小特集 1. Beyond 5G時代の研究開発が進むべき方向――産業・地域・年代を越えるオープンな協創を実現するために――

電子情報通信学会 - IEICE会誌 試し読みサイト
Vol.107 No.8 (2024/8) 目次へ

前の記事へ次の記事へ


Beyond 5G時代を支える光ネットワークの技術動向と展望

小特集 1.

Beyond 5G時代の研究開発が進むべき方向

――産業・地域・年代を越えるオープンな協創を実現するために――

Direction of R&D in Beyond 5G Era: To Realize Open Co-creation across Industries, Regions, and Generations

石津健太郎

石津健太郎 正員:シニア会員 国立研究開発法人情報通信研究機構Beyond5G研究開発推進ユニット

Kentaro ISHIZU, Senior Member (Beyond 5G Research and Development Promotion Unit, National Institute of Information and Communications Technology, Koganei-shi, 184-8795 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.107 No.8 pp.750-757 2024年8月

©2024 電子情報通信学会

Abstract

 Beyond 5Gをモバイル通信システムの進化系と理解すると,研究開発の方向性を見失うかもしれない.人間中心の社会の実現を提唱するSociety 5.0の実現に当たっては,技術主導の議論を行う前に,まず実現したい夢の未来生活を描き,取り組むべき研究テーマを導く必要がある.しかし,ニーズが多様化する社会では,独立した研究成果だけでサービス化することは難しく,産業・地域・年代を越えて協創できるオープンな情報通信プラットホームが必要だ.本稿では,筆者の所属するNICTの取組みを中心に,Beyond 5Gの研究開発において進むべき方向性と動向を紹介する.

キーワード:Beyond 5G,アーキテクチャ,オープンイノベーション,サイバーフィジカルシステム

1.Beyond 5G時代に求められること

 インターネットを含む情報通信システムは世界中の様々なサービスに活用され,今や現代生活には欠かせない重要な社会基盤である.これを移動しながら利用可能にする移動通信システムが組み合わさり,スマートフォンを活用したアプリケーションが拡充されるにつれて,この20年間で人間の生活様式が大きく変わった.

 2030年頃から利用が想定される次世代の移動通信システムであるBeyond 5Gは,単に5Gの性能向上に加えて新たな特徴を導入するものと理解されがちだが,ここではビジネスの在り方にまで影響を与え得るプラットホームとして広く捉え,2030年以降の人間生活や産業が転換する契機だと考えたい.

 情報通信システムが支えるサービスの範囲が広まり,技術が複雑化するとともに,構成要素であるシステムが多岐にわたる.従来の方法では有効に情報通信システムを扱うことはできなくなり,産業を越えて利用者主体でシステムが構成されるような,一種の産業革命が必要なのかもしれない.

 これに伴い,要素技術の重要性や位置付けが変わりつつある.本小特集の光ネットワーク技術についても同様であり,この技術に携わる者が,新たな情報通信システム全体の進化の方向を見極め,研究開発に貢献していくことが求められる.

 そこで本稿では,2030年代に想定される未来生活,Beyond 5Gのオープンサービスプラットホームとしての役割やそれを取り巻く国内外の具体的な動きについて紹介する.Beyond 5Gについて視点を高くし,分野を越えて一緒に議論していくきっかけとして頂ければ幸いである.

2.Society 5.0とサイバーフィジカルシステム

 2030年代には,我々の生活は仮想世界(サイバー空間)と現実世界(フィジカル空間)が融合された情報通信システムにより支えられ,人間が身体的・物理的な限界を越えて活動することができると期待され,この概念はSociety 5.0(1)として提唱されている.

 サイバー空間とは,現実空間からセンシングされる情報に基づきコンピュータの上に再現された空間であり,データを蓄積し,人工知能や機械学習により事象を予測する.一方で,フィジカル空間とは我々が実際に生きている空間であり,サイバー空間から最適にアクチュエーションを行うことにより,サービスを実現する上で最適な機能構成やパラメータ設定に反映していく.このようなシステムをサイバーフィジカルシステム(Cyber Physical System, CPS)と呼び,社会に新たな価値を生み出していく基本概念である.図1に示すように,サイバー空間とフィジカル空間の情報と制御は循環的に繰り返され,持続的に動作することが想定されている(2)

図1 サイバーフィジカルシステム(CPS)  コンピュータ上に再現された仮想空間(サイバー)と人間が活動する現実空間(フィジカル)の間で情報が交換されて循環的に進化するSociety 5.0の基本となるシステムの考え方.

