
(写真:敬称略)
本会選奨規程第20条(電子情報通信分野において,学術,技術,標準化などにおいて特に顕著な貢献が認められ,今後の進歩・発展が期待される)に基づき,下記の2件を選び贈呈した.
学術界貢献
深層学習を用いた次世代動画像圧縮技術の研究と実用化

受賞者 孫 鶴鳴
孫 鶴鳴君は,2017年に早稲田大学大学院情報生産システム研究科において博士(工学)を取得後,日本電気株式会社,早稲田大学,横浜国立大学を経て,現在は東京科学大学の准教授として活躍されている.
同君はこれまで,深層学習を用いた動画像圧縮技術に注力し,符号化アルゴリズムの開発からFPGAを用いた実時間実装まで,幅広い研究開発を進めてきた.初めに,国際標準規格HEVCにおけるイントラ予測部を深層学習で置き換える方式(部分適用型)の提案を行い,次に,アテンション機構やTransformerなど,当時の最先端の深層学習技術を取り込みながら,画像符号化全体を深層学習で実現する学習型画像圧縮(エンドツーエンド型)の提案を継続的に行った.更に,クロスプラットフォーム問題を回避可能な学習型画像圧縮の固定小数点実装を世界に先駆けて行うとともに,パイプライン型FPGAアーキテクチャを設計し,発表当時は世界最速の2K@30fpsの学習型コーデックシステムを実現した.
これらの研究成果は,トップカンファレンスに位置付けられるCVPRに4回採択されるとともに,多数のIEEE論文誌にも掲載され,トータルの引用数は4,000件を超えている.また,学習型画像圧縮に関する報告は,2回のSOTAを獲得するとともに,オープンソース公開を行うことで世界中の研究開発コミュニティを活性化し,2025年に規格化が完了したJPEG-AIにも貢献している.
同君はまた,国際活動にも積極的に貢献しており,国際会議におけるチュートリアル講演を5回,スペシャルセッションなどの企画を5回担当している.受賞歴も国内外で25件に達し,文部科学大臣表彰若手科学者賞やIEEE CASS VSPC Rising Star(日本機関からは初)など,多数の賞を受賞している.
以上のように,同君は電子情報通信分野において顕著な研究開発実績を有しており,本賞の受賞にふさわしく,今後の更なる研究開発の進展と活躍が期待される.

産業界貢献
自律型ネットワークの研究開発と国際標準化/運用者コミュニティへの貢献

受賞者 宮坂拓也
宮坂拓也君は,利用者の意図(Intent)に基づきネットワークを完全自動化する「自律型ネットワーク」の実現に向け,通信事業者の実運用課題に根差した研究開発から国際標準化,実用化,更にはコミュニティ展開に至る一連の活動を主導し,産業界に顕著な貢献を果たしてきた.
同君はまず,自律型ネットワークの基盤技術として,AIを用いた障害予兆検知・原因分析技術の研究開発を推進した.商用ネットワーク特有のトラフィック変動特性に着目し,独自のAIモデルを構築することで,大規模商用環境における実用性を飛躍的に高めた.また,低レイヤの性能指標を活用した5Gコア網の障害予兆検知技術は,国際的なAI運用コンペティションで採用されるなど高く評価を受けている.加えて,SRv6(Segment Routing over IPv6)を用いたIntentによるトラフィック制御手法を確立し,運用自動化に必要な制御技術の高度化を実現した.
更に同君は,これらの研究成果を業界全体で利用可能な共通基盤とすべく,IETF,TM Forum,IOWN-GF等における国際標準化活動を主導した.複数の標準化団体を跨って仕様策定を牽引するとともに,海外主要通信事業者(VerizonやTELUSなど)との概念実証(PoC)を企画・主導し有効性を実証した.特にこの取組みは,TM Forumにおいてはその革新性と実用性が評価され「Outstanding Catalyst」賞の受賞に導いた.
加えて,国内最大のネットワーク運用者コミュニティであるJANOG(JApan Network Operators’ Group)において会長等の要職を歴任し,研究成果や標準化成果を実運用者へ広く展開することで,国内通信業界全体の運用品質向上と技術力底上げに大きく貢献した.
以上のように同君の活動は,先端研究を実運用・産業界全体の価値へと結実させた点で末松安晴賞の趣旨に合致するものであり,その功績は極めて顕著である.今後の更なる活躍に期待する.


