4-1 総務省

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Vol.103 No.2 (2020/2) 目次へ

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4. 整備・推進の通信の「仕事」――通信技術の発展を整備・推進という面から支える―― 4-1 総務省 白壁角崇 国の役割,政府で働くことのやりがい

白壁角崇 総務省

Sumitaka SHIRAKABE, Nonmember (Ministry of Internal Affairs and Communications, Tokyo, 100-8926 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.103 No.2別冊 pp.249-252 2020年2月

©電子情報通信学会2020

01 は じ め に

 筆者が総務省に入省した当時,テレビのディジタル放送はまだ始まっておらず,インターネットはパソコンでの利用が中心で,スマートフォンもまだ世の中には登場していませんでした.

 今では電車の中で人々がスマートフォンを使ってニュースサイトを見たり音楽を聴いたりする光景が当たり前となっていますが,当時は新聞や本などを読んでいる人が多かったように思います.

 このように書くと,はるか昔の話をしているように思うかもしれませんが,10年ほど前まではこれが当たり前の光景でした.テレビの地上デジタル放送が三大都市圏で始まったのは2003年,スマートフォンが登場したのは2007年頃になります.この10数年の間に,身の回りの情報通信システムは大きく進化し,人々の生活にも大きな変化をもたらしています.

 私たちは,テレビや携帯電話といった様々な情報通信機器に囲まれて生活しています.これらを使って便利な生活を送ることができているのは,製品を生み出す企業の努力や大学などにおける長年の研究の努力があってこそのものです.

 更に,普段の生活では余り気付かないかもしれませんが,国・政府という存在が大きな役割を果たしていることも少なくありません.例えば,テレビや携帯電話は電波を使って情報を届けるものですが,電波は,皆が決められたルールにのっとって正しい周波数を使うことによって,機器同士が混信などを起こすことなく,安心して使うことができています.また,このようなルールは情報通信技術の進展を踏まえて適切に改善していくことで,例えば周波数という限られた資源の有効活用を促し,技術の進展や新たなサービスの創出を側面的に後押しすることにもつながっています.これは正に国・総務省ならではの仕事と言えるものではないかと思います.

 ここで紹介する内容は,筆者のこれまでの経験や個人的な見解に基づいて,総務省が担っている業務の一端を紹介するものであり,これが国・総務省としての公式見解や仕事の全てというわけではありませんが,読者の皆様に国の役割や総務省の業務を知って頂く機会となれば幸いです.

02 総務省の仕事とは

 電波法改正,携帯電話の周波数割当,海外勤務,ICTを活用した地域活性化,ベンチャー企業支援,サイバーセキュリティ.これらは筆者がこれまでに担当してきた主な業務です.

 総務省は,地方自治や行政管理・行政評価なども幅広く担当する省庁であり,その業務も多岐にわたりますが,その中でも筆者は主に情報通信行政に携わってきました.

 前述したとおり,2005年の入省当時は,スマートフォンはまだなく,携帯電話は第2世代から第3世代へと移行している途上でした.携帯電話が年々普及する中で,電波利用料制度という無線局単位で料額を定めていた制度の見直しが必要となり,そのための法律改正を行うのが最初の担当業務でした.電波法は,昭和25年に制定された法律で,当然ながら制定当時とは通信システムの前提が変わっており,技術の進展に合わせて改正を重ねてきています.

 日々の生活の中で,法律を意識する場面は余りないかもしれませんが,法律は日本という国における様々な制度やルールの基礎となるものであり,省庁における仕事の根幹を成すものであると言っても過言ではありません.自分自身を振り返ってみますと,学生時代は法律に余りなじみがありませんでしたが,入省後に上司や先輩方から多くを教えて頂き,その後の社会人生活における大きな基礎を築くことができました.

 入省して2年ほどたつと,次なる第4世代携帯電話の時代を見据えて,新たな周波数の割当に向けた議論に携わるようになりました.世の中にようやく第3世代携帯電話が普及してきた頃でしたが,早くもその次を見据えて,世界に先駆けて次世代の携帯電話を日本へ導入するための仕事をしていることに,日々の仕事は大変ながらも,大きなやりがいを感じたことを今でも覚えています(図1).

図1 情報通信システムの進化

 最近では,第5世代(5G)のサービス開始に向けたニュースをよく目にしますが,これも何年も前から将来の導入に向けた技術基準作りや周波数割当などの議論が始まっていたものです.常に世の中の一歩先・二歩先を見据えて仕事をしていくというのは,国・総務省で働く大きな醍醐味の一つではないかと思います.

03 仕事と社会のつながり

3.1 仕事を通じて感じるやりがい

 総務省で仕事をしていると,自分の担当業務と社会とのつながりやインパクトの大きさを実感する場面がよくあります.実際には,担当している時期よりもむしろ数年たってから実感するということも多いように感じます.

