森川博之
コモディティ化が進むICT,研究開発は how から what へ
ICTの「日用品化」が進みつつある.このような局面においてこそ,「面白いストーリー」が必要となる.どのように(how)実現するのかではなく,何を(what)行うのかに,より重きを置いて社会をデザインしていかなければいけない.本論では,ストーリーとしての研究開発がICT分野において必要となることを,建築学,インベンションとイノベーション,汎用技術とフィールド志向,初島会議での議論模様も踏まえながら紹介する.
コモディティ化が進むICT,研究開発は how から what へ
ICTの「日用品化」が進みつつある.このような局面においてこそ,「面白いストーリー」が必要となる.どのように(how)実現するのかではなく,何を(what)行うのかに,より重きを置いて社会をデザインしていかなければいけない.本論では,ストーリーとしての研究開発がICT分野において必要となることを,建築学,インベンションとイノベーション,汎用技術とフィールド志向,初島会議での議論模様も踏まえながら紹介する.
人間主義的な思想に実用性の本質がある
近年,「デザイン思考」と呼ばれる概念が,ビジネス界,学界,更に政府機関,財団,職能団体の関心を集めている.消費者のための製品開発を行っていなかった業界でさえ,デザイナーが何をし,どのように考えるかに興味を持ち始めている.そこで本稿では,デザイン思考の魅力を調査し,歴史的な経緯と基礎的な考え方について述べるとともに,デザインの専門内外で関連して生じている事項を解説する.
デザイン思考が広汎に適用されたのは比較的新しく1990年代から広まり始めたが,その起源は更に古い.そこで,まずデザイン思考の起源を明らかにし,次に,工学,企業,金融,教育等の多様な分野におけるデザイン方法論の適用を含め,デザイン思考への関心が急激に上昇した軌跡をたどる.
デザイン思考を単純な線形プロセスとしてみなすことが一般的になりつつある.初学者に「観察(observe),生成(synthesize),プロトタイプ(prototype)」と説明するウィキペディアのページさえある.しかし,現実は,はるかに多様であるので,デザイン思考は「方法論(methodology)」というより「思想(philosophy)」と捉えた方がよいだろう.
専門分野を横断し複合的な課題に取り組む
大学においてデザイン学の教育を行う背景や動向と,カリキュラムの設計理念について述べる.デザイン学は,情報学,機械工学,建築学,経営学,心理学など,既に確立された多くの専門領域に関わる.このため,専門を同じくする教員が集まり学部や研究科を構成している大学にとって,デザイン学の教育プログラムの実装は容易ではなく,各国で様々に試みられている段階である.そこで,デザイン学の教育に関して一般論を述べた上で,京都大学デザインスクールを含む国内外の試みを紹介する.
組織の壁を越えてプロジェクトを育てる環境作り
日本企業はイノベーションに常に挑戦し続けているが,シリコンバレーのようには実現していない.筆者らは,その最大の原因が,文化と制度の両面にわたる「自発的活動への制限」だと考えている.今回,試験的に,多くの社員たちの自由な意思と発想を尊重し,彼らの思いに沿って,会社の力を全面的に使えるように支援した.その結果,社内外のメンバーから成る自発的なチームが多数結成され,多くの活動が生まれた.一部では売上も出始めている.その成功と課題について紹介する.