 CPSの概念自体は最近になって提案されたものではない.しかし,Beyond 5G時代になって多様な特徴を持つ無線通信技術によりあらゆるシステムとの通信が可能になり,それが光ネットワーク技術をはじめとする大容量の有線通信技術に支えられると同時に,生成AIのように実用的になった人工知能技術が高度な最適化を実現する.今がまさに,本格的なCPS利用の幕開けと言える.そして,CPS利用においてBeyond 5Gが基盤になるということである.

3.Beyond 5Gと6Gの違い

 5G(第5世代移動通信システム)の次の世代のシステムの名称は,6G(第6世代移動通信システム)と考えるのが自然であろう.実際,海外では6Gという名称を冠した政策議論や研究開発プロジェクトが始まっている.一方で日本では,総務省をはじめとして6Gという名称は使わず,Beyond 5Gという名称を使って研究開発が始まっている(3).筆者の所属部署もBeyond 5Gを冠しており,既に3年間の活動を行ったところだ.それでは,Beyond 5Gと6Gの違いは何であろうか.

 Beyond 5Gは明確に定義されていないが,現在のところ以下のように二つの考え方があるようだ.

 一つ目は,第1世代から続いてきた延長線上に5Gや6Gがあり,Beyond 5Gは5Gよりも先の世代である6G,7G,8Gなどを総称したものという定義である.現在進められている研究開発の成果は,必ずしも2030年に実用化されずその先に開花することもあり,そのタイミングはビジネス動向に左右される側面も大きい.時期を厳密に特定せずにBeyond 5Gと呼ぶわけだ.

 二つ目は,Beyond 5Gを単に従来の範ちゅうとしての移動通信システムではなく,有線通信技術,セキュリティ,人工知能,などの将来のサービスを実現する上で必要となる技術を一体的に捉え直すというものである.標準規格で言えば3GPPの範囲を超えるものであり,多種多様な産業のサービス基盤となる意味合いが強い.Beyond 5Gの要素技術の例を表1に示し,それらを組み合わせて構成するBeyond 5Gの全体システムの例を図2に示した.Beyond 5Gは情報通信技術を総動員するとともに,アプリケーション技術も一体として議論される必要があることが分かる.

表1 Beyond 5Gの要素技術の例  NICTホワイトペーパー<sup>(4)</sup>からの抜粋であるが,Beyond 5Gに求められる要素技術はこれに限るものではなく,かつ,全てを単独の事業者や研究機関が実現できるものではない.

図2 Beyond 5Gを構成するシステムの例  フィジカル空間におけるシステム構成の例であり,地上から上空までを無線システムがカバーし,それを光ネットワークや共用コンピュータ資源などが支えるというように,かなり複雑なシステムとして構成される.

 日本の研究者をはじめとする関係者の努力により,“Beyond 5G”の名称は日本発で海外に広まりつつある.上記のようにBeyond 5Gには大きなビジョンを内包しており,その内容は世界に誇れるものだと考えている.それを着実に実現できるように,更なる努力が必要だ.

4.2030年の未来生活

 2030年以降は人間の様々な制約を越えて,「誰もが活躍できる」「持続的に成長する」「安心して活動できる」社会が期待される(1).NICTでは,有志による研究者が集い,実現すべき未来生活について議論を重ね,その結果を物語形式にまとめて,Beyond 5G/6Gホワイトペーパーとして2021年3月に公開し,研究開発の出発点とした(4)(6)

 ホワイトペーパーに登場するシナリオは,人型ロボットを遠隔操作して生活する,月面都市を建設する,物流や交通が上空を活用する,などであるが,一見すると非現実的な妄想に聞こえるかもしれない.しかし,現時点で幾つかの取組みが始まっているように(7)(9),着実に実現しつつある.

