電子情報通信学会 - IEICE会誌 試し読みサイト
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我が国を取り巻く環境は大きく変化し,少子高齢化,安心・安全,資源・エネルギー,地球環境などにおいて,山積する課題の解決に向けて,情報通信技術による貢献が一層求められています.本会が果たすべき役割は拡大しており,「情報通信の夢とそれによって実現される豊かな未来社会に向けて果敢に挑戦し,革新的技術及びイノベーションを継続的に創出する学会として大きく飛躍する」ことが強く求められています.
会員を引き付ける新規分野・テーマの発掘,産業競争力につながるような取組みの強化,技術動向や先読みに関する議論の場の提供,異分野との交流活性化・サロンとしての機能強化,生涯教育・スキルアップ,国際的な積極的情報発信,海外学会との協力推進,より柔軟で自由に活動できる機会の提供など,「広汎な知が交流する場を作り,新たな学術領域をひらく」,「社会課題の解決に貢献し,新たな社会のビジョンを作成する」,「技術倫理の向上に努め,社会に向けて発信する」ことが,本会の更なる発展には必要不可欠です.
私は,グローバルに活躍できる優れた人材育成を行うことが,国力を維持し,世界における技術先導力を高めるためにも,最も重要であると思います.「夢をかなえるために,新しいことを思い切ってやり始め,能力を最大限に発揮できるよう絶えずチャレンジする」人材を育てるために,本会を大いに利用すべきだと思います.そのためには,一人でも多くの方が自発的に学会活動に参画し,楽しみながら切磋琢磨できる知的交流の場としての価値を高めることが大切です.
私は,会長として,会員の皆様が求める様々なニーズに対して,価値の高いサービスを迅速かつ的確に提供できるよう,最大限の努力を致します.同時に,会員の皆様が,自己研鑽や情報交換・交流の場として,本会を積極的に御利用頂き,様々な活動を楽しみながら,本会の一層の発展のために貢献して頂けることを大いに期待しています.皆様の一層の御支援,御鞭撻を賜りますよう,どうぞよろしくお願い申し上げます.
以下,私の本会での活動を振り返りつつ,学会活動の楽しみと活性化,2020年度の事業計画概要,及び人材育成に関してお話したいと思います.
私が初めて学会で論文発表したのは,大学院修士課程1年生のときに参加した本会の昭和55年度総合全国大会でしたが,思い出深い発表は,1982年9月に北海道大学で開催された昭和57年度通信部門全国大会です.学部3年のときに,友人と北海道を特急列車に乗れない周遊券で,ユースホステルに泊まりながら回り,札幌からは青函連絡船を利用して丸一日かけて東京まで戻ってきたこともあり,4年後に,学会発表のため飛行機で出かけ,ジンギスカン料理も楽しんだ学会の思い出は,今でも鮮明に覚えています.一方,30年以上も昔でのことで,手元に発表原稿のコピーもなかったため,発表内容はすっかり忘れておりました.ところが,数年前に研究用としてiPadを初めて購入した際に,私の研究室で行った研究成果を全て電子化しようと一念発起し,研究室の学生に手伝ってもらって論文探しを始めました.論文誌に掲載された論文や国際会議論文は,本会やIEEEの論文の電子化作業のおかげで,すぐに見つかりましたが,研究会や大会で昔に発表した論文は,見つけるのに手間が掛かりました.幸いなことに,本会の研究会と大会の論文は,ほとんど全て大学図書館に丁寧に保存されていたため,私にとって初期の研究成果である上記の大会での手書きの原稿も見つけることができ,見失っていた宝物を見つけたように感激しました.
また,1982年3月に本会論文誌に掲載された論文は,私にとって最初に掲載された和文論文でしたが,新聞紙サイズの手書きの原稿とトレーシングペーパーに描いた原図を,機械振興会館にある学会事務局に持参し,ロットリングで描いた図の線の太さや文字サイズに関して厳しいチェックを受けた後,無事に投稿を受け付けて頂いたときの達成感はいまだに鮮明に覚えています.(投稿記念として,東京タワーに登ってしまいました!)その後,研究成果を研究会や大会で発表するたびに,著名な先生方や研究者の方々から,有益な助言を頂いたり,励ましの言葉を頂いたりして,とてもうれしかったことを覚えています.研究会や大会は,議論を交え,情報交換や交流ができる貴重な場であり,今でも大きな楽しみです.このように論文成果がきちんと文献として保存されていること,及び,研究発表・討論・情報交換・交流の場が身近にあることは,研究者・技術者にとって,とても重要だと痛感しています.
