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最近では,家電量販店でもテレビや冷蔵庫と同じようにドローンが並び,販売され,誰でも比較的手軽に空を飛行させたり,上空からの映像を撮影したりすることができるようになりました.一般的に,家電量販店等で販売されているホビー用途のドローンの飛行範囲は,数百m程度の目視できる範囲内がほとんどですが,産業用途では,山やビルを超えた数kmから数十kmの目視外・見通し外での飛行が想定されています.このような目視外・見通し外で飛行するドローンを安全に飛行させるためには,自律飛行できるドローンでも木や電線,ビルなどの構造物,その他の有人ヘリ等の飛翔体との衝突回避が必須となり,ドローンの操縦だけでなく,現在の飛行位置や飛行状況,飛行中や離着陸時の周辺環境を遠隔にいる操縦者が把握し,確認できることが望まれています.
現在,私が所属する情報通信研究機構(NICT)では,空の安全利用の実現を目指し,目視外・見通し外でドローンを操る技術,飛翔体同士が互いの位置を知る技術,電波の使用状況と干渉リスクを可視化する技術等の研究開発を研究員や技術員が協力し合いながら進めています(図1).
現在,国内では,無人航空機システムを利活用するための環境整備や技術開発が盛んに進められています.また,欧州や米国,アジア等の海外においても同様に,無人航空機システムを安全運用するための取組みが進められています.このような中で,NICTでは,これまでに得られた研究開発等の成果を生かしつつ,国内外の制度設計等の環境整備に寄与すべく活動しています.特に,国内では,内閣府が開催する「小型無人機に係る環境整備に向けた官民協議会」等に参加し,必要な技術課題等について提言しています.また,無人航空機を安全・確実・スマートに運行させる仕組みをあらゆる面から検討している日本無人機運航管理コンソーシアムにも参加し,様々な業種の方々とともに議論しながら,人とドローンが共生する未来社会の実現に向けて取り組んでいます.一方,国外では,国際航空運送業務が機会均等主義に基づいて健全かつ経済的に運営されるように世界中の国々の協力を図ることを目的として設立された国連専門機関の一つである国際民間航空機関(ICAO)に参加し,各国や民間企業の代表者の方々と無人航空機が利用する周波数や通信規格等の策定作業を行っています.
NICTでは,研究開発したシステムを評価・検証するために,机上検討にとどまらず,ドローン等を用いたフィールド試験まで実施しています.フィールド試験では,机上検討だけでは得られないノウハウも蓄積することができ,そこで得られた成果や課題を次の研究開発につなげたりもしています.屋外でのフィールド試験では,準備万全で試験を迎えても,常に風や雨雪,気温などの自然環境に対して五感をフル活用して向き合いながら,試験や実験を繰り返さなければならず,知識や学力だけでなく判断力や協調性,忍耐力などの人としての総合力が問われるような経験もします.これまでに全国各地(ときには海外)でフィールド試験や実験を実施してきましたが,強風や極寒などの厳しい自然環境やアクシデントが生じる中,目的達成のために皆で連日議論し,時には徹夜で作業しながらやり遂げた試験や実験は何年たっても忘れることができません.研究開発が終了した後にも,少しでもその研究成果が何かに役立ったと感じられたとき,共にやり遂げてくれた関係者に改めて感謝の気持ちで一杯になります.目に見えるような成果が得られ,それが直ちに仕事のやりがいにつながるといったことが常に起こるわけではありませんが,目に見えないこういった人とのつながりや得難い経験といったものも仕事を続けるモチベーションになっている気がします.
20世紀末頃にジョン・D・クランボルツが提案した「計画された偶発性理論」によれば,個人のキャリアの8割は予想しない偶発的なことによって決定され,その偶発的なことは計画的に導くことができると言われています.私が縁あって携わってきた,これまでの研究開発のキャリアも正に予期しない出来事の積み重ねから決定されてきたように思います.本稿を読まれれる方がどのような仕事に就き,どのようなキャリアを形成していくか分かりませんが,本稿を読んでNICTの仕事に興味を持って下さる方がいらっしゃれば,一緒に仕事することを楽しみにしています.
