4-2 一般社団法人電波産業会(ARIB)

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Vol.103 No.2 (2020/2) 目次へ

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4. 整備・推進の通信の「仕事」――通信技術の発展を整備・推進という面から支える―― 4-2 一般社団法人電波産業会(ARIB) 星 克明 一般社団法人電波産業会が担う社会的役割と電波産業の今後の展望

星 克明 一般社団法人電波産業会研究開発本部

Katsuaki HOSHI, Nonmember (Research and Development Headquarter, Association of Radio Industries and Businesses, Tokyo, 100-0013 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.103 No.2別冊 pp.253-256 2020年2月

©電子情報通信学会2020

01 は じ め に(1)

 一般社団法人電波産業会(以下「ARIB」という.)は,通信・放送分野における新たな電波利用システムの研究開発や技術基準の国際統一化等を推進するとともに,国際化の進展や通信と放送の融合化,電波を用いたビジネスの振興等に迅速かつ的確に対応できる体制の確立を目指して設立された.

 ARIBは,財団法人電波システム開発センター(RCR)及び放送技術開発協議会(BTA)の事業を引き継ぎ,1995年(平成7年)5月15日郵政大臣(注1)の許可を受けて設立され,内閣府の認可を得て2011年(平成23年)4月1日に一般社団法人へ移行した.

 その後の社会情勢の変化や時代の要請に伴い,通信・放送分野のみならず,様々な分野の電波利用に取り組むことが重要であるとの認識の下に,ARIBの活動目的において「通信・放送分野」に限定していたものを「通信・放送など社会経済の発展を支える電波利用システム」に拡大する定款の変更を2019年6月25日に行った.

02 ARIBの仕事とは(1)

2.1 電波利用に関する調査研究等

 通信・放送分野における電波の利用に関する需要・技術動向,電波産業の動向等の調査及び今後の新しい電波の利用に関する調査研究を行っている.また,これらの調査研究のほかに関係機関等から受託した調査研究も行っている.

 例えば,現在非常に高い周波数であるテラヘルツ波(1THz前後の電磁波)の利活用に関する調査研究を実施している.

2.2 コンサルティング及び普及啓発

照会相談業務

 申込者からの照会に応じ,固定マイクロ回線や衛星回線に関わる回線設計,混信計算及び使用可能周波数の選定業務のほか,電波伝搬障害防止に係る業務のコンサルティングを行っている.

情報提供業務

 電波に関する条約を適切に実施するために行う無線局の周波数の指定の変更に関する事項,電波の効率的な利用に著しく資する設備に関する事項その他の電波の有効かつ適正な利用に寄与する事項に係る情報を電波有効利用情報等として,インターネットにより紹介及び提供している.

普及啓発

 「電波功績賞」の贈呈,電波の利用に関する情報の提供等の各種の電波の利用に関する普及啓発活動を行っている.

 「電波功績賞」は,電波の有効かつ適正な利用に特別の功績を上げられた個人または団体を総務大臣表彰及びARIB会長表彰として,毎年表彰している.

 電波の利用に関する情報の提供については,会員の方々を対象として,「電波産業年鑑」を年1回,「ARIB機関誌」を年4回,「ARIBニュース」を毎週発行している.更に,電波利用に関するタイムリーな情報を提供する講演会である「電波利用懇話会」を毎月開催している.

2.3 標準規格の策定

 ARIBは,電波利用システムごとに無線設備の標準的な仕様等の基本的な要件を「標準規格」として策定している.

 標準規格は,周波数の有効利用及び他の利用者との混信の回避を図る目的から定められる国の技術基準(強制基準)と,併せて無線設備や放送設備の適正品質,互換性の確保等,無線機器製造者,利用者等の利便を図る目的から策定される民間の任意基準を取りまとめて策定される民間の規格である.

 標準規格は,策定段階における公正性及び透明性を確保するため,無線機器製造者,利用者等の利害関係者の参加を得た当会の規格会議の議決を経て策定される.規格会議には,内外無差別に広くこれらの利害関係者が参画することができる.

 例えば,ARIBは,第5世代移動通信システム(以下「5G」という.)や4K・8K放送に代表されるような電波利用システムの標準規格を,国際標準化団体(3GPP,ITU-R等)における標準規格の策定や電波法令の改正を受けて,電波利用システムが混信なく,かつ相互運用性を確保して利用されるように標準規格に落とし込む重要な役割を担っている.

 このため,ARIBは,電波利用システムに関する我が国を代表する標準化団体として,国際標準化団体の審議にも積極的に参加している.