 以下にその未来生活シナリオの一端を紹介する.なお,図3のように映像化してYouTubeに公開しているので,興味ある方は御確認されたい(10)

図3 Beyond 5Gにより身体,時間,空間の制約を越えた未来生活  ホワイトペーパーから作成したアニメーションの一コマ.

【身体の制約を越えると・・?】

 とある開発会社の課長さんの一日.海外の工場でシステム障害が発生したが,現地のロボットに乗り移って作業開始.感触も問題なく伝わるし,あたかも現場にいるように修理ができた.午後には息子の授業参観があるが,以前から会社の重要会議が入っていた.AI分身ロボットを使って両方に参加しよう.会議では重要なタイミングで発言ができたし,息子も喜んでくれた!(図3(a))

【時間の制約を越えると・・?】

 月面都市の建設が始まり,月旅行ツアーも始まりそう.建設作業は,人間が地球から遠隔で乗り込んだアバタロボット(注1)が活躍.地球との通信遅延はどう解決するのか? 正確に位置を把握する必要があるのにGPSがないのも問題だ(図3(b)).

【空間の制約を越えると・・?】

 物流や人の移動は,もはや地上だけではなく,上空を活用する時代.ドローンや空飛ぶ車が縦横無尽に飛び交い,しかも衝突することはない.物流倉庫は上空に設置されてドローンが一直線に運搬する.移動や待ち時間に費やしていた時間をクリエイティブで人間らしい生活のために使えるようになった(図3(c)).

5.産業を越えるBeyond 5G時代のサービス

5.1 多様なシステム

 Beyond 5G時代のサービスは,図2の例で示したように,様々なシステムが組み合わさって構成される.個々のシステムはサービス全体から見ればサブシステムと言ってよいが,ますます技術分野が広がるサービスは,もはや単一の事業者が提供できるものではなくなる.利用者の要求に応じて必要なシステムの組合せが選択され,機器設定やインセンティブ交換が適切に行われる必要がある.

 業種を越えるシステムの連携の概念を図4に示す.各業種の中ではこれまで以上に連携が進み,電波やエネルギーなどの限られた資源を効率的に利用するとともに(同業種),産業を越えてシステムを連携させて社会全体として新たな価値を持つサービスを生み出していくことになる(異業種).サービスを構成するシステムが複雑化すれば,電力や道路などの異業種のリソースにまで扱う対象を広げて考える必要があるのだ.

図4 業種を越える連携とオーケストレーションの概念  同業種の組織を越えたシステム連携に加えて,異業種を越えたシステム連携も必要であるが,これを実現するためには組織を越えたオーケストレーションが必要.

5.2 求められるプラットホームと課題

 これからより多くのシステムを扱うことになると,従来のように人間が扱うことは難しい.全体を俯瞰して業種を越えてシステムを連携する機能が必要となる.この機能をオーケストレータと呼び,ここに機械学習や人工知能を活用すれば,これまでに人間に発想がなかったサービスや利用者要求を最適に満たすことができるサービスを構成することが可能になる.この概念に基づくサービスプラットホームがあれば,ビジネス参入の機会を得ることが難しかった中小企業や,様々な制約で活躍が難しかった発展途上国の企業が,サービス提供のエコシステムに参入して活躍する可能性も出てくるであろう.なお,オーケストレータという名称は,特に各通信事業者の内部で,複雑なシステムを統合的に扱うための調停機能を指して呼ばれることもある.本稿では,その外部でシステム提供者を横断して調停するための機能としてオーケストレータと呼ぶ(11)

 業種を越えて価値を生むユースケースの例として,ドローン配送事業者,自治体,自動運転バス事業者の組合せを考えてみる.現在はそれぞれの組織にデータが閉じているが,①ドローン配送事業者が配送中に副次的に撮影した道路の画像を自治体に共有,②自治体はその画像を分析して運転に注意が必要な要注意道路を特定,③自動運転バス事業者は自治体からその情報を共有されて安全で快適な運送サービスを実施,ということが可能になる.多様なシステムがBeyond 5G技術によりCPSとしてつながり,一つのサービスが実現している.パーツとしてのシステムが増えれば,このようなサービスは無数に生まれ,新たな価値を生む組合せや設定をオーケストレータが担うことになる.

