特集 量子機械学習   1. 量子リザバーコンピューティングの新展開 Progress in Quantum Reservoir Computing

特集 量子機械学習
 
1. 量子リザバーコンピューティングの新展開
Progress in Quantum Reservoir Computing

p.1134
チャンクオックホアン 中嶋浩平

量子複雑系を用いる型破り計算の古典・量子学習タスクへの応用
 量子リザバーコンピューティングは物理システムの量子性を利用し,簡単な学習戦略と組み合わせることで,機械学習タスクへの優れた性能を発揮する.このような従来と異なるコンピューティング手法への関心は近年著しい高まりを見せている.それは,実装に適した多様な量子プラットホームが利用可能になったことや複雑な量子系の研究における理論的進歩が要因となっている.本稿では古典タスクや量子タスクを考慮した量子リザバーコンピューティングの幅広い可能性を示す.量子リザバーコンピューティングの動作原理から物理実装まで最近の研究動向を紹介し,未解決課題と今後の展望について議論する.

特集 量子機械学習   2. 量子計算の効率的なシミュレーション Efficient Simulation of Quantum Computing

特集 量子機械学習
 
2. 量子計算の効率的なシミュレーション
Efficient Simulation of Quantum Computing

p.1142
鈴木泰成

量子計算機を使わずにその振舞いはどのぐらい調べられるだろうか?
 量子計算を実用的な機械学習の効率化に応用するには,その振舞いを数値計算により調べる量子計算のシミュレータが不可欠である.ところが,一般に量子計算機は通常の計算機では効率的にシミュレートできないため,数値計算の遅さがしばしば研究開発のボトルネックとなる.本稿ではまず現実の量子計算機をシミュレートする素朴な実装を紹介し,これを基軸として量子計算のシミュレートを高速化する種々の手法を紹介することで,用途に応じどのような解析手法を選ぶべきかの指針を示す.

特集 量子機械学習   3. 量子多体問題への機械学習 Machine Learning for Quantum Many-body Problems

特集 量子機械学習
 
3. 量子多体問題への機械学習
Machine Learning for Quantum Many-body Problems

p.1150
野村悠祐

機械学習手法を用いて量子多体系の非自明な物理を探ろうとする動きが加速している
 量子力学に従う多数の自由度が互いに相互作用し合う系を量子多体系という.現代のテクノロジーを支える磁石や超伝導などはまさにこの量子多体現象であり,量子多体系の理解は重要な課題である.本稿では,量子多体系における非自明な相関(自由度の間の量子もつれ・絡み合い)を,人工ニューラルネットワークに“埋め込む”新たな試みについて紹介する.

特集 量子機械学習   4. 量子状態識別の数理の広がり On the Mathematical Development of Quantum State Discrimination

特集 量子機械学習
 
4. 量子状態識別の数理の広がり
On the Mathematical Development of Quantum State Discrimination

p.1158
秋笛清石 加藤 豪

量子情報処理に内在する普遍的な限界に,状態識別という観点から迫る
 量子情報処理は,暗号や関数計算をはじめとする応用先に加え,近年機械学習におけるその可能性も期待され,精力的に研究が進められている.その更なる発展のためには,量子情報処理に内在する普遍的な限界を明確化することも重要である.その際,量子情報処理に特有な性質を有する情報読出し部分に着目し,その限界を究明するのが量子状態識別である.本稿の前半では量子状態識別の基本的数理を解説し,後半では近年発展の目覚ましい,分散形量子情報処理における状態識別の最適化についてその数理課題としての重要性を交えて紹介する.

特集 量子機械学習   8. 量子機械学習におけるデータロード,回路設計,そして観測 Data Loading, Circuit Optimization and Measurement in Quantum Machine Learning

特集 量子機械学習
 
8. 量子機械学習におけるデータロード,回路設計,そして観測
Data Loading, Circuit Optimization and Measurement in Quantum Machine Learning

p.1189
山本直樹 レイモンド ルディー

機械学習を量子計算機で実行するための基本タスクを紹介
 誤り耐性を有する理想的な量子計算機は,重ね合わせの原理などの量子力学の性質を利用することで,従来形計算機より少ないリソースで特定の計算タスクを実行する.しかし,現在を含め当分の間は,誤り耐性を持たない量子計算機のみが利用可能である.このような限定された状況で何ができるかについて,変分量子回路法をはじめとし,近年盛んに研究がなされている.機械学習もそのターゲットの一つである.特に機械学習では,データをいかに効率的に量子計算機に読み込ませるか(ロードするか),ロードしたデータをいかに効率良く量子回路で計算するか(量子回路設計),そして計算結果をいかに取り出すか(観測の最適化)が,量子計算機の優位性を保証するための鍵となる.本稿では,この三つの問題を軸に,筆者らの最近の研究を幾つか紹介する.