03 電波産業の動向

3.1 事業動向(2)

電気通信事業の市場規模

 平成30年度情報通信白書によると,2016年度における電気通信事業の売上高は,14兆1,862億円(前年度比1.1%増)となっている.

 2016年度における固定通信と移動通信の売上比率は,固定通信の割合が31.4%,移動通信(携帯電話,PHS及びBWA)が51.4%となっている.また,売上高の役務別比率を見ると,音声伝送役務の割合が全体の26.1%であり,データ伝送役務は56.8%となっている.

放送事業の市場規模

 平成30年度情報通信白書によると,放送事業収入及び放送事業外収入を含めた放送事業者全体の売上高については,2016年度は3兆9,312億円(前年度比0.4%増)となっている.

 その内訳を見ると,地上系民間機関放送事業者売上高総計,衛星系民間放送事業者,ケーブルテレビ事業者の売上高総計及びNHKの経常事業収入は,それぞれ2兆3,773億円(前年度比1.3%増),3,463億円(前年度比9.1%減),5,031億円(前年度比0.6%増),7,045億円(前年度比2.4%増)となっている.

無線機器製造業

 無線通信装置製造業,無線応用装置製造業,放送機器製造業及び自動車付属機器製造業の2016年度生産額の合計は,1兆2,393億円(前年度比10.9%減)となっている.

 その内訳を見ると,無線通信装置製造業の生産額,無線応用装置製造業の生産額,放送機器製造業の生産額及び自動車付属機器製造業の生産額は,それぞれ3,845億円(前年度比25.6%減),2,596億円(前年度比13.4%減),1,517億円(前年度比4.0%増),4,435億円(前年度比3.8%増)である.

3.2 技術動向

第5世代移動通信システム(2)

 5Gは,どのようなもので,それが普及することによって社会はどのように変化するのか.

 現在の携帯電話システムは,第4世代移動通信システムと呼ばれるものである.5Gは一言で言うとこの第4世代移動通信システムの次の世代の移動通信システムということになる.

 5Gの主な要求条件は,三つある.

 第1に,超高速通信が可能になる.具体的には最大で10Gbit/s以上の通信が実現される.4K/8Kなど高精細映像も超高速に伝送できる.

 第2に,多数同時接続が可能になる.具体的には,100万台/km2の接続が実現される.狭いエリアでの同時多数接続,スマートメータ,インフラ維持管理(多数接続,低消費電力なIoT)に活用できる.

 第3に,無線区間の超低遅延伝送が可能になる.具体的には遅延1ms程度の通信が実現される.自動運転,遠隔ロボット操作(ミッションクリティカルなIoT)で活用できる.

 日本の5Gの導入当初は,既存のLTEネットワークの基盤を有効活用するため,5GNR(New Radio)と高度化したLTE(eLTE)が連携して,一体的に動作する無線アクセスネットワーク(NSA: Non Stand Alone)が導入される.具体的には,800MHz,2GHzなどの既存周波数帯を使用したeLTEで制御情報(C-Plane)を伝送し,6GHz以下や6GHz以上などの新たな周波数帯を活用した5GNRでユーザデータ(U-Plane)を伝送することによって5Gの性能を実現する.

 また,ネットワークスライシング技術を無線アクセスネットワークなどに導入することで,5Gの様々な要求条件や,異なる要件を持つサービスに柔軟に対応し,サービスごとに最適なネットワークを提供することを可能とする.

 更に,5Gでは,無線区間で1msの遅延時間が要求条件とされており,自動車やロボットの遠隔制御といった超低遅延が求められるサービスに対応するためには,無線だけでなく,有無線が一体となって対応を行うことが必要である.このため,有線区間で遅延時間を短縮するシステムとして,ユーザの近くでデータ処理を行うモバイルエッジコンピューティングの導入が期待されている.

 5Gの実用化に向けたロードマップは,図1のとおりであり,2019年にプレサービスが開始され,2020年に商用サービスが開始される.

図1 5G実用化に向けたロードマップ

4K・8K放送(3),(4)

 4K・8Kとは,次世代の映像規格で現行ハイビジョンを超える超高画質の映像である.

 4Kは現行のハイビジョンの4倍の画素数で,高精細で臨場感のある映像を体感できるようになる.

 8Kは現行のハイビジョンの16倍の画素数となる.立体感も加わり,更に臨場感のある映像を体感できるようになる.

 フルハイビジョンに比べて,4Kは4倍の画素(3,840×2,126画素数),8Kは16倍の画素(7,680×4,320画素数)を持ち,きめ細やかでよりリアルな映像表現が可能となる.