私は,これまで,本会次期会長,副会長,創立100周年記念事業実行委員会委員長,通信ソサイエティ会長,通信方式研究専門委員会委員長,ネットワークシステム研究専門委員会委員長,英文論文誌編集委員など,運営に関する様々な委員を務めてきました.これらの担務は,ボランティア活動と考えるには,かなり荷が重いようにも思われますが,積極的に取り組むと,想像以上にメリットが多く,かつ,とても楽しめると思います.例えば,新しいテーマの発掘のために論文特集号を提案したり,興味のあるホットトピック技術動向に関して,第一線の研究者・技術者の方に講演をお願いしてセッションを企画したり,優れた発表を行った若手研究者を表彰したり,より良い学会サービスを行うために,アクティブなメンバーとともに,いろいろアイデアを出し合ったりすることにより,多くの優れた方との出会いが生まれます.また,学会活動を通して,産官学連携や共同研究を活発に推進することができます.特に,大学教員にとっては,学会活動に積極的に取り組むことは,必須であると思います.また,企業の方にとっても,若い頃から,積極的な学会活動を通じて,いろいろな方と個々の企業の枠を超えた親密で広範囲な人脈を構築することが,今後ますます求められると思います.なお,単に本会の充実したサービスを受けるという受動的なアクションだけでは,優れた人材育成にはつながらないと思います.より重要なことは,若い人が,本会に自発的に参加し,人材育成につながる活動を積極的に行いたいと思うように仕向けることだと思います.
なお,早くも3年近くが過ぎましたが,2017年9月15日に明治記念館において,創立100周年記念式典を,皆様とともに盛大にお祝いすることができ,記念事業として,「創立100周年宣言」,「ロゴ・キャッチフレーズ選定」,「マイルストーン選定」,「100年史刊行」,「協賛委員会活動」,「ソサイエティ懸賞論文・大会企画」,「支部記念事業」,「記念式典での特別講演会」など,多くの多彩な事業が企画・実施できました.創立100周年記念事業実行委員会委員長として,この場をお借りして,皆様の多大な御尽力・御支援に対して改めて御礼申し上げます.
本会は,1911年(明治44年),当時の逓信省電気試験所に研究会が誕生し,その後,一般からも会員を募集して研究会を学会組織に改め,1917年(大正6年)5月1日に電信電話学会が創立されたことに始まります(1).図1に本会の沿革を示します.以来,長きにわたって,我が国の電子情報通信分野における基礎理論から応用開発まで幅広い領域の進展に先導的な立場で多大なる貢献をし,2017年5月1日には創立100周年を迎えるに至りました.
創立100周年にあたっては,本会がコミュニケーションの夢とそれによって実現される豊かな未来社会に向けて果敢に挑戦し,革新的技術及びイノベーションを継続的に創出する学会として大きく飛躍することを目指し,以下の方向性で活動することを宣言致しました(2).
(1)広汎な知が交流する場を作り,新たな学術領域をひらく.
(2)社会課題の解決に貢献し,新たな社会のビジョンを作成する.
(3)技術倫理の向上に努め,社会に向けて発信する.
創立100周年宣言は,本会の100年の実績を自信に,勇気を持って次の100年を目指し,学会のあるべき姿へ変身してゆくことを宣言したものであり,持続的発展は過去を守るのではなく,むしろ変わる世界感,価値観に向かって常に変革を求める思いが込められています.
図2に示すように,情報通信技術によるスマート社会の実現が進んでおり,情報通信サービスへの期待も,図3に示すように,ますます大きくなっています.SDGsやSociety5.0と同様,人文科学,社会科学までも含めた幅広い知と融合を図り,政治や産業発展,学際領域と人材の育成を図ること,人類の福祉と環境の持続の目標から求められる短期的,長期的課題に科学技術を駆使し解決に貢献すること,社会と人類の幸福を科学技術の探求における目標と据え,技術倫理を高め,研究成果と併せてその意義を発信していきたいと願っています.また,会員の皆様とともに,図4に示すような本会の価値を更に高めたいと願っています.
本会は上記の理念に基づく責務を果たすことを念頭に,創立100周年宣言の指針にのっとり,今後の学会のあるべき姿を見通しつつ,本会の価値を向上させるべく,会員サービスの向上,社会貢献度の向上,また国際的な地位向上による国内外会員数の増加を目指し,各組織レベルでの事業に取り組んでいきます.併せて,移行法人としての一般社団法人の義務である公益目的支出計画を着実に継続実行するとともに,「持続可能な学会運営」を掲げて事業を推進します.
