堀 俊和
システム多様化に応える実用アンテナ技術の変遷
本稿では,アンテナ・伝播研究専門委員会の発足50周年を記念して,1960年代以降の約50年間のアンテナの発明・研究開発に着目し,日本における無線システムの変遷,無線システムのための実用アンテナの研究開発の経緯,技術の推移について概括する.ここでは,通信及び放送等の情報通信システム用として研究開発され,実用されたアンテナを主たる対象としている.
システム多様化に応える実用アンテナ技術の変遷
本稿では,アンテナ・伝播研究専門委員会の発足50周年を記念して,1960年代以降の約50年間のアンテナの発明・研究開発に着目し,日本における無線システムの変遷,無線システムのための実用アンテナの研究開発の経緯,技術の推移について概括する.ここでは,通信及び放送等の情報通信システム用として研究開発され,実用されたアンテナを主たる対象としている.
アンテナ技術を支える解析技術の礎
電磁界解析の歴史は古く,マクスウェルの方程式が完成した1864年以前から始まっていたと言っても過言ではない.したがって,歴史を含めて全ての電磁界解析技術を網羅的に解説することは,これまでの50年に限ったとしても極めて困難である.そこで本稿では,筆者が経験してきたことを中心にアンテナ及び電波伝搬に関連する主な電磁界解析技術,特に数値電磁解析技術の変遷とその基本的な考え方を簡単に紹介し,今後の発展の方向性を探る一助としたい.また,筆者の誤解や独断的な表現も少なからず含まれていると思われる.御容赦頂きたい.
電波伝搬モデルの源流から潮流までを俯瞰する
自然現象の解明に奮闘し,通信システム設計に有用な電波伝搬モデル構築や研究指針を示した先人たちの足跡を訪ねてみたい.ここに取り上げる例は,いずれも,我が国の先達がその構築に主導的役割を担い,かつ,今日の無線通信の基礎となっている伝搬研究とその結晶である伝搬モデルである.具体的には,移動伝搬理論を支える確率分布:仲上n分布(今日の仲上・ライス分布)と仲上m分布を生み出した仲上稔氏の研究,陸上移動伝搬の概念構築と回線設計手法を打ち立てた奥村善久氏の研究開発,広帯域移動通信時代を予測してアンテナ(A)・伝搬(P)・システム(S)の融合研究(A・P・S三位一体研究)を提唱した池上文夫氏の思想,そしてもう一つの無線通信の重要課題,降雨減衰のモデル化に取り組んだ森田和夫氏の研究開発を取り上げる.
未来へのメッセージ
我が国でのアンテナ・電波伝搬の研究が本格的に開始され50年を超える.この分野での研究開発の成果は各種の無線システムの発展に大いに貢献してきた.本稿では,これまでの50年の歴史の全体像を振り返り,今後のこれからの50年への可能性について述べる.また,本小特集の各章の構成と位置付けについて説明する.
無線通信で高速伝送を実現するための要素技術
本稿では,将来の信号処理アンテナ,すなわちアダプティブアンテナやMIMOシステムの50年先について,無線通信システムをターゲットとした場合に筆者が考える将来展望について解説する.現在,信号処理アンテナはWi-FiやLTEにMIMO伝送として実用化され,既に無線通信の分野で高速伝送を実現する上で必須技術となっている.一方で,アダプティブアンテナに関しては,その概念が1950~1960年代から提案されたものの,移動通信用途ではほとんど導入されなかった.本稿では,信号処理アンテナの代表であるアダプティブアンテナとMIMOシステムを例にとり,両者の技術の進化と研究開発における経緯を振り返る.次に過去に培われた技術が5Gシステム等の将来システムの核となるMassive MIMOで非常に重要となっている点に着目し,将来の信号処理アンテナに関する展望について述べる.