小特集 電子情報通信技術のもたらす社会・個人への影響――倫理綱領改定に向けて――   1. 良い倫理的意思決定のための倫理綱領 ――研究・イノベーションと倫理―― Code of Ethics for Better Ethical Decision Making:Research, Innovation, and Ethics

小特集 電子情報通信技術のもたらす社会・個人への影響――倫理綱領改定に向けて――
 
1. 良い倫理的意思決定のための倫理綱領
――研究・イノベーションと倫理――
Code of Ethics for Better Ethical Decision Making:Research, Innovation, and Ethics

p.178
大谷卓史 大澤博隆 壁谷彰慶 川口嘉奈子 川口由起子 神崎宣次 久木田水生 杉本俊介

より良い意思決定のため倫理綱領を生かすには
 専門職団体の倫理綱領は,その団体成員が重視する価値を社会に宣言し,その専門知を善用することを約束する働きがある.その一方で,成員の専門職としてのアイデンティティの形成や倫理的意思決定(倫理的判断)の支援も期待されている.本稿においては,倫理的判断を支援する倫理ガイドラインを参照し,倫理的判断の基本的枠組み及び,複数の価値の対立があった場合の問題などを解説し,研究・イノベーションの各場面で科学者・エンジニアが良い倫理的判断を行うため,倫理綱領をどのように活用すべきか考察する.

小特集 電子情報通信技術のもたらす社会・個人への影響――倫理綱領改定に向けて――   2. データサイエンス・人工知能社会における差別と偏見 Discrimination and Social Biases in AI/DS Society

小特集 電子情報通信技術のもたらす社会・個人への影響――倫理綱領改定に向けて――
 
2. データサイエンス・人工知能社会における差別と偏見
Discrimination and Social Biases in AI/DS Society

p.184
村上祐子

誰も取り残さないデータソサイエティのために
 我々及びそれ以降の世代は人工知能(AI)やデータサイエンス(DS)が社会インフラに組み込まれた社会で様々な社会資源を利用しながら暮らすことになる.現在の社会には差別や排除の構造が組み込まれており,可能であれば今後はその構造を除去したいところだ.しかし,過去のデータに基づいて組み立てられたシステムでは過去の差別や偏見が強化される.この現象をアルゴリズム的偏見と呼ぶことがある.本稿では更に,データ項目設計・データ収集・データ分析・社会における利用の四つのステージに分けて考察し,特にデータ項目設計のステージで社会制度に内在する差別をそのまま反映させることをハンナ・アーレントの観察の延長線上にあるものとしてディジタル版「凡庸という悪」と呼ぶことを提案する.

小特集 電子情報通信技術のもたらす社会・個人への影響――倫理綱領改定に向けて――   10. 倫理綱領・行動指針の改定について Revise Charter of Ethics of IEICE

小特集 電子情報通信技術のもたらす社会・個人への影響――倫理綱領改定に向けて――
 
10. 倫理綱領・行動指針の改定について
Revise Charter of Ethics of IEICE

p.220
電子情報通信学会倫理綱領検討小委員会

倫理綱領と行動指針の改定
 2011年に行われた電子情報通信学会倫理綱領の改定と行動指針の制定から10年が経過した.この間に電子情報通信技術の発展により,社会や経済はディジタル化の恩恵を受けて大きく変化し,学会や学会員を取り巻く環境も大きく変化している.その変化に伴い,倫理綱領と行動指針も時代の変化に対応し続けるためにも定期的な見直しの検討が必要である.本稿では,2021年に設置された本会倫理綱領検討小委員会における検討の経緯と,これまでの議論をまとめた改定案を紹介する.