 例えば,現在使われている第4世代携帯電話の周波数割当を担当した当時,携帯電話を使った新たなサービスが登場している未来の社会を思い浮かべながら,それらが実現すると通信量が数十倍,数百倍にもなると予測し,それを収容するための周波数をどう確保するか,という議論をしていました.他方で,当時は,本当にこれほど通信量が増えるのだろうか,本当に人々は新しいサービスを必要とするのだろうか,と思ったこともありました.

 実際には,その後のスマートフォンの登場により,通信量は爆発的に増大し,結果は当時の予測を上回るものとなりました.この結果を目にしたのは,自分自身が別の部署に異動した数年後のことでした.担当していた当時は目の前の仕事に追われる日々でしたが,数年たってから,改めて当時の仕事がいかに私たちの生活にとって重要なものであったかを実感する出来事となりました.

3.2 ベンチャー企業支援で感じたやりがい

 もう一つ,「数年後に振り返ってみたい」と思っている仕事を紹介したいと思います.それはベンチャー企業支援に関わる仕事です.

 あらゆるものがインターネットにつながり,様々な情報をデータとして収集可能となり,人工知能(AI)もより多くの分野で活用されるようになっていく中で,ベンチャー企業が斬新な発想で新たなサービスを生み出したり,交通や医療・介護などの社会的な課題解決に貢献したりするようになってきています.

 政府としても,このようなベンチャー企業の活動を積極的に支援しており,総務省でも2014年からICTイノベーション創出チャレンジプログラム「I-Challenge!」という支援スキームを立ち上げ,これまでに約20件の事業案件を支援してきています.

 支援するとは言っても,当然ながら筆者自身がベンチャー企業の経営をサポートするわけではありません.「支援するための体制や仕組みを作り,それをいかに効果的に運用していくか」というところが,総務省という公的機関が果たす重要な役割です.「I-Challenge!」では,ベンチャーキャピタルなどのベンチャー企業支援の専門家とのマッチングを行うフェーズと,試作品作りやコンセプト検証のための技術開発を補助金によって支援するフェーズを用意し,ベンチャー企業が,専門家のアドバイスを受けながらアイデアや技術の芽を具体的な形にしてビジネスにつなげていけるような支援環境を用意しました.

 筆者がこのプロジェクトの担当になったのは,支援事業が始まって2年ほどたった頃でした.この頃になると初期の支援案件は既に支援期間を終えて試行サービスを開始したり,人員を拡充したりと,ほんの1~2年の間に想像を超えるスピードで事業化に向けた動きを進めており,ベンチャー企業ならではのスピード感を実感する日々でした.実際に担当として新規案件の採択に関わるようになると,創業して間もない社員数人のベンチャー企業の方々が,限られた発表時間の中で,事業化に向けた熱い思いや,世の中を変えたいという強い意志を真剣に語る姿を目の当たりにし,自分自身が仕事に向き合う姿勢としても背筋が伸びる思いがしました.

 このような支援事業は,制度を活用するベンチャー企業の方々がその有用性を感じてこそ意味のあるものです.公的な支援事業では,必要以上に厳格な運用をしてしまうと,本来必要な支援ができない,といったこともあり得るため,事業の制度設計時や立ち上げ時もさることながら,その後の制度運用をスムーズに行うことも重要な仕事です.補助金のルールの周知や実際の使い道の確認など,必要な作業や手続きはしっかりと行いつつも,ベンチャー企業の方々の声も聞きながら,いかに柔軟に対応し,制度をうまく活用してもらうかが担当者としての腕の見せ所になります.

 様々な相談を受けながら,試行錯誤の日々を一緒に過ごしたベンチャー企業が,これから数年後にどのようになっているのか,想像しただけでも今からとても楽しみです.筆者が担当した2年ほどの間にも,最初は社員3~4名のベンチャー企業が,あっという間に順調に事業を拡大し,数十~100数十人規模の会社に成長したケースや,積極的な海外展開で現地企業との協業や拠点開設をするまでに成長したケースがありました.

 最近では,当時携わったベンチャー企業の名前を新聞やニュースなどで目にすることも多くなり,これらの企業が大きく成長し,将来の日本を担うような存在になっていくことを心から願っています.

3.3 ICTを活用した地域活性化

 もう一つ紹介しておきたいのが,地域活性化に関する仕事です.

 日本のブロードバンド環境は世界でもトップクラスであるものの,情報通信技術を日々の生活や行政サービスの中で利活用していくという点においては,まだまだ発展の余地があります.

 そこで数年前に担当したのが,各地域の自治体の方々と一緒になって,地域の課題解決や活性化に役立つ先進的なモデルとなるような実証実験を全国各地で行う,というものでした.実証実験のテーマや分野も農業・林業・交通・医療など多岐にわたるものでした.

