
(写真:敬称略)
本会選奨規程第7条(電子工学及び情報通信に関する学術又は関連事業に対し特別の功労がありその功績が顕著であって功績賞を受けたことのない者)による功績賞(第87回)受賞者を選定して,2025年度は次の3名の方々に贈呈した.

柏野邦夫
推 薦 の 辞
柏野邦夫君は,1990年に東京大学工学部電子工学科を卒業後,1995年に同大学大学院工学系研究科において博士号を取得されました.1995年4月に日本電信電話株式会社(現NTT株式会社)に入社され,基礎研究所において,音楽や映像などを対象とするマルチメディア理解の研究に従事されました.その後,1999年から現在までコミュニケーション科学基礎研究所に所属され,2010年から研究グループリーダ,2014年から2019年まで研究部長,2015年から上席特別研究員,2023年からNTTフェローとして活躍しておられます.その間,2002年にケンブリッジ大学訪問研究員,2008年から国立情報学研究所客員教授,2015年から2020年まで東京大学大学院客員教授,2023年から大阪大学招へい教授を務められるなど,アカデミアでの教育・研究にも従事してこられました.
同君は,30年以上にわたるマルチメディア理解の研究において,物体などの認識精度の向上のみを志向するのではなく,実世界のメディア情報に内在する構造を見いだす分析技術(情景分析),メディア情報の高速な辞書引き技術(メディア探索),その辞書自体をデータから構成する技術(概念獲得)といった斬新な観点の研究を世界に先駆けて提案し,当該分野を開拓してこられました.このうちメディア探索の研究では,国際論文誌IEEE Trans. Multimediaにおいて日本人初となる論文賞を受賞しただけでなく,その技術に基づいて実現された音楽映像の著作権管理サービスは,「ASPICクラウドアワード2015 総務大臣賞」を受賞するなど適正なメディアコンテンツ流通の基礎となる社会インフラとして広く活用されています.また概念獲得の研究では,話し言葉の意味内容に基づく音源分離を初めて実現され,その成果はマルチメディア分野のトップ国際会議であるACM Multimediaにおいて表彰されました.更に近年では,従来のメディアデータだけでなく生体情報にも対象領域を広げ,未来の医療と健康を見据えた生体モデリングの研究を主導されています.このように,研究分野の開拓から社会実装にわたる一連の取組みと研究成果は世界的に高く評価されております.
同君は,これまでの業績に対し,前述の各賞のほかにも,科学技術分野の文部科学大臣表彰若手科学者賞,同科学技術賞など多数の学術賞を授与されております.本会においては,業績賞,情報・システムソサイエティ論文賞,同活動功労賞などを受賞され,2018年にフェローの称号を授与されています.また,本会情報・システムソサイエティ会長,本会編集理事,本会パターン認識・メディア理解研究専門委員会委員長,国際パターン認識連盟(IAPR)日本代表理事,日本学術会議連携会員を務められるなど,研究分野の発展をけん引しておられます.
以上のように,同君の電子情報通信分野への貢献は顕著であり,本会の功績賞を贈呈するにふさわしい方であると確信致します.


