3-4 MVNO事業者(株式会社インターネットイニシアティブ)

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Vol.103 No.2 (2020/2) 目次へ

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3. サービスの通信の「仕事」――私たちが日々利用している身近なサービス―― 3-4 MVNO事業者(株式会社インターネットイニシアティブ) 三笘憲一 働く意義に関して

三笘憲一 (株)インターネットイニシアティブMVNO事業部

Kenichi MITOMA, Nonmember (MVNO Operational Development Section, Internet Initiative Japan Inc., Tokyo, 102-0071 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.103 No.2別冊 pp.237-240 2020年2月

©電子情報通信学会2020

01 は じ め に

 私は(株)インターネットイニシアティブ(以下,IIJ)で,MVNO(注1)サービス(図1)の開発に携わっています.具体的な業務内容は,新規サービス開発,既存サービスの拡張に分けられます.開発業務の種別としては,他社では一切提供していない物,既に他社がリリース済みで,それに類似する物に大別することができます.

図1 MVNO事業者のネットワーク構成

 他社では一切提供されていないものを開発するときは,当然ながらサービスメニューをゼロから企画/立案します.提供料金(初期/月額費用),新規加入/解約/中断等,契約過程での漏れが起こり得ないか等,全方位的に検討し,サービスメニューを確定させます.開発工程では,ドラフト案を作成し,社内の関係する全部門に対して,了承を取り付けることが必須です.このプロセスにおいて,考慮漏れがないようにすることが非常に重要です.

 他社に類似するものの開発では,既にサービス仕様の大枠は確定しています.そこでいかに,他社との差別/区別化,新規性をアピールし,消費者に訴えかけられるかがポイントとなります.日常的に,他社のサービスリリースに対するアンテナを張ると同時に,同様のサービスを自社で提供する場合,どのような優位性を持たせることができるかという観点を持つことが必要です.

02 IIJのMVNOサービス

 IIJが「IIJmioモバイルサービス」の提供を開始したのは,2012年2月27日で,2019年が8年目となります.提供開始直後からIIJはMVNE(注2)となり,MVNOとしてサービス提供を希望する各社に対してモバイルサービスを卸すことで,消費者にモバイル通信環境を積極的に提供しています.

 「モバイルネットワークの開放により,多種・多様な通信サービスが各社から展開可能」として,通信事業者,総務省,政治家,有識者などの間で議論が行われました.2013年前後には,MVNO・MVNE市場が活発化しました.MVNOによるサービス提供で,消費者は安価にスマホを持つことができるようになりました.IIJも日本国内のスマホ/データ端末普及の一端を担っていると自負しております.

 現状より更に,消費者の経済的負担を軽くできるように,通信料金の低減の余地がないかを常々模索することは,我々サービス開発メンバーの責務だと考えております.

 2018年3月,IIJは日本国内初となる「フルMVNO(注3)」サービスの提供を開始致しました.加入者管理機能(HLR/HSS)を自前で構築/保守/運用することにより,柔軟性の高いサービス・独自SIM提供が可能となりました(図2).

図2 MVNO種別での比較

 フルMVNOサービスの立ち上げで,私はインフラ設備構築部分を担当し,新規設備の構築,大手通信事業者との接続,テスト環境整備等を行いました.本プロジェクトはスケジュールがタイトであり,社内外における多数の関係者と的確に調整を図りつつ進めることが必須でした.緊張感のある大規模なプロジェクトに従事できたことからは,非常に学ぶことが多く,今後のキャリアにも生かしていけるナレッジを蓄積することができました.

 新規サービス開発業務の醍醐味は,今,世の中にない物を新しく作り出し,提供できるということに尽きます.フルMVNOサービスがメディア/新聞に取り上げられ,記載されているのを見ると「この仕事をやっていて本当によかった」と思います.立ち上げまで多数の苦労があったとしても,報われたと心の底から感じることができる瞬間でもあります.

03 MVNOサービスの優位性

3.1 特色/差別化要素

 IIJが提供しているサービスの,大手キャリヤとの違いに関して,少し触れます.

 大手キャリヤの通常契約においては,全サービスを1社が一律提供するのが原則で,音声,データ通信,ショップでのサポート体制がオールインワンで料金に含まれています.それに対して,MVNOは音声サービスの提供からリアル店舗でのサポートの有無まで,ユーザの要望に応じて,MVNO事業者を選択できるため,結果的に月額料金の選択肢が広がりました.例えば知識が豊富な消費者は,リアル店舗・電話サポート,キャリヤメールは不要,メール/チャットでの問合せができれば問題ないと判断することで,月額の支払料金の削減が可能となりました.

 MVNO事業者は,それぞれの特色を生かし,他社との差別化を図るために様々な手法を駆使しています.具体的には,経済圏への囲い込み,ポイント制度の横連携,契約者様と事業者間の距離を縮めるケア,混雑時間帯の帯域制御,等が挙げられます.IIJの特徴的な施策としては,契約者様向けに定期的に行うイベント「IIJmio meeting」(注4)があります.

3.2 MVNO事業者の存在意義

 通信事業者間での競争を促すこと,多種多様なサービスを提供することが,MVNO事業者の存在意義だと考えております.

 2,3の事業者しか市場に存在しなければ競争原理が働かず,自然と寡占状態となることは自明です.そこに,風穴を開けて,現状打破をするために,MVNO事業者の存在は必須です.MVNO事業者が提供するサービスが,社会に受け入れられる品質を担保しており,かつ費用対効果が高いことは大前提です.

3.3 モバイルサービスを取り巻く状況

 近年,モバイルサービス市場では垂直統合から水平統合へと変化が進んでいます.