表1に本会が目指すべき変革の姿,表2に本会の最近の施策を示します.以下,項目に分けて,具体的に述べたいと思います.
表1 本会が目指すべき変革の姿
・産業界との連携の活性化,企業が参加しやすい環境づくり
・論文を書かなくても発表や議論ができる場づくり
・ベンチャーや異分野との交流の場としての機能
・自由闊達な交流ができる「意見交換会」が重要
・オープンイノベーションのマッチングの場の提供
・生涯教育・スキルアップ・産学官連携拠点
・グローバルな視点で様々な技術との接点促進
・産業界側の学会活動に対する評価を高めるための施策
・国内関連学会との連携強化(IoT,新分野開拓を目指して)
・国,行政との連携促進(学会内ベンチャーへの支援など)
表2 本会の最近の施策
・会員増強
・若い世代に,電子情報通信系に興味を持ってもらい将来のリーダ育成に貢献することを目的にジュニア会員制度を準備中
・主に企業の中堅クラス以上(40歳以上)を対象に,経験や歳を重ねた会員の皆様向けの新たな活動体としてプラチナクラブ創設
・電子情報通信学会ディジタルライブラリ(IEICE Digital Library)サービス開始
・会誌,和英論文誌,技術研究報告,大会論文,国際会議論文等の約40万件の文献を保管し,共通検索サービスを2019年4月から提供した.これまで4万5,000回を超える利用があり,会員からも非常に好評.
・IEICE Proceeding Seriesサービス開始
・低料金で重要な技術研究のデータを保管,利用し,科学技術の発展に寄与することを目指し,国際会議コンテンツをアーカイブし,全国の大学,研究機関の図書館に公開.54の国際会議,約1万2,000件の論文を収納し,2019年4月以降約2万6,000アクセスがあった.古い会議も含め会員からの需要は大きく,拡大に向け国際会議コンテンツWGを設置し推進中.他学会のコンテンツの利用も可能.
・技術研究報告の完全電子化
・通信ソサイエティと情報・システムソサイエティは2018年度から冊子体の発行をなくし完全電子化をスタートし,2020年度から全ソサイエティで完全電子化.
・スマホアプリ活用開始
・アプリで研究会スケジュール配信を2019年10月から開始
・2020年3月総合大会で大会プログラムをスマホコンテンツで提供する大会アプリ提供
・2020年4月から「特殊員」を「購読会員」,全ソサイエティの和文論文誌一括,英文論文誌一括を契約単位に変更
・2018年度の特殊員は276機関であったが,現在購読会員は252機関.
・支部事業の活性化に向けた本部支部連携強化
・大会を利用し,face to faceで会長,支部会議メンバーによる会合実施(2019年9月)
・理事会後に理事会メンバー+東北支部メンバーで拡大幹部会議を施行(2020年2月)
昨年度は創立100周年記念事業の一環として進めてきた「グランドデザイン」の成果であるICT基盤システムを活用し,購読会員の新設,会費制度のシンプル化,マイページの充実,共通検索システム,業務の効率化等の様々な新しい施策について会員の皆様に提供を開始し,大きな成果をもたらしました.図5に,本会ホームページの改善,図6に知識の森アクセスの推移を具体的に示します.まさに今後の会員サービス及び運営の質の向上を図っていくための基盤が整ったと言えます.今年度は,「グランドデザイン」による成果を一層活用することで,広汎な知が交流する場を作り,新たな学術領域をひらき,会員サービスの更なる拡充を継続することを目指して,次のような施策を推進していきます.広汎な知が交流し,新たな学術領域を開き,社会課題の解決や新たな社会のビジョンについて,議論や意見交換ができる機会作りを促進します.そのために,研究会・大会等の魅力あるイベントを開催し,HPやメール,SNSを活用し幅広く案内,周知し,以下に示すように,会員サービスの向上,人材育成,及び,新規会員の獲得を目指します.
(1)ジュニア会員制度の導入
電子,情報通信分野に若い多感な時期より興味を持ってもらい将来のリーダー育成に貢献するため,本制度を創設し,ジュニア会員向けサービスを提供する.
(2)プラチナクラブの充実
主に40歳以上の会員を対象に,学会を自己実現の場に使え,人生を通した研究者・技術者としての充実感を高めるための場を提供する.