藤掛英夫
推 薦 の 辞
藤掛英夫君は,1985年に東北大学大学院修士課程を修了後,日本放送協会(NHK)に入局し,長野放送局を経てNHK放送技術研究所において研究員,主任研究員として表示デバイス研究を牽引されました.2003年に博士(工学)を取得され,2012年から東北大学工学研究科電子工学専攻教授として教育研究に従事され,2024年には主任専攻長,2025年にはディスティングイッシュトプロフェッサの称号を授与され,現在に至っておられます.
同君の功績は,「人に優しい電子ディスプレイ技術の先導研究」に集約されます.将来の情報共有化社会を見据え,人間科学と有機材料工学を融合したデバイス基盤技術群を創出し,人と情報をつなぐヒューマンインタフェースの発展に貢献してこられました.
まず,フレキシブル動画ディスプレイの提唱者・先駆者として1997年頃より液晶のフレキシブル化研究に着手し(1998年には最初の学会発表),プラスチックフィルム基板を接合して構造を安定化する高分子スペーサ壁を開発することで,2002年に丸められる液晶デバイス(10 cm角)を世界で初めて実現しました.更に印刷製法やフレキシブルバックライトを開拓して,A4サイズのディスプレイ開発に展開しました.その後,塗布型の極薄フィルム基板の開発により数mmまでの巻き取りを実証し,当該分野を先導しました.
その一方で,視覚疲労の原因となる輻輳─調節矛盾を回避できる理想的立体表示方式である電子ホログラフィの実用化に向け,超高解像度液晶駆動技術を世界に先駆けて開拓しました.光ナノインプリントで形成した微細高分子隔壁により画素間の漏れ電界や液晶分子配列の弾性伝搬を遮断し,2019年に1 µmピッチ画素の独立駆動に世界で初めて成功しました.更に,逆極性電圧駆動の薄膜液晶(強誘電性液晶)の層状分子配列を矯正することで0.7 µmピッチ動作を確認するなど,微小駆動液晶の探究で独走する成果を挙げています.
上記に加えて,色温度変換や反射光抑制など撮像用適応光学フィルター群の番組制作での実用,液晶の誘電率異方性を活用した無線通信用位相器やリフレクトアレイに用いる高速液晶の開発など,画像情報の入力・伝送・出力の基盤技術を創出し,高画質な映像を「いつでも楽しめる」環境の実現に貢献してこられました.
これらの功績は,本会フェロー,IEEEフェロー,映像情報メディア学会フェロー,応用物理学会フェローの授与,並びに本会論文賞,本会業績賞,SID Distinguished Paper Award等の受賞,更に紫綬褒章の受章にも示されています.また,本会電子ディスプレイ研究専門委員会委員長,本会東北支部長等の要職を歴任するとともに,IEEE Consumer Electronics Society Japan Chapter Chair,国際会議International Display Workshops(IDW)のプログラム委員長・組織委員長,日本液晶学会副会長などを通じ,分野の国際的活性化にも尽力されました.
以上のように,同君の電子情報通信分野への貢献は極めて顕著であり,本会功績賞を贈呈するにふさわしい方であると確信致します.


水落隆司
推 薦 の 辞
水落隆司君は,1988年に大阪大学大学院基礎工学研究科物理系専攻博士前期課程を修了し,同年,三菱電機株式会社に入社されました.その後,大阪大学大学院基礎工学研究科システム創成専攻博士課程を修了されました.2017年から先端技術総合研究所長,2021年からは開発本部執行役員を歴任され,2025年からは研究開発本部シニアフェローとして活躍されています.
同君は長年にわたり光通信システムの研究開発に従事し,超高速・長距離通信を実現する先進的な技術開発を主導してこられました.現在では国際的に常識となっている,連接符号による誤り訂正(FEC)及び高度なデジタル信号処理を活用した軟判定FECを核とする新世代FECの実用化において,導入における先駆者として卓越した役割を果たしました.特に同君は1波長当り100 Gbps以上伝送可能なデジタルコヒーレント光通信方式の実用化に大きく貢献しました.100 Gbps以上の超高速化と長距離化を実現するためには,雑音帯域の増加に伴うビット誤りを改善する高性能な誤り訂正技術が必要となりますが,硬判定誤り訂正とデジタル信号処理(DSP)によるデジタル信号から対数尤度比を求める軟判定誤り訂正を組み合わせることで高い誤り訂正能力を実現しました.通常,軟判定で高い誤り訂正能力を発揮するためには膨大な規模の演算回路が必要となりますが,回路規模をできる限り抑え,高性能な誤り訂正能力を両立する新たに考案した3重連接符号による誤り訂正技術は,100 Gbps以上伝送可能なデジタルコヒーレント光通信方式の商用化に大きく寄与しました.これらの成果はシャノン限界に迫る世界最高水準のFECの商用化につながり,本分野において「物理(光・電気)でゼロ誤りを目指す」時代から「統計的・信号処理で誤りを許容し耐性を高める」革新的パラダイムへと転換させました.
また,産業面での波及効果が絶大な上記功績に加え,本会の光通信システム研究専門委員会の委員長を務め,光通信技術の学術的発展にも寄与されました.当委員会においては新たにサマースクールを設立し,10年以上経つ現在においても毎年200名以上の聴講者を集める人気イベントとして続いています.また,2020年度から2023年度には本会理事・企画戦略室長,2025年度からは副会長を歴任されるなど,学会の発展に尽力されてきました.同君は,これまでの業績に対し,情報通信技術賞 総務大臣表彰(2013),前島密賞(2015),文部科学大臣表彰 科学技術賞(2016)など多数の学術賞を授与されたほか,2014年度には本会のフェローの称号を授与されています.
以上のように,同君の電子情報通信分野への貢献は極めて顕著であり,本会の功績賞を贈呈するにふさわしい方であると確信致します.