 一方で,このような方法でサービスを実現していけば,倫理,法律,社会制度の観点から課題は増大するはずだ.限られた専門家により創っていける世界観ではない.研究者には,異なる課題を持つ産業分野,地域,年代を越えた議論を,これまで以上に展開することが求められる.

6.海外における議論

 前述したBeyond 5Gによるオープンサービスプラットホームについて,海外の有識者や研究者はどのように感じているのだろうか? 以下に,筆者が最近関わった三つの事例を通してその一端を示す.

6.1 Internet Governance Forum 2023(IGF2023)

 IGFは,インターネットに関する諸課題について,国連主催の下,政府,民間,技術・学術コミュニティ,市民社会等の多様な関係者が対等な立場で対話を行う,インターネット政策の分野では最も重要な国際会議である.2006年に第1回目の会合が開催された後,毎年開催されている.第18回目となるIGF2023は初めて日本がホスト国となり,2023年10月8~12日に国立京都国際会館で開催された(12)

 IGF2023のセッションの一つとして,NICTがBeyond 5Gに関わるパネルセッションを企画した.テーマは“Future Network System as Open Service Platform in Beyond 5G/6G Era”として,前述したようにBeyond 5G/6G時代における情報通信サービスは産業を越えたシステム連携がイノベーションを起こすことにより実現されるのではないかという視点から,Beyond 5G/6Gによるオープンなサービスプラットホームの可能性や課題を議論するものであった.パネリストには,世界各国において当該テーマの研究開発や社会実装に影響力があると思われる有識者を招聘し,筆者がモデレータを務めた(図5).

図5 IGF2023におけるパネルセッション  南アフリカ,米国,フィンランド,シンガポールの世界各地から異なる役割を持つ有識者が集い,Beyond 5G時代のオープンサービスプラットホームに関して活発な議論を行った.

 議論の結果として,Beyond 5G/6Gにおいて,途上国・中小企業等も参画できるオープンなサービスプラットホームやエコシステムを構築することの重要性について共通認識があることが確認できた.一方で,Beyond 5G/6Gの実現に当たっては,必ずしも輝かしい側面だけを考えればよいわけではないという指摘があり,周波数利用やエネルギー消費の問題などの課題を認識して解決する必要性や,業界が連携して持続可能なエコシステムの実現をする必要性が指摘された.更には,5G導入においては,業界が社会の期待値を上げ過ぎたという反省点も挙げられ,Beyond 5Gの実現に向けては失敗を繰り返さないことに留意すべきという指摘もあった(13)

6.2 日独Beyond 5G/6G研究ワークショップ

 ドイツと日本のBeyond 5Gや6Gに関連する研究者が集い,連携の可能性を探るため,NICTと独6G Platformの主催により日独Beyond 5G/6G研究ワークショップを開催している.2023年4月に第1回(日本),2023年6月に第2回(ドイツ),2024年2月に第3回(日本)を開催した.参加者の数だけでなく分野も広がっており,第3回では80名以上の参加があった(図6).ワークショップでは,パネル議論,ポスター展示,デモ展示などによりインタラクティブに意見交換することとし,プレゼン大会にならないよう意識することで,研究者の共通認識の醸成や人脈形成への時間確保を重視した(14)

図6 第3回日独Beyond 5G/6G研究ワークショップ  2024年2月に開催したものであるが,第1回や第2回と比較しても参加者が多く,日独間で具体的な連携が進んできたことの証であろうか.

 このワークショップの中では,オープンな協創を支える仕組みとしてのBeyond 5Gも話題に挙がった.一例として,話題に上がったOpen RANは,様々なベンダの機器の相互接続インタフェースを標準化することにより,モバイルシステムの構築において機能・性能・コストが異なるソフトウェアやハードウェアを高い自由度で組み合わせることを可能にする.これに加えて,Open RANは外部のアプリケーションにより無線アクセスネットワークの制御を可能にするインタフェースを持ち,他の産業が持つデータや高度なアルゴリズムを持つオープンソースソフトウェアを活用できることから,独自のシステムでは実現できない新たな価値を生む可能性についても議論があった.

