3-1 回線事業者(東日本電信電話株式会社)

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Vol.103 No.2 (2020/2) 目次へ

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3. サービスの通信の「仕事」――私たちが日々利用している身近なサービス―― 3-1 回線事業者(東日本電信電話株式会社) 東日本電信電話株式会社総務人事部 日本の情報通信インフラを支えるNTT東日本の仕事について

東日本電信電話株式会社総務人事部

General Affairs & Personnel Department, Nippon Telegraph and Telephone East Corporation, Tokyo, 163-8019 Japan.

電子情報通信学会誌 Vol.103 No.2別冊 pp.225-228 2020年2月


本記事の著作権は著者に帰属します.

01 は じ め に

 情報通信は,社会経済活動に欠くことのできない基盤として,国民生活の利便性の向上や地方創生,企業活動の効率化,新たなビジネスの創出及び産業全般の国際競争力の強化への貢献が大いに期待されています.また,情報通信市場においては,ブロードバンド化・グローバル化の進展,固定と移動の融合,AI・ビッグデータ・IoTの活用やクラウドコンピューティングの進展,スマートフォン・タブレット端末等の高速無線・Wi-Fi対応端末の浸透,無料の通話やメッセージ通信を実現するアプリケーションの普及等により,光アクセスを基盤としたサービス競争の激化に加え,多様な無線端末を利用した新たなサービスの拡大,それらに伴うお客様の利用用途の多様化やデータ通信量の増加等,従来の枠組みを超えた構造変化が進展してきています.

 NTT東日本グループは,このような厳しくかつ激変する事業環境に対応し,情報通信産業の責任ある担い手として持続的な成長と発展を続けるため,「光サービスの拡大」,「ビジネスユーザへの対応」,「経営効率化・生産性向上」という三つの柱を掲げ,事業構造の大胆な変革による利益重視の経営への転換に取り組んできました.

 NTT東日本グループが目指すのは,ICT利活用による少子高齢化・生産性向上等,社会的諸課題等の解決に貢献することにより,豊かな社会の実現や,その持続的な発展に寄与していくことです.光アクセスのより一層の拡大・利活用促進を進め,ブロードバンドネットワーク環境の更なる高度化と普及を実現していくとともに,光IP電話や映像サービスはもとより,保守・サポートまでも含めた幅広いサービスを提供していきます.更には,様々な業種の企業との連携を進め,お客様にとって付加価値が高く使い勝手の良いサービスを開発・提供することにより,「地域とともに歩むICTソリューション企業」として,地域のお客様の課題解決に貢献していきます.

02 NTT東日本における通信回線事業の仕事とは

 NTT東日本は,1999年にNTTの再編成に伴って発足しました.NTTグループの中において,東日本エリアにおける地域電気通信業務を中心とした事業を展開しています.

 通信は,電話やメール,SNSなどのコミュニケーション手段だけではなく,信号機やATM,セキュリティカメラ,クレジットカードなど,社会の基盤となるあらゆるサービスで活用されています.通信そのものを直接目にすることはなくとも,現在の私たちの生活は,通信なしでは成り立たないと言っても過言ではありません.

 NTT東日本はこれらの通信を支えるために,多くの通信設備から成る巨大な固定ネットワークを保有しています(図1).

図1 通信を支えるNTT東日本の設備

 この固定ネットワークは,NTT東日本が提供する固定電話サービスやフレッツ光等のIP系サービス等は人々の生活やビジネスになくてはならない通信を支えるための基盤となっています.我々はこの通信インフラを支えることで,社会の成長を支えています.NTT東日本においては,通信インフラ分野に関わる業務は,特に大きく下記の三つに分類されています(図2).

図2 NTT東日本の業務フィールド

ネットワークプランニング

 サービスの需要予測のみならず,社会全体の将来像をにらみ,通信ネットワークの設備投資戦略を策定します.新たな設備のグランドデザインの検討からネットワークの詳細設計,設備構築戦略に加え,関連する工事発注スキームの検討や施工管理マネジメント戦略の検討等の業務を通じ,事業の中核を担うネットワークの創出を行います.

サービスマネジメント

 NTTビルからお客様宅までをつなぐ光ケーブル等の各種所外設備,お客様宅内の通信設備やNTTビル内にある通信装置などに対し,故障発生時の障害復旧や原因分析,定期的なメンテナンス等を通じて,通信ネットワークを24時間365日体制で監視し,トラブル対応やトラブルを未然に防ぐ日々の保守・運用を行うことで通信サービスの「安心・安全・信頼」を守ります.