(3)維持員サービスの向上
本会を支えて頂く維持員の皆様に対して,感謝の意を表するため「維持員様感謝の集い」を開催する.本会の事業状況を御理解頂くだけでなく,産官学のキーパーソンとの意見交換の場を提供する.その他,ウェビナー(webinar)を利用した,セミナー配信サービス等の提供を検討する.
(4)海外会員サービスの向上
会誌の目玉記事を英文化しHPに掲載する.英語のHPの充実等により,海外会員向けサービスの拡充を進める.
(5)スマホアプリ
会誌アプリについては,既に提供しており,昨年度は研究会スケジュール配信機能を追加し利便性の向上を図ってきた.今後もスマホを活用した各種サービスの提供を進める一環として,総合大会,ソサイエティ大会参加者の利便性を向上するため大会アプリを提供する.
(6)本部と支部の議論の活性化
会員数減少に歯止めをかけるため,支部を通した会員増強,会員へのサービスがより重要になっている.また本部施策に対して支部の考えを反映させる必要がある.このため,本部支部間の議論をより活性化させる体制,方法について検討を進める.
(7)企業スポンサーを活用したサービス
他学会では,企業スポンサーを活用し,会員向けサービスの活性化,選奨等を実施している.会員サービスの充実のため,企業スポンサー制度の活用を検討する.
論文誌・会誌・技術研究報告・ハンドブック等を電子化し利便性の向上を図っています.技術研究報告は段階的に電子化を進めていますが,今年度から完全電子化される見込みです.この一環として,昨年度本会の学術成果である20万件を超えるコンテンツを機関や団体ユーザに十分活用頂くための,購読会員サービスを開始しました.現在,英文論文誌,和文論文誌,会誌,大会・国際会議の各オプションを選択できますが,研究会の技術研究報告を購読会員サービスのオプションに加えることについて検討を進めています.また,サービス委員会,編集連絡会,国際委員会を中心に,会誌の特集部分の英文翻訳化,ブランド英文ジャーナルの早期立上げなどの早期実施に向けた検討を精力的に行います.また,国際会議のコンテンツを一層活用するためIEEEとその取扱いについて調整を進めています.英文論文誌のオープンアクセスについては,2020年から,J-STAGEにおいて英文論文誌Dがオープンアクセス化されます.引き続き,オープンアクセス化の会員数への影響,財務への影響を逐次計測,評価し,収益を上げられるビジネスモデルの明確化,将来の対応方針検討に反映していきます.英文論文誌のインパクトファクター向上に向けても取り組んでいます.海外会員の減少はインパクトファクターが低いことに起因している可能性もあり,これまでソサイエティを中心に議論してきましたが,学会全体でも抜本的に取り組みます.
会誌の特集部分の英文翻訳化,ブランド英文ジャーナルの早期立上げ,海外の方を加えたBoard構成・Intern Activityに関する新企画の着手など,海外の会員サービス向上策の検討を積極的に進めます.また,海外セクションを積極的に活用し,オールセクションズミーティングを通したセクション代表者間での意見交換,情報共有を進めるとともに,各セクションのホームページの充実,セクションと連携した海外での研究会の実施等,国際間交流の一層の活性化を進めています.学会の持続可能な運営を実現するためには,年会費と技報以外からの収益の確保が大切です.他国の学会を見てもコンテンツや国際会議が収益の柱になっています.本会主催の国際会議,ワークショップを立ち上げるための議論を加速し,そのための環境を整備していきます.
産業界からは異業種同士の集まる場の提供,将来の技術動向の情報発信,産学官の連携強化,若手研究者の育成等の期待が寄せられています.また,ICTの関連する産業の裾野は広がっており,そこで活躍する研究開発者を学会に取り込めるよう,産業界及び新規のICT分野の方にとっても魅力的な企画を推進します.また,本会として専門知識に基づく,関係政府・自治体への政策の提言にも力を入れるため,大会等の場を活用し,政府・自治体との対話を更に進めます.更に新たな融合領域開拓を,情報処理学会,電気学会,日本機械学会はじめ,他学会との連携強化を図り進めます.
他の学会と同じく会員数の減少傾向が続いており,引き続き会員サービスの向上と魅力ある学会活動の活性化により,幅広い層からの会員増による収入増に努めます.また,知識の森のような本会独自の有効なコンテンツを活用し,広告収入を得ることを検討しています.更に,研究会事業のように黒字を出している事業を強化し,サービス向上に努めながら,安定した収入を確保できるように最善を尽くします.