6.3 MWC Barcelona 2024

 NICTでは,4.に示した未来社会や5.に示したクロスインダストリーの意義を非専門家にも分かりやすく伝えるため,仮想現実技術を活用した体験ツールを開発した(15).展示会や講演会において説明する多くの機会を頂き,各業種の新規事業担当の方から小中学生に至るまで,多くの方に見て頂いている.

 その展示の一つとして,2024年2月にバルセロナで開催されたMobile World Congress(MWC)Barcelona 2024における展示の様子を紹介する.MWCは世界最大級のモバイル技術見本市であり,モバイル関係者のみならず,異業種による情報収集や議論の場にもなっている.今回は,総務省が主催する日本パビリオンの中で,図7に示すペーパードームを準備し,内側には上述した体験ツールのストーリーを再構成して投影した.人間の実物アバタであるロボットが人間と協調して労働する一方,空飛ぶ車が縦横無尽に駆け巡る様子や,オーケストレーションによりそれらの産業間がつながって社会課題を解決するストーリーを描いている.来場者にはドームの外側にメッセージを残していただいた.Beyond 5Gコンセプトの着実な実現に努力する日本への応援や共感が多かった.

図7 MWC2024におけるドームと書き残されたメッセージ  ドーム内部には未来生活を描いた映像を投影し,ドーム外部にはメッセージを書き残して頂いた.

7.「異業種×情報通信」に対する取組み

 産業の垣根を越えて情報通信サービスの在り方を考えていく取組みは幾つかある.Beyond 5G新経営戦略センターが実施しているリーダーズフォーラム(16)では,各企業の次世代を担う30代と40代の若手が,通常であれば自由な発想の障壁となりがちな企業の壁を越えて,個人レベルの信頼関係に基づき未来を密に語っている(17).また,このリーダーズフォーラムの卒業生有志等が中心となり,多様な人材が情報通信・ディジタルと多様な分野・産業との架け橋を担う場としてXG Igniteが立ち上がり,多様な分野や産業における課題とニーズを掘り下げ,Beyond 5Gの社会実装に向けた架け橋を担う活動を展開している(18)

 また,筆者が率いるNICTのチームでも,ゼログラビティイベントと称して「研究者×異業種」をテーマに,研究者が持つとがった知識と事業担当者が感じるサービスの課題意識を持ち寄り,先端的な技術から未来のサービスを想像するアイデアソンを継続的に実施している.これまで,建設,農業,電力,運輸,医療などの業種から識者を招待し,特に研究者は自らが社会から求められている実感を得てモチベーションを上げることにもつながっているようだ(図8(19)

図8 NICTが主催するゼログラビティイベントの様子  Beyond 5Gをテーマにして「研究者×異業種」をつなぎ,参加者が対等な立場で議論することにより,社会に新たな鍵をもたらすサービスを議論した.

 日本学術会議でも,研究成果を産業化して価値を生むためにはイノベーションが必要であり,そのためには研究者だけでなく,マーケティング,広報,事業開発などの担当者から構成される包摂共生型価値獲得チームが一体となり取り組むことが必要であるとの見解が示されている(20)

8.ま  と  め

 本稿では,Beyond 5Gが単なるモバイル通信システムの延長ではなく,産業をつなぎ新たな価値を生むためのプラットホームの側面を併せ持つことと,その概念が世界的にも賛同を得られつつあり,様々な取組みが行われていることを解説した.Beyond 5Gの要素技術となり得るテーマを持つ研究者の皆様は,既に産学や海外との連携を意識して研究開発に従事されていると考えているが,2030年以降のBeyond 5G時代に向けては特に産業構造が変化しつつあることを念頭に置いて,情報通信技術をハブにしたオープンイノベーションの実現を一緒に担っていければと考えている.

文     献

(1) Society 5.0,内閣府Webサイト.
https://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0/society5_0.pdf

(2) 総務省,“Beyond 5G推進戦略―6Gへのロードマップ―,”June 2020.

(3) 革新的情報通信技術(Beyond 5G (6G))基金事業.
https://b5g-rd.nict.go.jp/

(4) 情報通信研究機構,“Beyond 5G/6G White Paper日本語3.0版,”March 2023.

(5) 石津健太郎,“NICTのBeyond 5G研究開発が目指すこと―NICTホワイトペーパーに込めた思いとは?―,”信学技報,SR2022-1, May 2022.