研究開発

 NTT研究所や国内外の大学,メーカなどで開発された最先端技術をリサーチし,次世代コミュニケーションの企画から開発,検証までを行います.現在利用している通信ネットワークの高度化や,次のネットワークを創り出すための技術検討,開発導入等を通じて,まだ世の中にない新しい価値を生み出します.お客様の生活をより豊かに,より快適にする新サービスの開発,電気通信ネットワークの高度化を図る研究開発や,各種通信端末の開発,クラウドプラットホーム,セキュリティ等の研究開発に取り組んでいます.

03 通信回線事業における今後の展望

 通信回線は,電力・鉄道・交通などの他の社会インフラ含め,あらゆる場面で活用されています.これら通信インフラ設備の整備・運用を効率的に行い,かつ事故が起きないよう確実にメンテナンスするということは,全ての社会インフラに影響を与えるとともに,社会全体に対して安心・安全を提供しています.

 また,現代はSNSやコンテンツ配信など,様々なサービスがネットワークを介して提供されています.これを“クラウド”化と言います.ユーザは,ネットワークにつながるデバイスさえあれば,必要な情報を,必要なときに,必要な分だけ利用可能となっています.「所有」から「利用」へ,産業構造を大きく転換するクラウド化においても重要なのが通信です.

 更には,あらゆるものがインターネットで結ばれるIoTの時代が急速に形作られています.あらゆる情報が無線技術により,ビッグデータとしてクラウド上に蓄積されています.

 スマホも含めて,普段,当たり前のように使っている無線サービスが使えるのも実は「固定ネットワーク」があればこそです.例えば,たった今,スマホから送信したメッセージも,遠く離れたスマホまで「固定ネットワーク」を通じて,「光の速さ」で運ばれているのです.

 このように,今後本格化するIoTや5Gの時代においても,全ての通信の根幹として,通信回線事業者に寄せられる期待,果たすべき役割はますます大きくなっています.今後の社会インフラやサービスを支えるためには,どのくらいの通信量が見込まれ,どのようにネットワークを構築するかを考えなくてはなりませんし,そのためのコスト管理も必要となります.NTT東日本の仕事は,新しい時代のサービスを分析し,最適と考える「5年後,10年後の未来にふさわしい通信ネットワーク」をグランドデザインすることで,言わば,「未来の暮らしをデザインする仕事」とも言えるでしょう.

 このような未来に向けた取組みとしてNTT東日本では新技術を用いて,時代をリードする様々な事例を生み出し続けています.

AR技術で現地作業を遠隔サポート

 現実情報にディジタル情報をプラスすることで,私たちが知覚する“現実”を“拡張”するAR技術.NTT東日本は通信工事などにおいて,拠点に待機する作業支援者が通信ネットワークを介して現地作業者のスマートデバイスに操作する装置のマニュアル,作業手順,作業時の注意点等の情報を付与したAR情報を送り,専門性の高い作業を支援できるようになる「ARサポート機能」を開発し,活用を始めています.

ドローンで危険地帯のケーブルを通線

 東日本大震災の経験を機に「通信を途絶えさせない.通信がもし途絶えたら,一刻も早く復旧する.そのためにどうするか?」「例えば,災害発生時に人が立ち入れない場所で発生したケーブル断線をどうつなぐか?」という点を真剣に考えました.その際,我々が,着目したのはドローン.様々な実験を繰り返した後,2015年から本格運用をスタートし,各拠に配備されています.近年は災害対策に加え,平常時の設備点検等での活用も始まっています.

住宅内のエネルギー使用量を最適化

 NTT東日本では,便利で快適な社会の実現を目指し,「HEMS(Home Energy Management System)」(住宅内のエネルギー使用状況を「見える化」し,住宅内のエネルギー使用量を自動的に最適化するシステム)サービスを提供する事業者に向けたプラットホームサービス「HEMS情報コネクト」を開発,提供しています.

ICTとIoTで日本の農業を次のステージへ

 農業経営を効率化することで,生産性を向上させるべく,NTT東日本は,農業地域の通信インフラ整備や,生産履歴の管理,産地直売所向けシステムなどの「農業ICTソリューション」を提供しています.また,AIの解析技術を用いてトマトの生育状況を確認,収穫量を予測するなど,IoT×農業の実験も進めています.これらの力で農業を進化させ,産地と消費地をつなぐお手伝いをしています.

 このように従来の通信回線事業にとどまることなく,ICTソリューション企業として社会的諸課題等の解決に貢献し,豊かな社会の実現と持続的な発展に寄与していくことを目指しています.

04 仕事の面白さ,やりがいについて

 NTT東日本の仕事は,人々の生活やビジネスに欠かせない通信を守り,24時間365日全てのお客様に安心・安全を提供することで,日本の通信を支えています.

 様々な職種がある中で,各職種ごとに面白さ・やりがいが存在します.

