小特集 折り紙の科学 1. 計算折り紙について Computational Origami
上原隆平
「紙を折ること」を研究する計算幾何学の新しいフロンティア
「紙を折ること」を研究する計算幾何学の新しいフロンティア
私たちの頭を守る数理の力を解説
コンパクトで携帯や収納に便利な折り畳み式製品は多数存在するが,傘の開閉のように簡単な操作による折り畳みの仕組みを有するものについては,形状や素材がかなり限定されてしまう.そこで,本稿では,その壁を破るための一つの方策として多面体の連続的折り畳みの問題を取り上げ,歴史的な経緯を紹介し,既知の三つの方法についてその概要を計算手順とともに示す.特に,ひし形の一般形であるたこ形の翼折りは,多面体の連続的折り畳みの過程を具体的に表現できることを例によって示し,折り畳み式製品にどのように活用できるかを述べる.
効率的な処理のためのテクニックを紹介
展開図というと,小学校の算数の時間に,立方体や直方体,その他様々な多面体を,楽しみながらチョキチョキと切り開いたことを懐かしく思い出される方が多いだろう.また,立方体の11種類の展開図を見て,元の立方体のどの辺を切るかという,二次元図形と三次元立体の対応に頭をひねった方も多いだろう.本稿では,与えられた多面体に対して展開図は何個あるかを求める数え上げや,展開図を漏れなく重複なく全て求める列挙について述べる.
新たな視点によるイノベーションを期待して
折り紙の優れた点は展開収縮できる点である.折り紙の産業化はこの特徴をいかに安価に引き出せるかであるが,時にこの特徴を抑え込むことも要求される.例えば長年の課題であるペットボトルが一旦折り畳まれた後,スプリングバック力で元に戻ったりする.このように折り紙構造の産業化は困難であるが,最近産業化に近づきつつある①人間より器用さで劣る折り紙ロボットでも折れる型紙を求める折り紙式プリンタ,②ハニカムコアを凌駕することを目指したオクテットトラスコア,③優れたエネルギー吸収特性を示す折り紙構造,の3点をここで紹介する.
形状記憶合金シートや細胞で立体構造を作る
私たち日本人が小さい頃から慣れ親しんでいる折り紙は,近年,工学分野をはじめとして様々な分野に応用されている.特に医療や再生医療への応用は,微細加工技術,3Dプリンティング技術との組合せにより,目覚ましく発展してきている.iPS細胞などを用いた再生医療においては,細胞で狙った立体構造を安価に大量に作る必要がある.そこで,細胞を折り紙のように折ることで簡単に立体構造を構築することができると考えた.本稿では,筆者がこれまで取り組んできた折り紙技術を用いた医療器具や再生医療への応用に向けた研究について紹介する.