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日本が強い国際競争力を得るため国際標準化が各国産業の国際競争力を決定する重要な要素となっている.通信分野においては第5世代移動通信システム(5G)に関連した提案が活発に行われている.
無線システムは,2020年に第5世代モバイルシステム(5G)の普及が開始される.日本では2020年の東京オリンピックを契機に5Gの普及が開始され,2025年には本格的に展開される計画である.5Gでの実現が期待されている通信サービス種別は,
・超高速・大容量サービス(eMBB: enhanced Mobile Broadband)
・超多数同時接続サービス(mMTC: massive Machine Type Communications)
・超低遅延・超高信頼通信サービス(URLLC: Ultra-Reliable and Low Latency Communications)
がある(1).
また5G時代は各種センサが開発され,これらのセンサが複合し,図1に示すように自動運転や人間が操作困難な場所の遠隔操作など多種多様な様々なIoTサービスが提供される.また新たなサービスが開始されることが予想され,多くのビジネスチャンスがある.そのため自国の技術を世界標準にしようと各国で提案が活発に行われている.日本も5G時代に強い国際競争力を得るため2015年からネットワーク仮想化の課題を議論し,標準化提案を行ってきた.私は2018年から標準化提案メンバーとなり議論に参加している.
本稿では昨年度から現在までの標準化活動について紹介する.なお本稿で紹介した仕事内容は,私が普段行っている仕事内容の一部である.
現在通信の分野での標準化団体は主にITU(International Telecommunication Union),ONF(用語),BBF(用語)が活動している.本章では2018年度のITUにおける標準化活動と昨年度承認された標準化勧告ITU-T Y. 3151について紹介する.
本部をスイス・ジュネーブに置くITUは創立150年以上になる歴史ある国際標準化機構である.現在およそ200の国と地域が加盟しており,これまでに多くの通信方式の標準を策定してきた.ITUは電気通信標準化部門のITU-T(Telecommunication Standardization Sector)と無線通信部門のITU-R(Radio Communication Sector),電気通信開発部門のITU-D(Telecommunication Development Sector)と三つのセクタに分かれている.私は2018年度からITU-TのSG(Study Group)13会合に参加し,勧告草案の提案及び動向調査を行っている.
現在SG13では,クラウド,モバイル,5Gにおける将来ネットワークをテーマとして扱っている.そして三つのWP(Working Party)に分けられ更に複数の課題(Q: Question)に細分化され,標準化策定の寄書審議を行っている(図2).
標準化活動を通じての発見
標準化すべきネットワーク仮想化の課題は2015年からFG IMT-2020(用語)で議論され,私は2018年度から標準化提案のメンバーに加わった.表1に昨年度私が行った標準化活動内容を示す.まず2018年4月に開催された本会合でネットワーク仮想化の新規ワークアイテムを提案した.標準化活動に加わって初めて感じたことは,国際学会とは議論の仕方が少し違う環境であったということだ.その当時,少なからずだが国際学会などで発表していたので,仕事を任されたときは提案内容を英語で発表する程度に思っていた.しかし,標準化会合は提案を他国の会合出席者と一緒に議論し,疑問点は全て解決していかなければ,提案を勧告化することができない.そういった面で提案内容を理解するのはもちろん,英語でしっかりと議論・主張できることが大事である.初めての標準化提案でこのことを知れたのは大きかった.2回目と3回目のSG13会合では想定される質問に対する回答や,主張すべきことをあらかじめ準備しておくことで議論がスムーズに進行した.更に当時ラポーター(議長)だった方とランチタイムに話をしたり,最終日の会合後に一緒に写真を撮ったことはうれしかったことの一つである.そして2019年3月の会合最終日のPlenary meeting(図3)で提案した内容が勧告化された(勧告化番号:Y. 3151)(2).標準化では提案した内容が勧告化されて初めて形になるので,標準化の仕事に加わり,新規ワークアイテム提案から勧告化までを一通り経験できたことは今後の財産になると感じる.
20か国程度の国が参加する標準化会議では各国の提案を標準にするために議論が活発に行われている.初めは各国の主張がぶつかり,議論が進まないケースもある.しかし,現地で何度も議論を重ねることで理解が深まり,議論が進んだ.また通信に限った議論だけでなく様々な話題を他国の方と話すことによって,異文化コミュニケーションを図り,議論がスムーズに進むことも経験できた.標準化を通して,グローバルな視点で幅広く知識や教養を得ることの大切さや面白さを感じた.現在も引き続き標準化活動に携わっており2019年4月にFSAN(用語)会合に参加し,PON-Virtualizationについて議論している.
図4にY. 3151に記載されている,SDN部分におけるスライスをCMUD(用語)するアーキテクチャを示す(3).Network Slice OrchestrationとSDN Controller間ではVN(Virtual Network)の要求,提供を行う.Network Slice OrchestrationはSDN Controllerに対しVN構築を要求する.SDN Controllerは抽象化機能を持ち,Network Slice Orchestrationの要求に応じたVNのモデル化を行う.SDN ControllerとSDN Infrastructure間ではVR(Virtual resource)の要求,提供を行う.SDN InfrastructureはResource ControllerとH/W(HardWare)で構成され,SDN Controllerの要求に応じたVRと物理資源を提供する.また,Network Slice Orchestration-SDN Controller間のインタフェースをR1S, SDN Controller-SDN Infrastructure間のインタフェースをR2Sと定義し,それぞれで扱うパラメータの一例も記載している.
本稿では,通信技術の標準化活動について紹介した.通信の仕事は新しい技術を開発するだけでなく,その開発した技術を世の中に広く普及させる必要がある.そして通信を通じて標準化に携わることは国として国際社会に影響力を及ぼすだけでなく,技術者がグローバルに活躍できる貴重な機会の一つである.今後学生の皆さんが更に通信分野に興味を抱き,国際社会の舞台で活躍されることを期待する.
(1) ITU-T Focus Group on IMT-2020, IMT-O-041, “Draft technical report: Report on application of network softwarization to IMT-2020,” Dec. 2016.
(2) Y. Goto and N. Morita, “High level technical characteristics of network softwarization for IMT-2020,” ITU-T Recommendation Y. 3150, 2017.
(3) H. Saito, S. Kozaki, and K. Tanikawa, “High level architectural model of network slice support for IMT-2020,” ITU-T Recommendation Y. 3151, 2019.
(2019年6月28日受付 2019年7月18日最終受付)
■ 用 語 解 説
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