 例えば,ネットワークプランニングの業務では,未来を支える新たな通信サービスやネットワークの仕様を検討する際,今後の通信量や通信サービスの見通しを立て,それを元にどのように通信ネットワークを構築していくか,といった方針を決定します.これには,関連する社内の組織はもちろん,関連省庁やインターネットサービス事業者など多くのプレーヤを巻き込む場面も出てきます.

 最適な方針を検討する中で,提案内容に反対される場面や,全体をコントロールすることが難しい局面も多々発生します.ただ,それは決して後ろ向きなことではなく,各自が自分の軸をしっかりと持ったプロとして取り組んでいるあかしです.各関係者と何度も議論を重ねながら,最終的には様々な方から理解と協力を得ることで皆が一つの問題意識を共有する仲間と変わったのです.通信の国家戦略にも関わるような案件に取り組みながら,新たな基盤やサービスを作っていく,これは大きな醍醐味です.

 サービスマネジメントの業務では 日々の保守・運用に加え,大きな出来事として2011年3月11日に発生した東日本大震災があります.津波による通信設備の損壊や電柱の倒壊,通信ルート流失等に加え,大規模な停電により通信サービスの中断を余儀なくされました.しかし,「つなぎ続ける」という使命のため,NTTグループ各社や通信建設会社等と一丸となって取り組み,御利用頂けない状況であった約150万回線の通信サービスについて,家屋などの甚大な被害エリアを除き,2011年4月末までに加入電話・ISDN,5月6日にフレッツ光と,ほぼ全ての通信サービスの応急復旧が完了することができました.

 東日本全域の通信を支え,人々のライフラインの一端を担うという使命を持つこと,それはとても重い責任がありますが,同時に大きな充実感,達成感を味わえる仕事であるとともに,社会的な貢献価値が高く,影響も大きい仕事です.

 研究開発の業務については,最新技術を踏まえ,先端技術や製品の動向を常に幅広く注視し,スピーディな開発を行い,新たなサービスや技術の迅速な事業への導入が必要となります.その中で,現場社員が抱えている課題に対して,「技術を用いて具体的な解決策を提案できる」ことも大きな醍醐味の一つです.開発にあたっては,必ず現場社員の声に耳を傾け,提案が役に立つものかどうかを十分に検討した上で取り組みます.

 また,通信サービスを提供する通信事業者として「つなぐ」使命を果たすために,品質や信頼性の確保にも取り組む必要があります.開発時の検証においては数千項目にも及ぶ動作確認を積み重ねていきます.新しいシステムやサービスを開発し導入する場合,多くは既に稼動中のシステムと接続することになるため,これらとの整合性も非常に重要な要素だからです.

 導入後に関連する担当の方から,「あのシステムは良かったよ」と声を掛けて頂く場面も出てきます.そういうときは,「自分の仕事が人の役に立っている」と感じられます.開発の仕事は,「まだ世の中にない新しい価値を産み出す」ことができます.単なる慣例で常識と思い込んでいたことも技術力で覆し,自らの手で未来を創造していけるのは,とても面白いことです.

 それぞれの職種共に,「技術者」という目線では,仕事を通じて,100年を超える電話事業から培った通信技術を受け継ぐとともに,今後の通信を支える最先端の通信技術に触れ,携わりながら,自分の培った通信技術で社会に貢献し,プロフェッショナルな技術者として成長することが可能です.

 特に昨今のICT・通信業界は,業界構造や技術の変化が激しいことから,継続してキャッチアップし,その中で新たな技術やサービスを用いることで,新たな価値を生み出していくことが求められています.技術分野によっては,若手の間から新しいサービスや事業の開発やサービスを支える各種技術開発等に関わることもあります.新たなチャレンジを行う中で,成長スピードの早さを感じることも多いです.このような大きなやりがいと醍醐味を感じることができるのは,通信事業ならではと言えるでしょう.

05 お わ り に

 ICTの進化により,社会は便利に,そして豊かになりました.10年前,想像上の出来事だったことが現実になっているように,この社会はこれからもまだまだ変わっていく無限の可能性を秘めています.

 NTT東日本では,社会を支える通信インフラ事業に加え,社会のあらゆるプレーヤとつながることで,「新しい価値」や「次世代の当たり前」を産み出し,「新しい時代」へ世の中を導くことを目指しています.

 皆さんが描くのはどんな未来ですか? 自らの手で実現したい夢は何ですか?

 未来の社会は,今,私たちが見ている世界とは,全く異なっているかもしれません.その鍵となる通信は,これからも,あらゆる人,企業,世の中をつなげて,新しい社会を産み出す力を持っています.

 学生の皆さんには,通信の仕事に興味を持って頂くことを期待するとともに,将来,皆さんが通信の仕事に携わることで世の中をリードしていく未来が来ることを期待しています.

(2019年7月3日受付 2019年8月5日最終受付) 


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