 地域の実情は,自分の席で紙の書類だけを見ていても分かるものではなく,日本最北端に近い北海道の町から南は沖縄の離島に至るまで直接現地に出掛けていき,地元の方々とともに議論しながら実証実験に取り組みました.

 日本は東京・名古屋・大阪に人口の約半数が集中していますが,少子高齢化が進む日本にとっては,ICTを活用して地域の活性化を図っていくことが不可欠です.実際に現地に行ってみると,「これが実現したら本当に便利になる」,「この実証実験のおかげで若者がやる気になって地域に活気が出た」といった声を掛けて頂けることがありました.また,地元の方々と話している中で印象的だったのは,「きっかけさえあれば皆やる気になる.」という言葉でした.地元の方々あってこその地域活性化ですが,国・総務省の仕事として,何かのきっかけを作る,ということの重要性を感じた瞬間でした.

04 仕事の面白さ

4.1 世の中へのインパクトの大きさ

 新聞やニュースを見ていると,「政府は…することを検討している」といった記事や,「○○省が…という方針を打ち出した」といったニュースを目にすることも多いと思います.政府内で働いていると,時にはそれが自分やすぐ隣の同僚の担当している仕事であることもあります.筆者も担当業務に関する記事が新聞の一面に載ったり,テレビで報道されたりすることがあり,世の中に対するインパクトの大きさを実感します.

 情報通信分野の仕事は,携帯電話や放送,インターネットなど,私たちの生活に関係の深いものが多く,それだけにプレッシャーや緊張感を伴う場面もありますが,それ以上に仕事としてのやりがいを感じる瞬間も多くあります.

4.2 海外から日本を見る

 国家公務員として総務省で働くというと,日本国内で働くイメージを持つ方も多いかもしれませんが,海外留学や海外勤務の機会にも恵まれています.筆者は外務省に出向して海外にある日本大使館に勤務する機会に恵まれ,「海外から日本を見る」という貴重な経験を積むことができました.日本では当たり前のことが海外では当たり前ではなかったり,逆に海外で先進的な取組みを目にして驚くこともあったりと,多様な価値観を学ぶ貴重な機会となりました.

 赴任先の国や業務内容によって違いはありますが,大使館勤務では,正に総務省の代表,日本の代表として,相手国の政府職員やキーパーソンに会い,日本との協力案件の調整を行ったり,日本が出席する国際会議に向けた事前調整・交渉を行ったりしました(図2).読者の皆様にも是非積極的に海外での経験を積んで頂きたいと思います.

図2 国際会議で発言する筆者

4.3 サイバーセキュリティの最前線

 総務省に入省したとしても,ずっと総務省勤務が続くわけではなく,前述のような海外勤務のほか,他省庁や自治体,民間企業,大学などに出向することもあります.

 筆者は現在,内閣官房内閣サイバーセキュリティセンターに出向し,政府機関に対するサイバー攻撃の検知やインシデント対応に携わっています.

 情報通信技術が様々な分野で活用されるようになり,それに伴い,サイバーセキュリティの重要性も高まっています.最近では安全保障の観点からも,多くの国がサイバーセキュリティを重要視しています.

 日本にとって2020年は,オリンピック・パラリンピックが東京で開催される年であり,政府全体としてもサイバーセキュリティ対策に力を入れています.

 総務省でも年々サイバーセキュリティに関する業務が増えており,情報通信分野における技術の進展や総務省における業務の進化を改めて感じています.

05 お わ り に

 ここまで筆者自身の経験を中心に,総務省における仕事の一端を紹介してきましたが,これから数年後には,今よりも更に情報通信分野における技術やサービスが進展し,それに合わせて総務省が担う役割や業務も進化しているのではないかと思います.そのような変化の激しい環境にあっても,政府の一員として働くことのやりがいは変わらないものがあると思います.総務省の仕事に少しでも興味や関心を持って頂けたようであれば,まずは業務説明会に参加してみるなど,直接,職員の話を聞いてみて,職場の雰囲気や職員の人柄を感じ取って頂ければと思います.皆様と一緒に仕事ができる日を楽しみにしております.

文     献

(1) 内閣府,統合イノベーション戦略,2019.

(2) 総務省,情報通信白書平成30年版,2018.

(3) 総務省,情報通信白書平成15年版,2003.

(4) 総務省,「広域連携が困難な市町村における補完のあり方に関する研究会」(第1回)資料,2016.

(2019年6月26日受付 2019年7月12日最終受付) 

白壁角崇

(しら)(かべ) (すみ)(たか)

 平17中大・理工・土木卒.同年総務省入省.以来,電波法改正や携帯電話の周波数割当,ICT利活用,ベンチャー企業支援などを担当.現在,内閣官房内閣サイバーセキュリティセンター情報統括グループ参事官補佐.


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