
イベントカメラのアプリケーションと今後の課題
Event Camera Applications and Challenges

イベントカメラは,従来のフレームベースのカメラとは異なり,輝度変化があった画素のみからデータを得るため,消費電力やデータ効率の高さや,時間解像度の高さといった特徴を持つ.直近10年間で研究フェーズから徐々に企業でも使われ始めており,アプリケーションは,従来のコンピュータビジョンと同じような車,ロボティクス,外観検査といったものから,イメージングや可視光通信といったものまで幅広く研究されている.本稿では,イベントカメラの特徴を紹介し,様々なアプリケーションを紹介する.また現在の課題を挙げ,今後の産業化に向けた可能性と方向性を論じる.
キーワード:イベントカメラ,コンピュータビジョン,エッジセンシング,ロボティクス,光通信
1. イベントカメラの概論
1.1. 従来のフレームベースカメラの課題
画像や動画を処理する技術体系であるコンピュータビジョン(画像処理)分野の日常生活への恩恵は幅広い.特に近年では人工知能(AI)技術の進展により,工場の自動化からスポーツ解析まで産業応用され,画像処理AI技術市場は2030年までに全世界で20~200兆円規模と予測されている.しかしながら,様々な手法が成熟すると同時に,従来の画像処理システムに根本的に存在している課題の重要さが相対的に増してきている.例えば,
・ 手ブレや限られたダイナミックレンジ(用語1)より画像が劣化し,シーンに対する頑健性が低い.
・ 自動運転,ロボット等の応用では,30fps(秒間30枚)のフレームレート分の遅延が致命的となり得る.
・ AI手法では,大量の電力とデータ帯域を必要とする.
このような課題に対して,2014年頃に製品化されたイベントカメラは,従来のフレームカメラとは異なり,シャッターを持たない.従来のカメラが常に全画素同時にデータを記録(画像)するのに対し,イベントカメラは,各画素が独立して変化(イベント)のみを検出する(図1).その結果,ブレが最小になり,広いダイナミックレンジを持ち,電力とデータ効率が高く,時間解像度とデータ量のトレードオフを根本的に解決する,フレームベースの画像処理システムでの課題を解決する新しいカメラである(表1).もともと生物の網膜の仕組みに着想を得て開発されたこのカメラについて,本稿では,世界的な潮流について解説し,アプリケーションの取組みを紹介し,最後に今後の課題について論じる.


1.2. イベントカメラの仕組み
生物の網膜や脳は,それぞれの細胞が入力信号を受け取ったときのみ活動するため,非常に高速でありながら電力効率が高い.そのような仕組みを模したイベントカメラは,画像内に一定以上の輝度変化があった画素のみが非同期的にイベントを出力する(図2).番目のイベント
は,画素の位置
,時刻
,輝度変化
(明/暗)からなる時空間の座標である.イベントはエッジ(例:サッカーボールの輪郭)の動きなどによって輝度に変化があった画素で疎に独立して発生し,発生数は状況によって変化する.