 以前であれば,個人・法人共に消費者は大手通信事業者から端末(SIM)・モバイルインフラ・サービス・コンテンツ全てを一気通貫で調達することが当然でした.現在は,SIMと端末を別々で手配し,コンテンツはインターネット上でアプリケーションプロバイダから個別に提供を受ける流れが大きくなっています.ここからは,ユーザの要望・要求が多様化することで,垂直統合のサービス提供という形態が時代に合わなくなってきております.

 ユーザの深層心理を他社に先んじて読み解き,スピード感を持ってサービス提供を行おうという意識は,IIJ全社員が持っている共通認識です.eSIM(4.に詳細を記載)に関しても,水平統合の流れに乗り,スピード感を持ってサービス提供を行っております.

04 eSIMの普及に向けて

4.1 eSIMとは

 eSIMの「e」は「embedded(エンベデッド):組込み」で,eSIMは「組込SIM」と訳されます.eSIMは大きく2種類に分けられます.

埋込チップ型SIM(図3

 基盤にはんだ付けできるチップ(電子部品)に,SIM機能を具備.通常のSIMカードと比較すると,広範囲な温度環境に対応し,耐振動性,耐腐食性が高くなります.「チップSIM」と呼ばれることもあります

図3 埋込チップ型のSIM

リモートSIMプロビジョニング対応SIM(図4

 手元にSIMがなくても(端末のSIMを抜き挿ししなくても),SIMに書かれた通信に関わる契約情報の書換えが可能な機能を備えているSIMです.書換えは事業者が実施する場合とユーザが実施する場合の2パターンが存在し,提供サービスの種別により使い分けることができます.

図4 リモートSIMプロビジョニング(コンシューマモデル)

4.2 将来のeSIM活用

 eSIMを使えば,端末にSIMをセットした後は入れ換えることなく,遠隔から通信キャリヤの切換が可能になります.使用用途・形態によって,最適な通信事業者を選択することができればユーザメリットが大きくなります.例えば海外に出掛けるとき,わざわざその国のSIMを購入してスマホにセットしたり,ローミング契約を結んだりする必要がなくなるので利便性が上がります.

 また,個人の場合,SIMの物理的な入換えが不要となれば,ショップや郵送でのSIMの受け渡しが発生しません.より自由に通信事業者を選択し,インターネット上で番号ポータビリティ契約を完結することもできるようになります.事業者選択の幅が広がることで,市場が活発化し,最終的には通信料金の低下につながると考えています.

 IIJでは,eSIMの実証実験を経て,2019年7月に,eSIMプラットホームサービスのβ版をリリース致しました.

 eSIM市場の拡大とともに,端末とSIMの分離は,この先も進んでいくかもしれません.

05 仕事をしていく中での気付き

 私は一貫して,通信に関わる仕事をしてまいりました.社会人になった当時の通信速度は有線9,600bit/sのアナログモデムでしたが,現在ではモバイルでも1Gbit/s(論理値)まで高速化が実現しています.通信速度の高速化に伴って,多種多様なサービスがリリースされてきました.

 IIJに入社する前は移動体通信事業者で働いていましたが,仕事の進め方では種々異なる点があります.一番の差異は,各人の裁量権がIIJの方が圧倒的に大きいということです.そのため,自分で決定・判断し進める楽しさを十二分に感じることができます.あわせて,決定のスピード感が非常に早い点も挙げられます.関係部門の担当者と方針/方向性を決め,ゴールに向けて的確に進めることがIIJでは可能です.つまり,自分の意思表示次第で,仕事の幅は格段に広がるので,仕事の充実感を高いレベルで得られます.

 ただし,裏を返せば,声を挙げないと,埋もれていってしまうという側面もあります.的確に自己主張を行い,業務の方向性を自分でリーディングしていくことが強く求められるのも,IIJの特徴だと常々感じております.

 また,IIJでは,海外で働くチャンスもあります.IIJのサービス提供先は,日本国内にとどまりません.海外勤務を希望する社員には,その門戸が大きく開かれています.

06 お わ り に

 仕事とは,究極的に突き詰めると,自己実現の集大成だと考えています.自分が欲しいと思うサービスを具現化し,リリースできた暁には,本当にアドレナリンが全開に出るのを感じることができます.この感覚は,仕事に没入して,その結果が出たとき以外には味わえません.IIJには,今ないサービスを世の中に出して,生活を根本から変革したいと強い思いを持ったメンバーが多数います.

 もし,IIJに少しでも興味を持って頂けたのであれば,是非,会社説明会/インターンに応募してみて下さい.ハードルが高ければ,私に連絡を頂いても結構です.皆様と共に働き,切磋琢磨できることを楽しみにしています.

(2019年5月9日受付 2019年8月5日最終受付) 

三笘憲一

()(とま) (けん)(いち)

 平11移動体通信事業者入社.平29 IIJ入社,フルMVNOサービスリリースに向けて,インフラ構築担当,その後MVNO事業部技術部門にてサービス開発業務に従事.


(注1) Mobile Virtual Network Operatorの略.読み方は「エム・ブイ・エヌ・オー」.日本語では「仮想移動体通信事業者」.同義にて,ライトMVNOと呼ばれることもあります.

(注2) Mobile Virtual Network Enablerの略.読み方は「エム・ブイ・エヌ・イー」.日本語では「仮想移動体サービス提供者」となります.

(注3) Full Mobile Virtual Network Operatorの略.モバイルサービスの根幹となる加入者管理装置を自社運用することでサービス提供範囲が拡大.

(注4) 2013年から,IIJが主に契約者向けに開催するトークイベント.IIJmioの開発・運用・サポートを行っているIIJ社員が,スマートフォン・モバイル通信に関する技術・法律の話題を紹介する.ざっくばらんな語り口が好評.おおむね四半期に一度開催しており,2019年4月で23回目を迎えました.


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