あらゆる情報がディジタル化し,コンピュータや人だけでなく‘もの’や‘こと’までも含めたネットワーク化が進み,大きなパラダイムシフトが起こっています.数年後には,「電話」という言葉が用いられなくなっているかもしれません.これからは,パーソナル化・カスタマイズ化に対するユーザの様々な品質要求を十分に満たす通信サービスやコンテンツを提供できるものだけが生き残り,通信環境の利便性・柔軟性・信頼性だけではなく,プライバシーも含めてセキュリティ的にも安心安全であると同時に,文化的薫りが漂う文化的インフラの構築が求められます.このような高度情報化社会では,「独創的アイデアによる創造的な技術開発や研究」がより求められ,「コミュニケーション力とマルチメディア基盤技術をしっかり身に付けた知的集団が,戦略や迅速性を重視し,各々の個性や特徴を最大限に発揮しながらチャレンジを繰り返すことにより,技術のブレークスルーを生み出していく」と考えられます.
このような観点から,私は,これからの技術者・研究者・開発者には,単に技術レベルだけではなく,深い教養と研ぎ澄まされた感性が,共に高いレベルで求められることになると思います.つまり,グローバルな国際社会では,高度なコミュニケーション力と,幅広い分野で広くかつ深い知識をベースにした卓越したスキルを有し,かつ,新たなテーマに果敢に取り組むチャレンジ精神に富む人材がより求められます.そのためには,若い頃からいろいろな物事に深い興味を持ち,感性を磨きながら,世の中で求められる技術ニーズやサービスがどのようなものであるかをしっかり吟味する深い洞察力を身に付けることが重要となります(3).
また,天賦の資質として持っており,向上心のある逸材に対しては,その才能を存分に伸ばすことができるよう叱咤激励して,真のリーダーシップを発揮できるエリートとして育て上げることも極めて大切です.聖書には,至極の福音文が多くありますが,「エリート」とは,タラント(古代地中海世界で使われた質量の単位.通貨単位としても使われた.英語のtalent(才能,能力)の語源)をたくさん持っている者とされ,タラントを更に多くして社会に還元することを責務としてはっきり自覚できる個性あふれる自由人であることが求められています.
広い視野と教養に基づくコミュニケーション力によって,心の通った豊かな(通心)社会を構築できるよう,「通信」に携わっている研究者・技術者は絶えず意識する必要があります.さもないと,通信は,心を痛める(痛心)だけの手段に成り下がってしまいます.重要なことは,「フロンティア精神を持ち,夢をかなえるために,新しいことを思い切ってやり始め,自分の能力を最大限に発揮できるよう絶えずチャレンジする」ことです.独創性豊かなOnly Oneとしてのアイデンティティを持った,世界に通用する優秀な人材を育てることが大切です.「教育の秘けつは,学生を導いて,一方では彼らの仕事に対する愛好心と熟練とを得させ,他方では適当な時期に,何か偉大な事柄に生涯を捧げる決意を抱かせるように仕向けることである」のヒルティの言葉を座右の銘として,更に一層心を引き締めて研究教育に励む所存です.また,企業の方にとっても,若い頃から,積極的な学会活動を通じて,いろいろな方と個々の企業の枠を超えた親密で広範囲な人脈を構築することが,今後ますます求められると思います(4).
私は,「情報通信」の価値が,「いつでもどこでも誰とでも」から,「今だけここだけあなただけ」へと移り変わってきているように感じます.より積極的に参加したいと感じる,「知的好奇心を高める場,自己研鑽・情報交換・交流の貴重な場,文化の薫りが漂う素敵な場」として,本会がより高い存在価値を獲得できるよう精一杯頑張りますので,皆様の温かい御支援と御協力を頂けますよう,どうぞよろしくお願い申し上げます.
(1) 電子情報通信学会パンフレット,2019.
(2) 電子情報通信学会ホームページ,
https://www.ieice.org/jpn_r/
(3) 笹瀬 巌,“難関国際会議への論文投稿を通じた若手の育成―持続可能な研究コミュニティの確立―(第1回電子情報通信学会通信ソサイエティマガジン賞受賞),”信学通誌,no.40, pp.235-239,春号,2017.
(4) 笹瀬 巌,“情報通信・ワイン・オーディオ,”慶應義塾大学広報誌,塾,no.299, p.29, Summer, 2018,
https://www.keio.ac.jp/ja/about/assets/juku/299/299-12.pdf
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