 また画素のみならず,従来規格より色域を広げたことにより,表現できる色数が増えた.より自然で鮮やかな映像が楽しめる.

 4K放送では,映像の各シーンにマッチした臨場感を堪能できる5.1チャネルサラウンドを,8K放送では,更に22.2チャネルのマルチチャネルサラウンドを楽しむことができる.正に,その場にいるかのような臨場感や迫力を体験できる.

 4K・8K放送のロードマップは図2のとおりであり,衛星放送の一つである124度,128度CS放送,ケーブルテレビ,IPTVなどで4Kサービスが提供されており,加えて2018年12月からは,BSと110度CSにおいて,4K・8Kの実用放送が新たに開始された.

図2 4K・8K放送のロードマップ

04 電波産業の発展に向けた期待(5)

 国内の代表的な基幹産業である自動車産業の主要10社の2015年の年間売上高は,68兆1,730億円である.一方,電波産業の2016年の売上高は19兆3,567億円である.

 これらを比較すると,もちろん電波産業は,自動車産業より小さい規模ではあるが,日本の産業のけん引役となっていることは間違いない.

 若い皆様方に,電波産業もそれなりの規模で日本を支えている産業であることを再発見し,認識してほしい.

 富士キメラ総研は2018年6月21日,5G関連市場の調査結果「2018 5G/高速・大容量通信を実現するコアテクノロジーの将来展望」を発表した.同調査では,5G対応基地局と5G対応エッジ機器に加え,注目市場として光トランシーバの世界市場を予測している.

 2023年の市場規模は,マイクロセル基地局が1兆180億円,スモールセル基地局が2兆9,500億円,全体で4兆1,880億円になると予測する.

 5G対応のスマートフォン,スマートウォッチ,ドローンなどを対象としたエッジ機器市場は,2023年には26兆1,400億円にまで拡大すると予測する.

 また,注目市場として,光トランシーバの市場動向についても,2023年には6,200億円に達すると予測している,

 このように,5Gは,日本の電波産業をけん引する大きなターゲットとなり,全世界でベンダ間の競争が激化している.若い皆様方には,日本のベンダに入社して頂き,日本の国際競争力の強化に貢献して頂きたい.

 放送の分野では,衛星放送において4K,8K放送が実現されている.一方,総務省では地上4K放送の実現に向け,研究開発を実施していたが,2019年度からその実用化に向けた技術試験事務を開始する.

 地上放送サービスの4K放送実現に向けて,若い皆様方にその一翼を担って頂きたい.

 大学の先生方にお聞きすると,学生の電波離れが進んでいるということであるが,特に通信・放送分野に代表される電波産業は,未来に向けて魅力的なものである.若い皆様方には,是非電波の世界に飛び込んで頂き,希望に満ちた日本を築いて頂きたい.

05 お わ り に

 本稿では,一般社団法人電波産業会の担う社会的役割と電波産業の今後の展望について,概括してきた.

 最後に電子情報通信学会との連携についても触れておきたい.

 ARIBは,総務省から電波システムに関する技術基準を策定するための技術試験事務を受託し,その結果を報告書としてまとめ,総務省の施策実現に貢献している.その技術試験事務で得られた技術的な知見については,電子情報通信学会で発表することもある.

 例えば直近では,2019年3月19日から22日に開催された「2019年電子情報通信学会総合大会」において,「5G総合実証試験における電波伝搬調査の概要」を発表した.

 今後ともARIBは,電子情報通信学会の活動を支援してまいりたい.

文     献

(1) 一般社団法人電波産業会ホームページ,
https://www.ARIB.or.jp/

(2) 一般社団法人電波産業会発行「電波産業年鑑2018」

(3) 一般社団法人放送サービス高度化推進協会ホームページ,
https://www.apab.or.jp/

(4) 総務省ホームページ,
http://www.soumu.go.jp/menu_seisaku/ictseisaku/housou_suishin/4k8k_suishin/about.html

(5) 富士キメラ総研の第5世代移動通信システム(5G)関連市場の調査結果,“2018 5G/高速・大容量通信を実現するコアテクノロジーの将来展望,”(2018年6月21日発表).

(2019年6月12日受付 2019年6月26日最終受付) 

星 克明

(ほし) (かつ)(あき)

 平28-12一般社団法人電波産業会採用.現職研究本部開発センター長.


(注1) 郵政省は,2001年(平成13年)に総務省に再編成された.


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