に市場を占有されてしまった過去を一掃する可能性を秘めた技術だと考えている.一方で,規制観点で市場展開が阻まれるのはあってはならず,その対策の必要性について訴え続けていきたい.

文     献

(1)ペースメーカーとは,https://www.ompu.ac.jp/u-deps/tho/intro/device/pacer.html

(2)Stanford engineers create a tiny, wirelessly powered cardiac device,https://engineering.stanford.edu/news/stanford-engineers-create-tiny-wirelessly-poweredcardiac-device

(3)欧州規則(EU)2019/2144(General Safety Regulation)第9条第2項(Article 9,Paragraph 2),https://eur-lex.europa.eu/eli/reg/2019/2144/oj

(4)RFID Bag Tag Initiative Fact Sheet,https://www.iata.org/contentassets/7d6e4b7e0fbf407eb780e8450 102723b/fact-sheet-rfid-bag-tag.pdf

(5)ルフトハンザ航空,https://www.lufthansa.com/jp/ja/digital-baggage-services

(6)電波の安全性に関する取り組み,https://www.tele.soumu.go.jp/j/sys/ele/index.htm

(7)Report SM.2392,https://www.itu.int/dms_pub/itu-r/opb/rep/R-REP-SM.2392-1-2021-PDF-E.pdf

(8)Rec. SM.2151,https://www.itu.int/dms_pubrec/itu-r/rec/sm/R-REC-SM.2151-0- 202209-I!!PDF-E.pdf

(9)ETSI TR 103 774 V1.1.1 (2022-02),https://www.etsi.org/deliver/etsi_tr/103700_103799/103774/01. 01.01_60/tr_103774v010101p.pdf

(10)Ambient IoT: Redefining Wireless Communication for Industry 4.0,https://www.3gpp.org/technologies/anbient-iot-tsdsi

(11)電子計測器のリーディングカンパニーであるローデ・シュワルツとの協業を開始,https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000049.000071264.html

(12)パナソニック株式会社,マイクロ波電力伝送システムのサンプル提供開始,https://news.panasonic.com/jp/press/jn220324-3

(13)情報通信審議会 情報通信技術分科会 陸上無線通信委員会 空間伝送型ワイヤレス電力伝送システム 作業班 報告(案)諮問第2043号「空間伝送型ワイヤレス電力伝送システムの技術的条件」のうち「920MHz帯空間伝送型ワイヤレス電力伝送システムの屋外利用等に係る技術的条件」,https://www.soumu.go.jp/main_content/001021537.pdf

(14)SM.2505 (2022), Impact studies and human hazard issues for wireless power transmission via radio frequency beam,https://www.itu.int/pub/R-REP-SM.2505-2022

(15)India Mobile Congress 2025(IMC 2025)及び第8回日印政策対話の開催結果,https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01tsushin09_ 02000187.html,2025年10月14日

(2025年12月29日受付)

 用 語 解 説

beam WPT  空間伝送型マイクロ波ワイヤレス給電のことを意味する.日本では920MHz帯,2.4GHz帯,5.7GHz帯が制度化されている.本文中ではWPTと示す場合がある.

著者

だて なお

2015中大大学院理工学研究科電気電子情報通信工学専攻了.同年ザインエレクトロニクス株式会社入社.NXPジャパン株式会社を経て,2020エイターリンク株式会社に創業メンバーとして参画.技術統括を経て,現在,Head of IP&Standardizationとして国内外の標準化活動に従事.日本代表団としてWPTの国際標準化活動に参画.


続きを読みたい方は、以下のリンクより電子情報通信学会の学会誌の購読もしくは学会に入会登録することで読めるようになります。 また、会員になると豊富な豪華特典が付いてきます。


続きを読む(PDF)   バックナンバーを購入する    入会登録

  

電子情報通信学会 - IEICE会誌はモバイルでお読みいただけます。

電子情報通信学会誌 会誌アプリのお知らせ

電子情報通信学会 - IEICE会誌アプリをダウンロード

  Google Play で手に入れよう

本サイトでは会誌記事の一部を試し読み用として提供しています。