(6) “Beyond 5G/6Gホワイトペーパー作成の裏話,”NICT NEWS, 2021 no.6通巻490, 2021年11月.

(7) オリィ研究所,“分身ロボットカフェ,”DAWN.
https://dawn2021.orylab.com/

(8) NASA,“アルテミス計画.”
https://www.nasa.gov/specials/artemis/

(9) 2025年日本国際博覧会協会,“2025年日本国際博覧会『未来社会ショーケース事業出展』「スマートモビリティ万博」空飛ぶクルマの会場内ポート運営及び運航事業について,”Feb. 2023.

(10) YouTube, NICTchannel,“Beyond 5G時代の未来生活とは? 3シナリオ統合版(「Cybernetic Avatar Society」「月面都市」「時空を超えて」).”

(11) K. Ishizu, M. Azuma, H. Yamaguchi, A. Kato, and I. Hosako, “Architecture for beyond 5G services enabling cross-industry orchestration,” IEICE Trans, Commun., vol.E106-B, no.12, pp.1303-1312, Dec. 2023.

(12) Internet Governance Forum 2023公式Webサイト.
https://www.intgovforum.org/en

(13) 第42回(2023年12月20日)総務省情報通信審議会情報通信技術分科会技術戦略委員会,“(資料42-1)IGF2023におけるBeyond 5G関連パネルセッションの報告(石津オブザーバ資料),”Dec. 2023.

(14) NICTニュースレターXross B5G,通巻1号,March 2024.

(15) 山口明哲,石津健太郎,城山直美,東 充宏,加藤明人,鈴木 臣,荻原洋一,寳迫 巌,“Beyond 5Gにより実現される未来生活とオーケトレータによる全体最適化に関するVR体験システム―情報通信技術の非専門家を巻き込んだ議論加速に向けた取り組み―,”信学技報,SR2023-52, pp.28-35, Nov. 2023.

(16) Beyond 5G新経営戦略センター,“リーダーズフォーラム.”
https://b5gnbsc.jp/leaders.html

(17) リーダーズフォーラム一同(石津健太郎ほか),“Beyond 5G時代を牽引するリーダーズはいかにして企業の壁を乗り越えたのか~リーダーズフォーラム第2期を終えて~,”電波技術協会FORN 2023年11月号,Nov. 2023.

(18) Beyond 5G新経営戦略センター,“XG ignite.”
https://b5gnbsc.jp/xg-ignite.html

(19) NICT,“第4回Beyond 5Gゼログラビティイベント時空を超えて実現したいこと.”
https://beyond5g.nict.go.jp/sakura/sakura20240201.html

(20) 日本学術会議電気電子工学委員会通信・電子システム分科会,“情報通信分野を中心に据えた産業化追求型(価値獲得型)研究開発プロジェクトの推進,”Sept. 2023.

(2024年3月18日受付 2024年4月1日最終受付) 

石津健太郎

(いし)() (けん)()(ろう)(正員:シニア会員)

 2001九大・工卒.2005同大学院博士後期課程了.博士(情報科学).同年情報通信研究機構(NICT)入所.コグニティブ無線,テレビホワイトスペース通信,ローカル5G等の研究開発を主導.現在,NICT Beyond5G研究開発推進ユニットBeyond5Gデザインイニシアティブ長.本会スマート無線研専副委員長.


(注1) アバタは自分の分身となるキャラクタ像のことでありメタバース空間でよく用いられる用語であるが,アバタロボットとは現実空間において遠隔で人間が乗り移り,あたかも自分のように活動できるロボットを指す.


オープンアクセス以外の記事を読みたい方は、以下のリンクより電子情報通信学会の学会誌の購読もしくは学会に入会登録することで読めるようになります。 また、会員になると豊富な豪華特典が付いてきます。


続きを読む(PDF)   バックナンバーを購入する    入会登録

  

電子情報通信学会 - IEICE会誌はモバイルでお読みいただけます。

電子情報通信学会誌 会誌アプリのお知らせ

電子情報通信学会 - IEICE会誌アプリをダウンロード

  Google Play で手に入れよう

本サイトでは会誌記事の一部を試し読み用として提供しています。