カテゴリー: 会誌99号_Vol.4
小特集 1. 文化創造学としての工学 Engineering as a Cultural Creation Science
原島 博
いつの時代も工学は文化創造学だった!
工学には二つの顔がある.一つは応用理学としての工学であるが,これは工学を方法論で定義している.一方で工学の目的は人の生活水準を向上させることであり,この立場から工学を定義すると,人間学,文化創造学となる.更には近代において工学は,工業生産学として発展してきた.それは,その時代において物質的な文化の創造が重要であり,それを工業が担ってきたからであるが,時代は変わりつつある.これからは,心の豊かさをもたらす文化を目指す工学,そして人々の創造的生活を支える工学として発展することが望まれる.
小特集 2. 文化遺産の記録と再現 ――「コト」のディジタルアーカイブの実現に向けて―― Recording and Reproduction of Cultural Heritages: Towards Digital Archiving of Traditional Cultural Events
八村広三郎 田中 覚 西浦敬信 田中弘美
“形のない”人間の文化活動は記録できるのか?
有形無形の文化財・文化遺産をディジタル化し保存するというディジタルアーカイブの考え方・アプローチは様々である.保存という視点だけでなく,活用という視点,すなわち,伝統を能動的に見直し,今後も更に発展し続けるであろうディジタル技術を利用して,更なる文化創造へとつなげていくことも必要である.本稿では,祇園祭における山鉾巡行を対象とし,これにまつわる文化事象「コト」を記録するという,立命館大学で取り組んできた活動の考え方,および,今までに実現できたことなどを報告するとともに,記録としてのアーカイブだけではなく,創造のためのアーカイブの可能性について考える.
小特集 4. 新技術と社会を架橋する ――ファブラボの文化―― FabLab Culture as a Bridge between New Technology and Society
田中浩也
パーソナルファブリケーションを後押しする
小形で安価なディジタル工作機械の出現によりパーソナルなものづくりが可能となった.これら工作機械を共有しコミュニティ形成を目指す実験工房として今世紀初頭に米国でファブラボが誕生した.そこではサービスの提供だけでなく,可能性を秘めた新しい技術をどのように生活に生かせるかを利用者が開拓している.更に農業,林業,介護などの地域の課題,社会的な問題に市民参加を促し取り組むデザイナーが出現している.新しい工作機械を開発するという研究課題も生まれる.そのような新しい価値創出の場としてのファブラボと大学の文化的な意義が期待される.
小特集 6. 文化創造学としてのことば工学 Language Sense Processing Engineering as Cultural Creation
阿部明典
ことばの感性探求からコミュニケーション支援へ
ことば工学では,感性を扱う工学として活動を行っている.例えば,コンピュータで詩やだじゃれ,物語を作成(支援)したり,人間の芸術的,文化的活動の解析などを行っている.本稿では,ことば工学としての活動を俯瞰し,それによる「心の豊かさをもたらす」工学としての活動の可能性を示す.