(小野文枝)
(2019年7月5日受付 2019年8月8日最終受付)
今やパソコンやスマートフォンだけでなく,家電や車など多くの機器がインターネットにつながるようになっています.こうした情報通信技術の発展は私たちの生活をますます便利にしていきますが,その一方で,インターネット上で発生するサイバー攻撃の被害は増しています.
例えば,図2は,筆者らが取り組んでいる研究プロジェクトの一つであるNICTER(ニクター)(1)で捉えた,インターネット上でリアルタイムに発生しているサイバー攻撃の状況です.NICTでは国の研究機関として,サイバー攻撃対策技術の研究開発を行っています.
インターネットは(基本的には)国境のない世界です.図2が示しているのは,世界中にあるぜい弱な機器がコンピュータウイルスに感染し,(日本だけでなく)世界中に対して攻撃している様子です.つまり,世界中の機器が簡単につながるサイバー空間においては,日本(のインターネット)だけ安全であればよいというものではなく,インターネット全体でのセキュリティ確保が必要なのです.
そこで大事になるのは,国を越えた協力関係の構築です.例えば,NICTERでは10年以上の月日を掛けて世界10数か国以上の組織と連携し,世界最大級のサイバー攻撃の観測網を構築していますが,その取組みは決して楽なものではありませんでした.どれだけICT技術が発達しても最後は人同士のつながりが重要ですので,研究者もラボにこもって研究活動をするだけでなく,頻繁に海外に出向き,研究プロジェクトの紹介や,最新のサイバー攻撃の情報共有・研究の方向性の議論を通じて信頼関係を構築していく必要があるわけです.
個人的に大変だった経験としては,1週間でイギリス国内を行脚して大学や研究組織など合計9組織とミーティングを実施した経験があります.連日発表し,その反応と議論を踏まえて翌日の資料の修正をするというせわしない1週間を過ごしましたが,そのかいもあってか,最終的に三つの大学とMoU(同意覚書)の締結に結び付いたので,私にとっての成功体験の一つになっています.
セキュリティの世界は弱い所から攻撃されます.世界中でますます多くの機器がインターネットにつながる一方で,セキュリティ対策のレベルは一様ではありません.その中で,積極的に手を取り合いながら,安心安全な世界を実現していくことはとてもチャレンジングな仕事だと感じています.
この記事を読んでいる学生の皆さんの中には,将来,研究者として働くことを考えている方もいるかもしれません.研究者として働くといっても,その職場は大学であったり,企業の研究所であったり,国の研究機関であったりと様々な選択肢があります.それぞれの違いは,長期的と短期的,シーズ志向とニーズ志向,若しくは基礎研究と応用研究など,いろんな観点で語られることがありますが,その境目は曖昧で明確に切り分けられるものでもありません.ですが,国の研究機関で働く場合,その研究活動の原資の多くは国民の税金ですので,大学との違い,または企業の研究所との違いを常に意識し,アピールしていくことが求められます.
とはいえ,筆者らの研究活動は国の施策の方向性と密接にリンクしていますので,一人の研究者として研究活動を行っているだけでは経験できないような大きな取組み(例えば国レベルのMoUに基づく研究協力や成果展開など)に参画することもできます.それに魅力を感じる方は国の研究機関を選んでみるとよいかもしれません.
(笠間貴弘)
(2019年6月25日受付 2019年7月25日最終受付)
(1) D. Inoue, M. Eto, K. Yoshioka, S. Baba, K. Suzuki, J. Nakazato, K. Ohtaka, and K. Nakao, “nicter: An incident analysis system toward binding network monitoring with malware analysis,” WOMBAT Workshop on Information Security Threats Data Collection and Sharing, pp.58-66, May 2008.
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